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著名経営者の経営者インタビュー

投資家 / 教育系事業経営者 宗清 晶

出口のその先に 第1回

冷静で理路整然とした口調。しかし、節々に垣間見える破天荒さ。そんな相反する性質が混在し、三度のバイアウト(事業売却)という異色の経歴を持つ人物が宗清晶だ。2014年末にはサイバーエージェントグループに会社をバイアウト。しかし、華々しい成功の影で数々の失敗も経験。ある時は投資詐欺に遭ったり、知人に貸したお金が次々と消えていくこともあった。そんな生々しい実体験から独自の金銭哲学を持つ。連続起業、三度のバイアウトの先には、一体どんな景色が広がっていたのか。今回はそんな宗清の「出口のその先に」を聞いた。

バイアウト後の心境

― 2014年末にお悩み相談サービスを提供するティファレトを、サイバーエージェントグループのCAモバイル(現:CAM)にバイアウト(事業売却)されました。結構大きな金額だったんですよね?

 最近は規模の大きなディールも増えてますが、当時としては比較的大きかったと思います。バイアウト後も業績が倍以上に伸びて、最高で売上25億、当期純利益で5億ぐらい。数多くのグループ会社を抱えるサイバーエージェントグループの中でも、全体で相当上位の高利益を叩き出していましたね。今でも知人からは、ちょっと早く売りすぎたんじゃないかと言われます(笑)。

―すごいですね。どんなサービスなのか教えてください。

 悩みを抱えた人が気軽に電話で相談できるモバイルWebサービスです。1対1で行う遠隔カウンセリングサービスのようなイメージですね。顧客層は30代~50代の女性が9割を占めていました。「相談分数 × 1分あたりの料金」で課金して、そこから手数料をいただくモデルです。

―そもそも、なぜバイアウトしたんですか?

 そのままティファレトの経営を続けても、成長し続けることはできたと思います。でもバイアウトしたほうが、よりメジャーなサービスになれると思ったんです。

 売却先も慎重に選んでCAモバイルに決めました。CAモバイルは上場企業で信頼があり、親会社のサイバーエージェントグループの中には、アメブロなど明らかにシナジーが見込めそうな事業もあります。だから、ここに譲渡することでニッチなお悩み相談サービスが、もっとメジャーなサービスとして花開き「日の目を見る」かもしれないと思ったんです。

 自分の性格的にも過去に歩んだことのない「未知の道」を歩んでみたかった。それに貢献してくれたスタッフたちにとっても待遇面で厚遇が望め、人生の貴重なトラックレコードにもなり得る。それならスタッフにとっても相手方の企業様にとっても三方良しだなと思い、バイアウトを決めました。

―実際にバイアウトしたあとは、どんな心境でしたか?

 とくにロックアップはなく相談役として関わる程度でした。そういう意味では自由な身でしたが、バイアウト後1年間はずっと引き継ぎ業務をしてましたね。自分は既に退任した身のはずなのに、勝手に色んなことに口出ししてました(笑)。

 ティファレトは私にとって「自分の体の一部」だったので、なかなか心理的にすぐに切り離すことができなかったんです。それまでの人生において最も熱狂した時間でしたから。それが今や自分の手を離れ、もう自分の会社ではない。当時はその事実をそう簡単には受け入れられませんでした。今でもティファレトが何か困ったときはお手伝いさせてもらってます。

自己顕示の投資であってはならない

―引き継ぎ後は何をされてたんですか?

 しばらくは休養もかねて、投資の傍ら家のことや趣味で時間を過ごしてました。ちょうど娘の小学校受験も重なったので受験勉強を手伝ったり、さまざまな国にビジネスや文化の視察をしに行きましたね。あと私は泳ぐことが好きなので、暇さえあれば泳ぎまくってました(笑)。

インドのバラナシで見たガンジス川に昇る朝日
シリコンバレーで現地の友人たちと
チェコの路地裏を娘と

―ちなみにバイアウトで大金が入って、何か心境の変化はありましたか?

 うーん。私はビジネスや投資は好きなんですが、もともと物欲がない人間なんです。なので、正直あまり変化はないですね。たとえば高級車とかも一切買ってません。そもそも免許すら持ってませんけどね(笑)。

 ただバイアウトしてからは、今まで会わなかったような人とも会うようになりました。たとえば昔から続く老舗企業の3代目経営者の方とか、普段は表に出ないような富裕層に会う機会が増えましたね。もともと仕事以外の会食には積極的に参加しなかったんですが、色々な交友関係を広げました。

―エンジェル投資家としても活躍されてますよね。

 当初はバイアウトして時間ができたので、無償で起業家の相談に乗ってたんです。自分が詳しいToC領域からの相談が比較的多かったですね。それで、相談に乗っているうちにエンジェルとして投資するようになりました。でも、やっぱりToCビジネスは浮き沈みも激しくて改めて大変だなと感じましたね(笑)。

 エンジェルに限らずですが、投資はどうしても傍観者だと感じることが多いです。自分が事業をやるわけではないので、アンコントロールな部分が多く歯痒い気持ちになりますね。ですが後に続く人たちを応援するという点で、エンジェルは儲けでなくライフワークや学びとして面白いなと思っています。

―投資についての考えを教えてください。

 結局は、純粋に今より価値が上がりそうか。アップサイドとダウンサイドの度合いを見て判断すること。これに尽きると思います。そもそも自分の打率が人より秀でているとは全く思わないですし、変な感情移入をすると判断が鈍る。ただ言葉で言うのは簡単ですがエンジェル投資みたいに人と向き合うと、ついつい感情が入ってしまいます。その場合は「相手を信じて託す!ペイフォワードだ!」くらいの気持ちで投資しちゃいますね。普段マーケットや相場に対しては冷徹であまり負けないのですが(笑)。

 バイアウトした直後の私は色んな人の話に乗って投資し、失敗もしました。そんな時に友人のキャピタリストが言っていて刺さった言葉が、「自己顕示のための投資であってはならない」と。この言葉を聞いて、我に返りました。自分は熱狂した会社を手放し、心にぽっかりと穴が空いてしまった。その欠けたものを埋めるための自己顕示欲が、少なからず自分を良くない投資にも突き動かしていたのではないかと気づいたんです。

 やっぱり人の感情とお金の流れには相関関係があると思います。その人の感情が、その時のお金の使い方に如実に現れる。資金繰りを見ても、相場の値動きを見ても、それは同じだと思います。たとえばお金関係や投資で失敗してしまう時は、その人の心が乱れている時です。常にお金と心の距離感をニュートラルに保つことが重要ですね。

偶然の起業

―話は変わりますが、宗清さんのご出身はどちらなんですか?

 生まれてから高校卒業まで山口県の徳山市(現:周南市)で暮らしてました。高校時代は公立の進学校に通っていて、一時は偏差値40台くらいまで落ちぶれたんですが、我流の勉強法を確立して慶應義塾大学の商学部に入学しました。

―大学時代は何をしてたんですか?

 他大学の友人たちとも協力し一緒にイベントなどをやってましたね。当時のメンバーは経営者として活躍している人も多いので、今でも定期的に集まっています。

―卒業後は就職されたんですか?

 2003年に当時まだ100名くらいのDeNAに新卒入社しました。ITサービスに興味があって、たまたまテレビでDeNAを見たんです。その時は新卒を募集してなかったんですが、ホームページから直接エントリーしました。

 まだDeNAの主力事業がネットオークション『ビッダーズ』の頃でした。私は1か月の新人研修を終え、事業戦略室という部署に配属されました。その部署はメンバーがそれぞれ全く別の事業領域にチャレンジしていて、とても刺激的な環境でしたね。そこで通販とかToCビジネスの事業者様と接する機会が多く、いつかは自分もToCビジネスで大きくチャレンジしたい!そんな風に思いました。

―どういう経緯でDeNAから独立したんですか?

 香港や台湾でビジネスを立ち上げ予定の先輩から「お前も一緒にやらないか?」と誘いを受けたんです。直感で面白そうだなと思い、そこにジョインするつもりでDeNAを辞めました。ただ先輩のビジネスはまだ準備段階で、立ち上げを待つ間に暇があったので、自分が温めていた事業アイデアをいくつかリサーチしました。たとえば『おばあちゃんの原宿』と言われる巣鴨を練り歩いてアンケート集めに奔走したり(笑)。その中で、これはいけそうと思うビジネスを小さく副業的に始めてみたんです。

 そうしたらジョインする予定だった友人の会社が資金繰りに頓挫してしまった。あくまで自分はその会社にジョインする前提でDeNAを辞めたのに、働き先がなくなったんです。しかし、幸いにも自分のビジネスに少しずつ顧客がついてきたので、結果的にそのまま自分でビジネスをすることにしました。

シリアルアントレプレナーとして頭角を現す

―どんな事業をしたんですか?

 今でいうオンラインサロンみたいな会員制メルマガ配信サービスです。幸いにもこの事業は最初からうまくいきました。ビジネスって意外に簡単だなって。当時は20代半ばだったこともあり完全に調子に乗っていましたね(笑)。

 するとお金に群がる怪しい人たちが集まってきました。彼らが不動産投資など、次々とお金になる話を持ってくる。その話にまんまと乗ってしまい、気づいたときには有り金全てを騙し取られていました。しかも納税前に(笑)。儲かっていた時の納税があとから来たので、キャッシュフロー的にすごくきつかったですね。

―若くして大変な経験をされてますね。他にどんなビジネスをしてたんですか?

 会員制ビジネスの知見も溜まっていたので、個人投資家向けのe-learningサービスも立ち上げました。偶然仲良くなったプロのトレーダーたちとパートナーシップを組み、私がメディア露出などのプロデュースをしながら、個人投資家にとって本当に身になる真面目な動画コンテンツを配信してましたね。

 この事業は1年後にそのパートナーの1人に譲渡しました。既に私がいなくても事業が回る状態になっていた時に、彼から「譲ってくれないか」と言われたんです。自分の手を動かさず利益だけ享受してる状況だったので、彼に譲ろうと。売却金額の相場も知らず、身内取り引きだったので適当な金額で譲りました(笑)。

―これが一度目のバイアウトですね。そのあとは何をしたんですか?

 前後して、スッポン鍋の通販事業を立ち上げてました。知り合いの紹介で九州大分の料亭でスッポン料理を食べ、あまりの美味しさに衝撃を受けたんです。

 早速、スッポン鍋を通販で売れないかと掛け合い、通販事業を立ち上げました。なんと初月に数千万の売上があがった。でも、これはいけるぞ!と思った矢先に冬のシーズンが終わり、全く売れなくなりました(笑)。

 それでも、その後も次々とスッポン関連のビジネスを立ち上げていきました。実は国産スッポンの入手ルートは参入障壁が高いんです。せっかくその入手ルートを手に入れたこともあり、スッポン関連の事業には依然として魅力を感じていました。鍋が冬だけなら他の商品を作ろうと、ゼロから勉強を開始。夏でも需要が高く、独自性のあるサプリメントを開発しました。他にも色々な商品開発をやりましたね。現在はオーガニック化粧品や九州ゆかりの無添加食材などもお届けする健康志向のD2C企業になっています。

 この会社も、しばらくすると自分の役割に一区切りがつきました。それで立ち上げから2年後、当時の役員たちに私の持株を売却したんです。ちなみに、現在も私は取締役として残っていて業績も絶好調です。

メディアでも話題を呼んだスッポン商品
絶品の国産スッポン

熱狂の中でサービスが急成長

―その通販会社をやり続ける選択肢はなかったんですか?

 実は当時、ティファレトも並行して立ち上げてました。そちらが急速に伸びて多忙になったこともあり、自分のリソースを集中させたかった。それで通販事業を離れることにしたわけです。二度目のバイアウトですね。

―お悩み相談サービスが順調に伸びていたんですね。

 伸びてはいましたが、最初は順風満帆ではなかったです。マッチングプラットホームなので利益が出るまで、とても苦労しましたね。ToCビジネス全般に言えることだと思いますが、立ち上げ期は赤字を掘り続けるんです。とにかく「これは試練。天命だ!」と気合いで乗り越えていくしかなかった(笑)。

 1時間に何十万円の赤字だと考えると、自分自身はオチオチ休む余裕もない。休日なんて勿論ない。ご飯を食べているときも常にスマホ画面と睨めっこしてました。ある大晦日には旅館で年越しを迎えながら、自ら魂を込めてユーザー様向けにメール配信していたことを、今でも鮮明に覚えています。

 そんな風に悪戦苦闘していくうちに、事業は飛躍的に伸びていきました。まさにサービスの思想とも重なりますが、会社の未来を変えるには、お客様はもちろんスタッフやサービス参加者など、関わる人の未来をプラスに変えなければならない。カスタマー対応一つとっても「関わった人に1ミリでも幸せを」という価値観を隅々まで徹底させたことが、この結果を生んだと思います。社内の皆も一人ひとりがそれを理解し、体現してくれました。その甲斐あって、リピーター様が飛躍的に増えてくれましたね。綺麗ごとでなく、「人と人とのご縁と感謝が成功の鍵」だったと思います。

累計相談100万件以上のお悩み相談サービス
ティファレトのメンバー

未知の道をゆく

―現在は教育系企業を経営しているそうですね。やはり、また主体者として自ら経営したいと思ったんですか?

 バイアウトして余暇を充実させたり、投資家として社会と関わっていても、やはりどこかで物足りなさを感じてしまったんです。何が足りないのか突き詰めて考えると、仕事において深く直接的に、人の気持ちや未来に向き合えてないなと。

 それと、やはり良いToCサービスを作ることに熱中するのが好きなんですよね。ティファレトでは人と人との深いお悩み相談という事業を経験しました。そして次は大人・子供に関わらず「人が人を導く教育」に携わりたいと思いました。

―現在の教育系企業は買収した会社だと聞きました。どうしてゼロから立ち上げるのではなく、買収したんですか?

 昔と今ではスタートアップの状況も変わりました。昔はライバルもそこまで多くなかったり、お金も今ほど集まらなかった。だからアイデアと、ちょっとしたお金があれば勝負できたんです。でも今は状況が違います。優秀な人材がどんどんスタートアップを立ち上げ、そこに資金が集まっている。大企業も社内ベンチャーやスタートアップとの提携に積極的です。

 なので次に何かを始める際には、またスタートアップの世界で勝負するのではなく、すでに歴史やブランド価値をもっている会社を買収してそこを足掛かりに開始したほうがいいんじゃないかと思ったんです。数百社の候補を見続けて、残ったのが2社。そのうち1社はコロナで交渉中断してしまいました。もう1社はオーナー様がとても誠実で信頼できる人だったのでトントン拍子に話が進んで、譲渡が無事に完了しました。

―この教育系企業もいずれはバイアウトを検討してますか?

 バイアウトは全く考えてません。なぜなら私は過去にもうバイアウトを経験してるので、今は様々な形での発展を中長期で実現してみたいと考えています。たとえば分散型の組織形態のトライアルや、段階に応じた異なるサービス形態。事業者様向けサービス、教育に関連する事業の買収など、色々な妄想を広げています(笑)。

 私自身は自分がまだ歩んだことのない未知の道を切り開いていきたいですし、その過程で多くの人たちの未来が変わるきっかけに貢献できれば嬉しいなと思っています。

―ありがとうございました。

                     

宗清 晶(むねきよ あきら)プロフィール

山口県徳山市(現:周南市)生まれ。慶應義塾大学商学部に入学。株式会社DeNAに入社した後、独立して事業を開始する。その後も連続起業家として個人投資家向けのe-learningサービス・食品通販サービスを立ち上げ、両社をバイアウト。2014年末には、お悩み相談サービスを提供するティファレトをサイバーエージェントグループのCAモバイル(現:CAM)にバイアウトした。現在は投資家の傍ら、教育系事業を経営。

出口のその先に 第1回

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