買い手の選定には専門家のサポートが必要
―国内のM&Aをめぐる状況を教えてください。
10年前と比べれば、年間のM&A件数は増えています。コロナ禍の際は、市場が不透明になったことで、一時的にM&Aは減少傾向にありました。しかし、コロナ禍が落ち着いた2023年以降はコロナ禍前以上に年間の件数は増えています。実際に、当社へのM&Aに関する相談の件数も増えていることを実感しています。
―M&Aの件数が増えている要因はなんですか。
最近の傾向としては、会社をより成長させるために、売り手がM&Aを選択するケースが増えていることですね。新たな販路を国内外に広げたり、新事業を立ち上げたりして会社を飛躍させたいが、自社のリソースだけでは限界がある。そこで、「資金や人材が豊富で広いネットワークを持つ強いパートナーとタッグを組んで、会社の成長を加速させたい」というわけです。
また、案件として一番多いのは、事業承継のためにM&Aを選択するケースです。高齢になった経営者が親族や従業員に会社を継承させたくても、候補者の意思や能力の問題で実現できない場合、会社を継続させるために、M&Aによって他社に事業を承継してもらうのです。いずれにせよ、永続経営のためにM&Aを活用するには、売り手のニーズに合った買い手を選ぶことが重要になるでしょう。
―どうすれば、ニーズに合った買い手を選べるのでしょう。
M&Aの経験がない経営者が自身で買い手を探すのは難しく、必然的に専門家のサポートが必要になります。まずは、身近な存在である税理士に相談する経営者は多いですが、M&Aに長けた税理士は正直、多くはないと思います。そこで、M&Aの専門家であるフィナンシャルアドバイザー(以下、FA)や仲介会社などを通じて、買い手候補を探すことが一般的です。ただ、これらの事業者を利用する際は、それぞれの特徴を理解しておく必要があるでしょう。
―どのような違いがあるのですか。
FAは、売り手または買い手のいずれかと契約して交渉をします。そのため、売り手・買い手のどちらかの専属となります。一方で、仲介会社は売り手と買い手のどちらとも契約し、マッチングを図ります。すると、双方の意見を汲んでお互いのメリットを追求することが期待できる反面、ともすれば、リピート客となりえる買い手に有利になる契約になりかねないのです。「どちらも顧客」という契約の構造上、どうしても利益相反が起こりがちなのです。
一般論として、売り手に寄り添った支援を受けたい場合は、やはり売り手専属のFAをおすすめします。たとえば当社は、まさに売り手専属のFAとして、M&Aに関するさまざまな支援を提供しています。
十分に納得したうえで成約してもらいたい
―支援内容の詳細を教えてください。
まず、売り手専属のFAにとって重要なのは、売り手の事業をしっかりと理解することです。その点、当社の場合、私自身が公認会計士であるほか、金融機関、ファンド、ベンチャー支援会社などさまざまなバックグラウンドを持つメンバーがそろっています。そうしたメンバーの豊富な経験や知識を活用することで、売り手の事業の理解を深めたうえでの支援が可能です。
そして、企業価値を適正に評価し、売り手のメリットの最大化を図ります。当社の親会社であるプルータス・コンサルティングは、独立系の企業価値評価機関であり、年間約1200件の株式評価を行っています。私自身、同社でマネージャーを務めた経験があり、豊富な経験に基づいたロジックで売り手の企業価値を評価し、買い手と交渉するのです。さらに、親会社が日本全国に構築した幅広いネットワークがあるほか、ほかのFAとの連携により、売り手のニーズに合った買い手を探せます。
―永続経営を望む中小・ベンチャー企業の経営者にアドバイスをお願いします。
資金・人材の不足や、事業承継問題に悩んでいる経営者は世の中にたくさんいると思います。特に事業承継問題はプライベートの事情もかかわってくるため、なかなか周囲に相談できず、1人で悩むケースが多いでしょう。そういうときは、ぜひ当社のようなFAを頼ってほしいですね。
当社は「スピーディにM&Aを実現したい」という場合を除き、じっくり時間をかけてM&Aの支援に取り組みます。場合によっては、数年以上のお付き合いになることもあります。それは、売り手の経営者が本当に後悔せずに、十分に納得したうえで成約してもらいたいからです。M&Aを支援する事業者によっては、株主からのプレッシャーのためにM&Aを急ぐケースがあります。当社の場合は、上場企業ではありませんので短期で会社の利益を追い求める必要がなく、売り手の利益にコミットしたお付き合いが可能なのです。
当社は、国が創設した「M&A支援機関登録制度」の登録を受けている支援機関なので、安心して問い合わせてほしいですね。
売り手専属のフィナンシャルアドバイザー(以下、FA)として、中小・ベンチャー企業のM&A支援を手がけているプルータス・マネジメントアドバイザリー(以下、PMA)。このページでは、実際に同社の支援を受けて、売り手として希望どおりのM&Aを実現したエピクルー代表の岡部氏を取材。同氏に、支援を受けた経緯や成約後の手応えなどを、PMAの下野氏と島田氏を交えて聞いた。
「弱点」を補ってくれる買い手を探していた
―エピクルーはどのような事業を手がけているのですか。
岡部:半導体製造の前工程で使用される装置について、中古品の再生や保守部品・改善アップグレードキットの製造・販売をメインに手がけています。扱っている製品において、特許を数多く持っているのが当社の強みで、売上の約7割は海外ですね。
―今回、M&Aを実施した経緯を教えてください。
岡部:今後は海外展開をより強化して、永続的な経営を目指そうと考えていました。しかし、海外で戦える人材や資金、グローバルネットワークにおいて、当社のリソースだけでは限界がありました。そこで、そんな自社の「弱点」を補ってくれるパートナー企業を探していました。シンガポールの事業会社から資本提携の話があり、交渉を進めていましたが、ちょうどそのタイミングで、PMAからの提案があり、もしかしたらより良い話かもしれないと考えたのです。ただ、最初に提案してもらった買い手候補は私のイメージとは異なっていました。
下野:当初、提案した候補先は、エピクルーの買収に興味を持っていた事業会社でしたが、国内を中心とした展開を得意としており、エピクルーが成長するために必要なニーズに合った提案ではなかったです。そこで初めて岡部さんにヒアリングをした際、「共に海外展開を強化していけるパートナー企業を求めている」ことに加え、「言語の問題もあり、必ずしも海外企業と組むことがベストな選択肢ではないかもしれない」という話がありました。そこで、今回成約した国内のファンドを紹介するに至りました。
―どのような点が、エピクルーのニーズにマッチしていると考えたのですか。
下野:まず、大手商社が株主に入っており、そのグローバルネットワークを活用した海外展開が望めると考えました。また、岡部さんから、エピクルー自体が海外企業を買収していくというプランも聞き、海外企業買収の支援経験が豊富な点も加味したのです。こうした点は、売り手専属のFAという当社の立ち位置ならではだと思います。
岡部:ファンド担当者と初めて対面した際、当社のことをよく理解していることに感心しました。また、米国企業へのM&Aの話でもファンドからリスクマネー(※)を出せるとの話でした。そうした点に「パートナーとして一緒に成長していく」という本気度を感じました。聞けば、事前にPMAから当社の事業や課題を詳細に聞いていたとのことでした。そこで、PMAに信頼感を覚え、話を進めることにしたのです。
※リスクマネー : ここでは、資金の出し手がある程度のリスクを負いながら投じられるお金のことを指す
想いに寄り添った支援体制を評価
―その後、PMAはどのように両社のM&Aの交渉を進めていったのでしょう。
島田:丁寧かつ、スピーディに進めることを重視しました。「早く海外を含めて事業展開を加速したい」という岡部さんの想いを重視したからです。岡部さんは海外出張の機会も多く、コミュニケーションが難しいなか、ファンドから受けるデューディリジェンス(※)では、当社が中心となって、エピクルーのメンバーとコミュニケーションを取りました。必要な書類の開示や質問の回答についても、エピクルーの適正な企業価値が伝わるように、こまめに調整しました。クロージングの直前では、深夜に岡部さんの自宅に行って書類の押印をしてもらうなど、お手数をかけてしまいました。
岡部:それは、私がスピードを重視しているのを尊重してくれてのことですから、逆に誠実さを感じました。おかげで、ファンドとの対面から約6ヵ月でM&Aを実現することができたと思います。開示資料や回答をすべて確認し、細かな調整を行ってくれるなど、当社の想いに寄り添ったハンズオン(※)の支援をしてくれたと思います。
※デューディリジェンス : 投資を行うにあたって、投資対象となる企業や投資先の価値、リスクなどを調査すること
※ハンズオン : 企業経営に深く関与し、具体的な行動を通して企業の成長を支援する手法
―M&A後の手応えはいかがですか。
岡部:当社の本社は長崎ですが、週に1度、東京からファンド担当者が来社して会議に参加し、意見を出してくれており、パートナーとして頼もしさを感じています。まだ実行に移すのはこれからですが、ファンドと共に海外展開を強化していきます。
下野:エピクルーのように、良い製品やサービスを持っている中小・ベンチャー企業はまだまだあります。そうした企業に対して、売り手専属のFAである当社がM&A支援をすることで、さらなる会社の成長と永続経営に貢献していきたいですね。