―人財採用で苦労していたことを教えてください。
求職者に「どんな仕事なのか」がなかなか伝わらなかったことです。当社がおもに求めているのは、タフな営業をしてインセンティブで稼ぐような「営業職」と、デスクワークに徹する「営業事務職」の、ちょうど中間の性格の職種。でも、求人媒体に出す広告では伝えられる情報に限りがあり、うまく伝わっていませんでした。
―採用オウンドメディアによって、なにが変わりましたか。
新卒1年目社員の座談会記事などを通して「業務内容」を、社長と専務の対談記事などを通して「社風」を理解して応募してくれるように。しかも、コロナ禍で求職者が増えていることもあり、5月だけで30名の応募がありました。
そのなかには、MARCH・関関同立レベルの大学出身者や、これまでリーチできていなかった地方在住者も含まれています。オンラインで完結するので、ポスト・コロナ時代の採用活動として、非常に有望だと思います。
いままでは合同説明会やエージェントを通して採用活動をしていましたが、採用オウンドメディア1本にしぼっても、目標とする採用の数と質を確保できるのではないか、という見通しが出てきています。採用コストを大幅に下げられそうです。
―なぜ、自社の採用メディアを立ち上げたのでしょう。
応募者の当社への理解が足りていなかったからです。私たちはITベンチャーとして、「成長意欲の高い人財であれば、未経験でもOK」という条件でエンジニアを募集。求人媒体へ広告を出せば、応募はあるのですが、当社がSES事業を展開していることを知らずに応募してくる方も。
たとえば、当社には「感謝・成長・恩返し」という企業理念がある。これに共感して応募してくれる方は「ほかの会社ではなく、当社で働くこと」に意義を感じているので、入社後に長く活躍してくれる可能性が高い。でも、これまでは「ふだんの仕事と、理念がどのように結びついているのか」などを、社長が直接、面接の場で応募者に伝えるしかなかったんです。
―それがどう変わりましたか。
採用オウンドメディアに、社長自身が理念誕生の経緯を語るコンテンツなどをアップ。ここを経由して応募してきてくれた方は7~8割、企業理念を面接前に知ってくれているように。これまでは社長ひとりが採用を担っていましたが、これによって、社長の負荷を大幅に軽減することができました。
応募者数の面でも、立ち上げ2ヵ月後から、少額の広告運用費で毎月30名弱の応募があり、効果を実感しています。
―採用オウンドメディア立ち上げの効果を教えてください。
面接の場で、私たち人事担当者が会社説明をする時間が大幅に減りました。そのぶん、求職者の方へのヒアリングや、質疑応答を通して入社意欲を高めてもらうことに時間を使える。面接の質が大きく向上しました。
私たちは営業アウトソーシング、飲食、Web、テレマーケティング、人材コンサルなど、多様な事業を展開するベンチャー企業。「なにかおもしろそうだから」と応募してくる方も。当社のことを理解してもらうために、面接の場で時間をさいて説明しなければならなかった。それがいまは、事前に採用オウンドメディアに目を通してくれているので、すべて省略できています。
―応募者数は増えましたか。
はい。採用イベントに出席してくれた方に向けて、採用オウンドメディア経由でエントリーするように導き、30名以上の応募があった月もありました。求人媒体への広告出稿とは別の、もうひとつの採用チャネルができたという認識です。
また、たとえば社長や私自身を含めた創業メンバーの座談会の記事などを読んで、当社の成り立ちを理解し、今後の成長を確信して応募してくれているので、入社後の定着率が、ほかのチャネル経由よりも高くなるのでは、と期待しています。
―人財採用の面で抱えていた課題を教えてください。
採用活動の費用対効果に改善の余地がありました。Shelterはマーケティングベンチャーとして急成長中なので、つねに営業職やコールセンターのスタッフなどを求めています。
求人媒体に広告を出せば、応募者の数は確保できる。でも、求人媒体は出稿フォーマットが決まっているので、限られた情報しか出せない。たとえば、「成果を出した営業職には高い報酬が出る」といった情報だけが目につき、「成果を出すためには泥くさい努力が必要」という、大事な情報は伝えられない。
結果、面接の場で、採用担当者が業務内容を詳しく説明することに。「時間をかけるべきところは、ほかにあるはず」という問題意識がありました。
―採用オウンドメディアを立ち上げたことで、課題は解決しましたか。
はい。創業時の苦労話や社員の泥くさい努力を描いたコンテンツなどを掲載し、応募者に読んでもらうことで、採用担当者が「説明の時間がいらなくなり、多くの応募者に会うことに時間を使える」と。
また、広告費をかけていないのに、採用オウンドメディア経由で毎月15名以上の応募があり、その面でも採用のコストパフォーマンスがアップしています。
いま、自社の採用サイトを通して人財を獲得する「インハウス・リクルーティング」の導入例が増えている。いわゆる「ナビ媒体」やエージェントなど、他社のインフラに頼りきる従来型の採用手法よりも、自社にマッチした人財を、低コストで獲得できるからだ。この新しい採用手法を推進しているイシン専務取締役の吉田氏に、人財採用を成功させるためのポイントについて聞いた。
採用予算のしぼりこみで、人財の「量から質へ」の動き
―コロナ禍は、人財採用をめぐる環境に、どんな変化をもたらしますか。
採用のプロセスについていえば、対人接触のない、オンラインによる採用活動が当たり前になっていくでしょう。オンラインによる母集団形成や動機づけの優劣が、採用競合との勝負を決める決定的な要素になってきます。
採用市場では、採用予算をしぼりこむ企業が増えてきています。多額の予算を投じて人数を確保する「量あわせ」から、より優秀な人財を効率よく獲得する「質あわせ」への流れが出てきているんです。
「いい人財を低コストで採用する」というのは、いつの時代でも変わらないテーマだと思いますが、昨今は超売り手市場だったので「他社に負けない予算を投じて、とにかく人数を確保しろ」と、なりがちでした。それがポスト・コロナ時代には、本来のあり方に回帰していくとも言えます。
―どんな採用手法がいいのでしょう。
私たちイシンが提案しているのは「インハウス・リクルーティング」です。他社インフラに頼ることなく、自社が運営する採用メディアを通して人財を獲得することが核心になります。
採用オウンドメディアであれば、情報の掲載費や採用できたときの成果報酬などの費用は発生せず、採用コストは非常に安い。
また、他社メディアへ広告を出す場合、伝えられる情報に限界がありますが、自社メディアならば、企業が本当に伝えたいことを伝えられる。その結果、より自社の理念や社風にマッチした人財が応募してくるので、これまで以上に質の高い人財が獲得できるのです。
求人検索エンジンの登場により、採用サイトが有望なチャネルに
―知名度の高い企業でなければ、求職者が自社メディアにアクセスしてくれないのではありませんか。
確かに、以前は社名で検索しないと自社の採用サイトにたどりついてもらえなかった。でも、いまは違います。「Indeed」や「Google しごと検索」といった求人検索エンジンのおかげで、求職者がたとえば「コンサル営業 ベンチャー 東京」といったキーワードで検索をかけると、それに適合する求人情報が一覧表示される。だから、社名が知られていなくても、しっかりと求人情報が記載されている採用サイトをつくれば、求職者にたどりついてもらえるチャンスがある。
求職者は、自分が関心のある職種の求人のなかから、自分の希望や価値観によりマッチした会社を選ぼうとします。ですから、自社の採用サイトには理念や社風など自社のディープな情報を伝えるコンテンツを掲載するべきです。
「詳しい求人情報」と「企業のディープな情報を伝えるコンテンツ」の2つがそろっていれば、採用サイトはたんなる「名刺代わり」から、ひとつの有望な採用チャネルとして機能する、「採用オウンドメディア」になるのです。
―よくわかりました。しかし、そんなメディアを制作・運営できる社内リソースをもたない会社は多いと思います。
私たちイシンでは、採用オウンドメディアの立ち上げと運用を支援するサービスを提供しています。特にオープン時に掲載する代表インタビューなどのコンテンツ制作では、『ベンチャー通信』などのメディア制作で蓄積したノウハウを提供できる。
立ち上げ後も、時代の変化や自社の採用ニーズの変化、他社の成功事例などを取り入れ、スピード感をもって更新や広告運用などをお手伝いします。ポスト・コロナ時代に有効な、この新しい採用手法を、多額の採用予算を使える企業に独占させず、多くの企業に広めていきたいですね。