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グローバルのコラム

全産業、全階層に創造的人材が求められている

いま事業家たちが私財を投じて教育改革に邁進する理由《前編》

リクルートの凄味

 久々に日本の時価総額ランキングを眺めてみた。トヨタやソニー、NTTと並んでリクルートが堂々9位にランクインしている。変化の激しいメディア業界にありながら、このコロナ禍にあっても時価総額7兆円超の評価を市場から得ている。リクルートの創業は60年前に遡る。学生新聞の広告販売から始まったリクルートは、広告だけを集めて一つのメディアにするという画期的なビジネスモデルを生み出し急成長を遂げた。平成バブル崩壊で背負った1兆4千億円もの借金も毎年1,000億円ずつ15年かけてせっせと返済し続け、ついに2006年に完済。

 インターネットの登場による業界の地殻変動にも、過去の成功体験を自ら破壊し、業界の変化よりも先に自らを進化させて乗り越えた。リクルートの強みは事業を創り続ける力にあり、それは事業家を生み出すリクルートの組織風土から発している。

 世の経営者たちに「人材輩出企業と言えば、どこか」と聞けば、真っ先に想起されるのはリクルートだろう。自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ。かくあるべきという細かな行動規範ではなく、ビジネスパーソンとしての在り方を説き、社員の自発性を引き出した。創造的人材が思う存分に社内で暴れまわり、新たな事業を生み出し続ける。結果として創造的人材を社外にも輩出し、ベンチャー界隈では半径5m以内に1人は元リクがいるような状況だ。リクルートがこんなにも創造的人材を輩出できるのは、リクルート創業者の江副浩正氏に原点がある。

採用狂だった江副氏

 江副氏は東大心理学科在籍中に東大新聞の広告営業から事業をスタートさせた。創業メンバーには東大心理学科出身者が多かった。人間を知り尽くした当時最高峰の頭脳たちが集まり、リクルートの組織風土の基盤はつくられる。

 その昔リクルートが社運を賭けてスーパーコンピューターの時間貸しビジネスを始めたとき、江副氏は社内から飛び切り優秀な人材を集めるよう号令をかけた。だが江副氏は集めた優秀な人材をその新規部署に配属するのではなく、彼らを採用担当に任命し、次年度に彼らが採用した者たちを新規部署に配属した。採用こそリクルートの生命線だと。

 また都内の有名大学の学生は大手にとられてしまうため、当時まだ見向きもされていなかった“女性"“高卒"“地方大学"を徹底的に攻めた。江副氏は、地方にある国立大学の細かい学科まで暗記し、その年に何人その学科から卒業するかまで事細かに把握していたという。採用に並々ならぬエネルギーを注ぎ込み、その中から光の原石を見つけ、活躍の場を大胆に与え、リクルートの自由闊達な組織風土は形成されていった。

徹底的に考え尽くされた組織

 また学生アルバイトにも社員同様の待遇と裁量を与え、学生アルバイトからそのままリクルートに就職した社員も多かった。社内には営業成績の横断幕を掲げ、社員同士も役職ではなく、ニックネームや“さん"付けで呼んだ。さながら大学サークルのようなノリ。

 だが採用評価や人事評価は徹底したロジックで組み立てられ、組織のソフト面とハード面ともに精緻に考えつくされ有機的に融合された。江副氏は、リクルートの考え尽くされた組織力に強い自信を持っていたという。「他社がリクルートの組織を真似しようと思っても無理だろう。自分は徹底的に考え尽くして、組織にこだわり続けてきた。それだけの自負がある」と。創業者自身が強烈な自負心を持つほどリクルートの組織は細部まで考え尽くされ構築された。

 江副氏いわく、「製造業と違い、リクルートには資産というものがない。あるのは鉛筆だけ」。資産がないからこそ、江副氏は形ある資産の“不動産"と未来の競争力の源泉である“人"に徹底的に投資した。不動産の方は後に平成バブル崩壊によって莫大な借金に化けたが、人への投資は日本経営史の中で最高の結果を残す。

リーダーシップがないならリーダーを創るしかない。これぞ逆転の発想

 江副氏は、もともと引っ込み思案な性格でリーダーシップをとることに不慣れだったという。子供の頃のあだ名は“おじいちゃん"。目立たないキャラで、当時を知る旧友たちは江副氏がリクルートのような会社を創業したことに一様に驚いた。

 そんな江副氏のキャラクターとは逆にリクルートは大きく成長する。当然、社長として大勢の社員の前でビジョンを語り、会社を引っ張っていかないといけなくなる。江副氏は会社が大きくなるにつれ、徐々に社長でいることにつらくなっていったという。

 そういった背景もあり、社長である自分自身がリーダーシップをとらなくても自然と社内でリーダーが生まれ、事業が創発される組織風土は生み出された。パナソニック創業者の松下幸之助氏も「成功の秘訣は自分の体が弱かったからだ」と言ったという。病弱だったから、謙虚になり、人の話を聞き、素直に人に仕事を任すことができたと。江副氏は自身にリーダーシップが無かったから、リーダーを社内に生み出す組織を残せた。苦肉の策である。窮すれば変じ、変ずれば則ち通ず、通ずれば則ち久し、か。何とも奥が深い。

 また、創業まもなくしてダイヤモンド社が市場に参入して手強い競合となり、リクルートの存在意義を揺るがしたことも江副氏の危機感に拍車をかけた。メディア業界の変化は激しい。いつまた強い競合が現れるかもしれない。しかし、事業は真似できても、組織風土は真似できない。どんな競合が参入しようとも、時代が大きく変化しようとも、組織の力で新たな事業を生み出し、その困難を克服し続ける。それしかリクルートが生き残る道はないと。

 江副氏はリクルートから離れた後も生涯通じて人材育成に熱心に取り組んだ。財団法人江副育英会(現:江副記念リクルート財団)を通じて、有為な若者へ返済不要の奨学金を給付し続け、今ではその奨学生が累計700名にも及ぶ。

いま事業家たちが私財を投じて教育改革に邁進する理由

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