株式会社トリドールホールディングス 代表取締役社長兼CEO 粟田 貴也 

「お客さまの喜び」を追求してこそ、見えてくる「勝ち筋」がある

株式会社トリドールホールディングス 代表取締役社長兼CEO 粟田 貴也 

今般のコロナ禍を契機に、新たな「気づき」を得て、大切な「信念」を改めて見つめ直す経営者は多い。讃岐うどん専門店『丸亀製麺』を展開するトリドールホールディングス代表の粟田氏も、そうした経営者の一人かもしれない。いまや全世界1,700店舗を超え、グループ売上1,300億円以上を稼ぎ出す巨大外食チェーンに成長した同社は、この環境下でも飽くなき成長を追求するなかで、いま新たな成長モデルを手にしようとしている。その軌跡について、同氏に聞いた。

※下記は経営者通信57号(2021年8月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

「この環境でもやっていける」との手ごたえをつかめた

―コロナ禍が直撃した2021年3月期を、振り返ってください。

 新型コロナの影響を受け始めたのは、2020年の3月頃でしたが、その直前まで主力の『丸亀製麺』の既存店売上は前年同期の110%程度で推移しており、まさに「絶好調」と言える状況だったんです。それが4月には半減近くまで急落したわけですから、それは悲惨な状況で、その環境変化に適応していくだけで精一杯でした。

 まずは、お客さまの不安を解消するために店舗内での安心安全を広報すると同時に、テイクアウト需要の取り込みにも力を入れました。その結果、じつは秋口には「ほぼ回復」と呼べる状況にまで持ち直すことができました。その後、感染再拡大もあり、最終損益は厳しいものでしたが、その過程で改善傾向を示すこともでき、「この環境でもやっていける」との手ごたえをつかめたのは、大きな収穫でした。

―そうした手ごたえを、どのようにつかむことができたのでしょう。

 コロナ禍への対応から、テイクアウトに軸足を移していったのですが、その成果が徐々に実を結んだ格好です。コロナ禍で「食」は家庭回帰が進みましたが、その傾向はアフターコロナの時代でも大きく変わることはないでしょう。そうなると、これからも選ばれる存在でいるためには、我々の方から食卓に入っていく努力が必要です。そこで、包材や商品の開発、オペレーションの変更など、テイクアウト需要を本格的に取り込む戦略を進めてきました。その努力が実を結び、かつて全体の1%強に過ぎなかったテイクアウト売上は、昨年半ばには15%程度にまで拡大しています。

 こうした戦略の集大成と呼べるのが、今年4月に発売した『うどん弁当』なのですが、これが発売から1ヵ月で300万食を売り上げる大ヒット商品になっています。特に夜間人口を抱えた駅前店舗で、それも週末の売上が伸びています。まさに家庭に受け入れられている実態を示しており、『うどん弁当』をひとつの重要なカテゴリーとして育てていきたいと考えているところです。

「手づくり・できたて」をテイクアウトにも追求

―これまで「手づくり・できたて」の店内体験に価値を置いてきた丸亀製麺にとっては、大きな挑戦と言えますね。

 「手づくり・できたて」は我々の生命線であり、毀損してはいけないブランド価値です。飲食業でのチェーン展開の常識とされる「機械化」や「セントラルキッチン」を採用せず、非効率とのジレンマに苦しみながら築いてきたこのブランド価値があったからこそ、コロナ禍でも多くのお客さまに支持されてきたのだと受け止めています。

 ただ、この「手づくり・できたて」というブランド価値は、突き詰めて言えば「お客さまに喜んでいただく」という大命題を実現するための手段です。これまでは、「手づくり・できたて」に代表される店舗体験の充実によってこの大命題を追求してきましたが、必ずしも、店内体験にかぎった話ではなかったということ。我々にとってもっとも大事なことは、いかに「お客さまに喜んでいただくか」。これこそが、当社における「経営の本質」なのです。

―築き上げてきたブランド価値のもうひとつの表現が、テイクアウトだと。

 そのとおりです。ですから「手づくり・できたて」に代表される店舗体験の充実には、これまで以上に磨きをかけていく覚悟です。うどん生地の「熟成庫」や「麺打ち台」をお客さまに見える位置に移動し、手づくりを実感してもらう取り組みもその一環ですし、麺職人の育成といった属人性の強みを鍛え上げていく研修制度の充実も並行して力を入れています。属人性の強みと非効率とのジレンマこそ、我々の成長の原動力にほかなりませんから。そして、この価値をテイクアウトにも応用し、ご自宅や職場における食事シーンでも、「手づくり・できたて」の体験価値を提供していきます。

 そのうえで、業態や店舗特性にあわせて、集客や新しい価値の提供の方法を考えていかなければならない。このスタンスは、現在力を入れているグローバル戦略にも、色濃く踏襲されていくことになります。

目指すは、グローバルフードカンパニー

―グローバル展開については、かつて本誌においても「全世界6,000店」の目標を語っていました。コロナ禍のなか、現在の状況はいかがですか。

 一時的に勢いはストップしている状況ですが、今回のコロナ禍で、事業ポートフォリオの厚みや地政学リスクの回避がいかに重要になるかを改めて学び、「グローバルフードカンパニー」への想いを一層強くしています。コロナ禍からの経済復興が比較的早かったアジア地域では、今年4月に香港株式市場への上場申請を行ったグループ企業「Tam Jai International. Co. Limited.」が戦略の中核を担います。同社は、シンガポールや中国本土への進出を加速させています。上場を実現できれば、自ら資金を調達し、スピード感をもった拡大が期待できるようになるため、ここがグローバル戦略の重要な一翼を担うと期待しています。

 同じく、アジアのグループ企業であるシンガポールの「MONSTER CURRY」では、ポークフリーカレーの新ブランド「MONSTER PLANET」を開発しハラル認証を取得したことで、今後はインドネシアやマレーシア、中東地域への出店を検討しています。そのほか、念願だった丸亀製麺の欧州展開については、現地のパートナーとの協業によって英国への出店がこの7月に実現します。

―矢継ぎ早の展開になりますね。

 グローバル展開にあたっては、スピード感が重要であることは、今回のコロナ禍で学んだもうひとつの教訓でした。丸亀製麺の初の海外進出となったハワイ出店から約10年。この間、我々は海外に通じるトリドール流の「勝ち筋」を築くことができたと自負しています。この「勝ち筋」をさまざまな業態に適合させていくことで、グローバルプラットフォームの構築を加速させていきます。ただし、そこでも業態や地域を問わず我々が大切にしたいのは、「お客さまに喜んでいただく」という想い。社会情勢や経済環境が異なる海外では、その手法はさまざまに異なるでしょうが、この本質を忘れることは決してありません。

「わざわざ」来店する動機を、いかに提案できるか

―今回の危機を経験し、粟田さんはどのようなことを感じていますか。

 この段階で勝利宣言をするのはまだ早いわけですが、ここまで業績を回復させることができたのは、我々のブランド価値がお客さまのなかにしっかりと根づいてくれたからだと感じています。いまはデリバリーや通販がますます普及し、お客さまは多くのチャネルから選択することができる時代です。この厳しい競争環境のなかで我々が選ばれるためには、「わざわざ」来店していただく動機を提案し続けなければなりません。ただ、そこでも我々が大切にしてきた「お客さまに喜んでいただく」という本質を失わなければ、これからも新たな勝ち筋を見出していけると確信しています。

粟田 貴也(あわた たかや)プロフィール

1961年、兵庫県生まれ。神戸市外国語大学中退。学生時代のアルバイト経験から飲食業に魅力を感じ、1985年に焼鳥居酒屋『トリドール三番館』を創業。父親の故郷である香川県の讃岐うどん人気に着想を得て、2000年にセルフうどん業態『丸亀製麺』を開業。チェーン店の常識を覆す数々の挑戦で顧客の心をつかみ、急成長。2006年に東京証券取引所マザーズ市場に上場、2008年に東京証券取引所第一部に市場変更。その後も多業態展開を加速しており、2021年3月期において国内外1,700店舗超、売上高1,300億円を達成し、さらに成長中。

株式会社トリドールホールディングス

設立 1990年6月
資本金 41億8,155万7,000円(2020年3月31日現在)
売上高 1,347億6,000万円(2021年3月期)
従業員数 4,139名(2020年3月31日現在)
事業内容 飲食業を中心とする傘下子会社の経営管理
URL https://www.toridoll.com/
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