株式会社ジャパネットホールディングス 代表取締役社長 兼 CEO 髙田 旭人

社員に意志をもたせて個々の成長をうながす それが永続経営につながっていくのです

株式会社ジャパネットホールディングス 代表取締役社長 兼 CEO 髙田 旭人

創業者の髙田明氏が社長を退任し、長男の旭人氏が二代目社長になる―。その印象的な発表がされてから丸4年が経った現在も、ジャパネットグループは順調に売上を伸ばしている。2017年度は、過去最高売上の1929億円を達成した。なぜ❝カリスマ経営者❞からバトンを受けてなお、その歩みを止めずに成長を続けることができるのか。旭人氏に、事業承継のポイントも含めて聞いた。

※下記は経営者通信50号(2019年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

ホールディングス化と労働時間の制限を実行

―髙田旭人さんが社長に就任してからも業績は好調で、2017年度は1929億円と過去最高売上を達成しました。その要因はなんですか。

 私が社長になってから、さまざまなチャレンジをしてきました。そのなかでも、社員の意識や環境を変えていったことが奏功したのだと思います。主要な取り組みとしては大きくふたつ。

 まずひとつは、会社組織のカタチを変えました。以前はジャパネットたかたと受注を担うコールセンターの2社体制でしたが、広告代理店業務や物流業務など業務ごとに事業会社化した5社と、それらの管理業務を担うジャパネットホールディングスによる6社でのホールディングス体制に変えたんです。各社のミッションをより明確にし、社員にそれぞれの部門のプロになってほしいというのがおもな狙いです。ちなみに現在は、9社体制になっています。

 もうひとつは、労働時間の制限。私が社長になったタイミングで、「ノー残業デーの設定」「22時以降の残業禁止(※)」「リフレッシュ休暇の導入」を宣言して実行しました。

※22時以降:現在は、20時半以降の残業を禁止している

―その狙いはなんでしょう。

 スタッフの生産性を高めるためです。人間は長い時間働いていると、それだけでがんばった気になってしまいがち。それを避けるため、❝がんばり方❞を制限したんです。「限られた時間のなかでミッションを達成するには、仕事の質を高めるしかない」と。労働時間を増やすのは限界がありますが、生産性を5倍、10倍にするのは工夫ひとつで実現は可能ですからね。

 それを支援する環境改善も、細かく行っています。業務効率化を図るため、フリーアドレスを導入。Wi-Fi環境を整え、引き出しのない机に変更するなど断捨離も行いました。そのほか、新しいメールのツールを導入したり、業務に集中する専用個室スペースをつくったり、会議終了時間になるとアラーム音で通知するシステムを会議室に導入したり―。現場からもアイデアをつのり、良いと思えば積極的に導入しています。会議室管理システムは、まさに現場の意見を反映したものですね。

答えは「教えられる」より「自分でみつける」もの

―なぜ、社員の意識や環境を変えようとしたのですか。

 自らの意志をもつメンバーが揃う企業にしたかったからです。

 やはり当社は、創業者である父が引っ張ってきた会社で、周りからもそういったイメージは強いでしょう。実際に社内でも、私を含めみんなが髙田明という経営者に「なんとか必死で食らいついていこう」というカタチでやってきたんです。単に社長が代わるだけでは、同じように私が引っ張っていくだろうと思われてしまう。でも「そうじゃない」と。私が答えを教えるのではなく、「自分で答えをみつけましょう」というのを、明確にして伝えたかったんです。もちろん経営者としての意思決定は行いますが、すべての判断を私に仰ぐと個人の成長にはつながりませんからね。

 そういう意味では、以前より幹部を増やしました。父は役職者にふさわしい人がいなければ、新たに置かずに兼務させる方針でした。私はどちらかというと、「ふさわしいとまではいえないけれど、いちばん近い人」を抜擢して成長をうながしたいタイプ。私が就任する前は4人だった役員が13人になり、部長は10人から30人に増えました。

―幹部を増やすと、組織が「メタボ体質」になってしまいませんか。

 そこのバランスは、本当に気をつけています。たとえ好人物で社歴が長くても、その人がいまの役職のままでは本人や部署にとって良くないと判断したら、降格になることもあります。

既存事業も新事業も会社の軸は同じ

―就任して以降は、新たな事業にも取り組んでいますね。

 ええ。たとえば、体験型店舗。「良いものをお客さまに伝えるには、リアルなお客さまの声が必要」という判断で、実際に商品が体験できる場をつくったんです。使ってもらえれば、商品の良さがより実感できますから。

 クルーズ事業やウォーターサーバー事業といった、モノではないサービス事業にも取り組んでいます。いずれも「どのようなサービスならお客さまが喜んでくれるか」という観点で、企画から携わっています。

 ただ、どの事業もまったく新しいことを行っている意識はありません。当社には「世の中に埋もれている良いモノを磨きあげ、その最大限の価値を伝える」という考えが先代からあります。そういう意味では、テレビショッピングも新事業も軸は一緒なんです。

―ほかに取り組んでいる事業はありますか。

 長崎県に、スタジアムを中心としたまちづくりを計画しています。長崎県のみなさまに育ててもらった企業として、「これまでにない❝ワクワク❞を提供していくことで恩返しをしていきたい」という想いのもと、始めました。

 グループ会社である、サッカーチーム『V・ファーレン長崎』のホームグラウンドとなるスタジアムだけでなく、ホテルやマンション、商業施設、オフィスなどさまざまな施設を併設することで、県内の新たなランドマークをめざします。そうすることで、地方創生にも貢献していきたいと考えているのです。この事業も、これまで行ってきた事業の延長で、軸は一緒だと考えています。

父の考えが正しいと思える それがありがたかった

―髙田旭人さん自身の経験から、事業承継をスムーズに行うポイントがあれば教えてください。

 私が意識しているのは、「創業者に対抗しない」ということです。少なくとも、私が「ゼロからジャパネットたかたをつくれたか」というと、その自信はまったくないんで(笑)。ムリに創業者を超えようとすると、「より良くする」のではなく、「父のやったことを変えたいから変える」となってしまうと思います。そうなると、本末転倒ですよね。「父を超えられることはない」と考えていたほうが、フラットな経営判断ができると思います。

 私がありがたかったのは、「ジャパネットが存在することで、どれだけ多くの人を幸せにできるか」「ジャパネットが選びぬいた商品を通してお客さまの生活を変えていきたい」といった父の考えがなによりも正しいと思えること。そこは、これからも絶対に変えていくつもりはありません。

―変えるべきところはなんでしょう。

 冒頭でいったとおり、自分の意志をもったメンバーが揃う企業にすることです。「髙田旭人がいないと会社が成長しない」とか「髙田旭人が厳しくいうからがんばろう」ではなく、みんな同じ温度感をもって、同じゴールに向かって自発的に取り組むような体制をつくりたいですね。それが個人の、ひいては会社の成長につながり、ゆくゆくは永続経営につながっていくはずですから。

 社長を退任する際は、ひっかかるものは絶対にあったはずですが、会長職にも就かずに会社を離れる選択をしてもらった父に応えるためにも、会社の軸はブラさずさらに磨きあげていきたいと考えています。

髙田 旭人(たかだ あきと)プロフィール

1979年、長崎県生まれ。東京大学を卒業後、証券会社を経て株式会社ジャパネットたかたに入社。バイヤー部門、コールセンター部門、物流部門の責任者を経て、2010年にコールセンター部門を移行した株式会社ジャパネットコミュニケーションズ設立時の代表取締役社長に就任する。2012年にジャパネットたかたの取締役副社長に就任し、2015年1月、株式会社ジャパネットホールディングス代表取締役社長に就任。2018年1月、代表取締役社長 兼CEOに就任。

ジャパネットグループ

設立 1986年1月
資本金 12億6,000万円(グループ全社の合計)
売上高 1,929億円(2017年12月期:グループ連結)
従業員数 2,378名(2018年4月時点:グループ連結)
事業内容 ジャパネットたかたの通信販売事業を中心とした、商品のバイイング、ショッピング媒体の制作・マーケティング、購入受付、商品配送・設置、メディアバイイングなど
URL https://www.japanet.co.jp/shopping/jh/index.html
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