ニッチリッチ株式会社 代表取締役 細井 保裕

小規模だからこそできる大胆な戦略で「オンリーワン」のホテルを目指せ

ニッチリッチ株式会社 代表取締役 細井 保裕

増加する訪日外国人観光客の宿泊需要を見込み、続々と建設されているホテル。異業種からのマーケット参入も目立ち、市場は活況を呈している。そんななか、「小規模ホテルは苦戦を強いられている」と語るのは、ホテル運営と運営コンサルティングを行うニッチリッチ代表の細井氏。今後、顧客獲得競争の激化が予想される宿泊業界において、小規模ホテルの経営を安定させる方策はあるのか。同氏に、ホテル市場の状況も含めて話を聞いた。

※下記は経営者通信53号(2020年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

これ以上宿泊費を下げると「負のスパイラル」に陥る

―ホテル市場の現状について教えてください。

 急増する訪日外国人観光客の宿泊需要を期待して、ホテルの建設ラッシュが進んでいます。2015年に2,000万人に迫った訪日外国人観光客数は、2020年に4,000万人を超す勢いです。市場の伸びを期待して、アパレルや飲食など異業種からの参入が活発化しているほか、会社経営者など個人によるホテル投資も盛り上がりを見せるなど、市場は拡大しています。

―今後も盛況は続きそうですか。

 市場が拡大しても、すべてのホテルが盛況とは限りません。実際、1棟や数棟レベルで運営する、小規模ホテルの経営者からは、「最近、思うように利益が出ない」という悩みを多く聞きます。これは、ホテル以外にも、民泊やホステル(※)などの低価格宿泊施設の供給が増えたため、宿泊料金の値下げ競争に巻き込まれているからです。

 さらに、値下げ競争の相手は、民泊やホステルに限りません。チェーン展開している大規模ホテルも、スケールメリットを活かした備品の一括購入や、清掃など運営協力事業者への一括発注によりコストを抑え、たとえ宿泊費を下げても十分耐えられる体制を整えています。一方、資本やスケールメリットのない小規模ホテルでは、これ以上の値下げは難しいと思います。

※民泊やホステル:民泊は、戸建て住宅やマンションなどを活用した宿泊施設。ホステルは、2段ベッドなどを設け相部屋利用が基本の宿泊施設。どちらも低価格で利用できることが特徴のひとつ

―それはなぜでしょう。

 人件費を削らざるをえず、負のスパイラルに陥るからです。ただでさえ、小規模ホテルは人手不足の状態。そのため、日々の運営に手一杯で、施設内に細かな汚れが目立つホテルも散見されます。この状況をさらに悪化させるようでは、リピーターなど到底期待できず、顧客離れはさらに深刻化するでしょう。

 そこで私は、小規模ホテルでも利益を安定して出すために、2つの取り組みが必要だと考えています。ひとつは、単純ですが、良質なサービスを提供できる運営スタッフの育成。もうひとつは、あえてターゲットを明確に絞ってホテルのコンセプトを設定することです。

当事者意識の高いスタッフは「裁量の大きい現場」で育つ

―まずは、運営スタッフの育成について詳細を教えてください。

 育成にあたっては、スタッフの「当事者意識」を引き出すことが大切です。当事者意識が高まれば、みずから考え行動するオペレーションにより、顧客満足度の高い安定したサービスの提供につながります。さらに、オペレーションの向上で生産性が高まり、3人ぶんの仕事を2人でこなしてもらえれば、人手不足の問題も解消できます。

―どうすれば「当事者意識」をもったスタッフに育つのでしょう。

 たとえば、「よりよいサービス提供のための改善策」について、スタッフ同士で議論するクセをつけてもらいます。かりに自分の案がオペレーションに採用されれば、「結果を出そう」と責任をもって実践します。実際に結果が出れば、「オペレーションの向上に貢献できた」とやりがいが得られ、次の改善案を考える原動力に。大切なのは、採用を前向きに検討できるよう、現場に裁量を与えること。経営者にとっては勇気がいることかもしれませんが、小規模だからこそ、経営者が一人ひとりのスタッフの顔を把握し、十分なコミュニケーションが取れるため、裁量を与えやすいのです。

―小規模の「スケールメリット」を、スタッフの育成に活かすのですね。

 そのとおりです。この「スケールメリット」は、先ほど指摘したもうひとつの「ターゲットを明確に絞ってコンセプトを設定すること」にも活かせます。

―どういったことでしょう。

 たとえば、ターゲットを「愛煙家」に絞ったホテルを考えてみましょう。ラウンジに世界中のタバコが楽しめるシガーバーを設け、館内で自由に喫煙できるホテルです。完全禁煙のホテルが珍しくないいま、こういうホテルなら愛煙家たちから注目されると思いませんか。人気が出るため宿泊費を下げる必要がなく、希少性からリピートも期待できる。さらに、「珍しいホテルがある」とクチコミ効果も。少し極端な例かもしれませんが、こういう大胆なターゲティングは、ボリューム確保のために「万人受け」が必要な大規模ホテルでは難しい取り組みです。

狙ったターゲットにはまり、高稼働率を実現

―実際にターゲットを絞って供給した事例はありますか。

 当社が手がけた事例を紹介します。20代女性に絞った全30室のホステルでは、壁や天井のほか、仕切りカーテンの色や上段ベッドの梯子の色にまでこだわって配色し、SNS映えするカラフルさを出しました。狙い通りにSNSでの拡散効果が高く、「私も泊まってみたい」という女性が続出し、高い稼働率を確保しています。

 そのほか、全37室のホステルでは、ターゲットをタイ人観光客に絞りました。近くに「パープルビル」と呼ばれる、タイ人の間で有名な大型ショッピングビルがあることに着目し、タイ人のインフルエンサーなどに情報の拡散をお願いしたのです。そうしたところ、大きな話題になり、いまでは利用者の8割以上がタイ人で、稼働率は85%以上です。

―どちらの物件も高い稼働率ですね。

 ええ。ターゲットの明確化にくわえ、働くスタッフがコンセプトをしっかり理解してくれているからです。たとえば、先ほどの「20代女性」がターゲットのホステルでは、スタッフがアメニティグッズの充実に向けたアイデアを積極的に出してくれた結果、宿泊客から「サービスが行き届いている」と大変好評です。せっかく宿泊客から支持されるコンセプトを企画しても、それが現場のスタッフにまで落とし込まれていなければ、効果は半減します。私はつねに現場に赴き、スタッフがコンセプトを理解したサービスを行っているかをチェックしています。さらに、宿泊客からもサービス内容について意見を聞き、指摘されたことがあればすぐにスタッフと話し合い、改善点を見つけ出しています。

―小規模ホテルで安定経営を目指す経営者に、アドバイスをお願いします。

 今後ますます厳しさが予想される小規模ホテルこそ、「運営スタッフの育成」と「ターゲットを絞ったコンセプト設計」で、早めの対策が必要です。とはいえ、専門知識がないまま対策を練るのは難しいでしょうから、当社のような専門家のチカラを活用してください。

 私は20年以上、関連業務も含めてホテル業界に携わり、業界トレンドをウォッチしてきました。さらに海外を積極的に回り、多様性のある価値観を学んでいます。だからこそ、ある経営者からの「LGBTの方々などを積極的に受け入れる『ダイバーシティ』がコンセプトのホテルを開業したい」という相談に、「ぜひやるべき」と即答できたのだと思います。当社は今後も、「想いをカタチに。夢を現実に」をビジョンとした「オンリーワン」のホテルづくりを目指し、小規模ホテル経営者の悩みを解決していきます。

細井 保裕(ほそい やすひろ)プロフィール

1976年、東京都生まれ。調理師を経て、25歳のときにカナダ・バンクーバーに1年間移住し、日本食レストランで働きながら語学や現地の文化・風習を学ぶ。27歳で六本木のビジネスホテル運営会社に入社し、顧客ターゲットを細分化した斬新な企画で業績アップに貢献。その後、大手ゲストハウス運営会社でホテル開発部門を担当。2013年にニッチリッチ株式会社を設立し、代表取締役に就任する。

ニッチリッチ株式会社

設立 2013年7月
資本金 1,000万円
従業員数 60名(グループ全体:2019年11月現在)
事業内容 宿泊施設の運営と運営コンサルティング事業
URL https://niche-rich.jp/
お問い合わせはコチラ 03-5875-6105 (9:00〜20:00)
info@niche-rich.jp
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