―これまで石嶋さんはマーケティング力をどう磨いてきたのですか?
石嶋:原点は高校時代のアルバイトです。高校2年生の時に、私は地元のトンカツ屋でアルバイトを始めました。でも、その店の経営がうまくいっていなかったんです。1日にお客さんが5組ぐらいしか来ないのに、バイトが6人もいましたから。正直、お店の経営が心配になりましてね。バイトの身でしたが、店長にお客さんを増やす策を提案しました。それは、割引券が付いたチラシの配布です。店のバイトは2人で充分なので、残りの4人が1週間で1万枚チラシを配りましょう。そして、効果測定をしてみましょうと。この案が採用になり、近隣の家にチラシを配りました。すると、1ヵ月間で割引券を持ったお客さんが250組も来店してくれたんです。ただ、チラシの効果は1ヵ月くらいで薄れてきました。そこで、リピートを促すため、来店したお客さまに割引券を渡すことにしました。その割引券にも「夫婦の方は10%引き」など、ちょっとした工夫をしましたよ。あとは、家族連れのお客さまに来てもらうために、「土日に来店したお子さんには無料で風船サービス」という企画なども実施しました。すると、リピーターが増えて、売上は前月比で1.8倍になりました。店長も非常に喜んでくれましたね。私も頭を使って、店の売上を上げていくのは楽しかった。そこで、ますますアイデアを提案するようになって、1年後には売上が3.8倍になりました。私の時給も650円からスタートして、1年後には1200円にまで上げてもらいました(笑)。
―新規顧客を増やすには、どうすればよいのでしょうか。
石嶋:方法はいくつかありますが、費用対効果の高い「看板」を設置し、店舗の近隣住民をはじめ、商圏顧客を獲得することが有効です。そうすれば、店舗へのリピート率アップが期待できます。通常、店舗経営者は集客のためにグルメ情報誌に広告出稿するなど、多額のコストを毎月負担している場合が多い。しかし、グルメ情報誌を見て来店するのは広範囲な地域の不特定多数層であり、リピート顧客となる可能性が低いのです。当社は2003年の創業以来、飲食店を複数店経営。そのノウハウのもと、ターゲット層のニーズに基づく空間の演出、メニュー開発、社員教育などに注力し、少しでも客数を増やそうとさまざまな努力を重ねてきました。しかし、なかなか満足な集客ができなかった。原因はさまざまありますが、その1つとして考えられるのは、当社の飲食店には当初ネームバリューがなかったこと。また、店舗が1階の路面店といった好立地でないことなどでした。そこで、当社はデジタルサイネージを店舗の看板として開発。自社で経営する飲食店の前に設置したところ、2階という店舗条件にも関わらず、翌月には新規来店数が30パーセント以上もアップしたのです。
―高校時代のアルバイトが成功体験になったんですね。
石嶋:そうですね。トンカツ屋の売上を伸ばしたことと、いまやっているWebマーケティングは同じだと思っています。どちらもお客さんを集めて、商品を買ってもらい、リピートしてもらう。手段がチラシからWebに変わっただけで、マーケティングの本質は同じです。
―商売の本質は変わらないと。Webに携わるようになったのは、いつからですか?
石嶋:大学時代からです。バイト先のエンタメ施設でお客さんを増やすため、新たにホームページを立ち上げるという話が持ち上がりました。そこで、なぜか私に任されたんです。それまでホームページを作ったことがなかったので、ゼロから独学で勉強しました。そしてホームページが完成した後、そのURLを載せたチラシを配布しました。すると、客数が2.4倍に増えたんです。この件でWebに可能性を感じ、もっとWebマーケティングを極めたいと思うようになりました。
―石嶋さんは大学を卒業後、広告代理店を経て、ミスターフュージョンを設立しています。最初はホームページ制作を請け負っていたのですか?
石嶋:最初に請け負った仕事は、ホームページ制作ではなかったんです。兄の紹介で、中古車販売店から「予算は5万円しか割けないが、売上を上げてほしい」という依頼を請けました。この会社の社長さんは営業熱心で、既存顧客に頻繁に電話をかけていたのですが、あまり売上アップに結び付いていませんでした。しつこいくらい電話をかけるので、お客さんに逃げられてしまっていたんです。そこで、私は「ステップメール」というシステムを提案しました。これは指定した間隔で、複数の違う内容のメールを自動送信できるシステム。それを導入して1年後、売上が7倍に増えたんです。お客さんは電話だと「売り込みを受けている」と迷惑に感じるのですが、メールだと「専門家に情報を提供してもらっている」とポジティブに捉えるんです。実際、お客さんから「カーナビはどれを買えばいい?」、「いつ頃タイヤを替えればいい?」など、次々に相談の電話がかかってくるようになりました。この件が評判となり、地元の大手企業からマーケティング案件の依頼が舞い込みました。その案件を成功させると、別の会社を紹介してもらい、紹介が紹介を呼んで、どんどんクライアントが増えていったんです。
―現在は仕事が増えすぎて、依頼を断っていると聞きました。
石嶋:ええ。サービスの質が落ちる危険があるので、意図的に仕事量を絞っています。プロとして仕事の質は絶対に下げられませんからね。現在は1000万円以上の案件だけを請け負っています。それでも「ホームページを改善してほしい」という依頼が絶えません。中には、社長から直々に「うちの息子を預けるので、Webマーケティングを教えてやってほしい」という話もいただきます。
―高校時代のアルバイトが成功体験になったんですね。
石嶋:そうですね。トンカツ屋の売上を伸ばしたことと、いまやっているWebマーケティングは同じだと思っています。どちらもお客さんを集めて、商品を買ってもらい、リピートしてもらう。手段がチラシからWebに変わっただけで、マーケティングの本質は同じです。
―人材育成の依頼まで来るようになったのですね。
石嶋:ええ。仕事が受けられない代わりに、当社では若手人材にWebマーケティングの基本を教える機会をつくろうと考えています。1年間、私の"カバン持ち"として丁稚奉公してもらい、Webマーケティングのノウハウを盗んでもらおうと。もちろん費用は無料。すでに東北の中小企業から、社長の息子さんを受け入れることが決まりました。日本には優れた商品や技術を持っているのに、効果的なマーケティングができていない中小企業がたくさんあります。私は未来を創る若手人材にWebマーケティングのノウハウを伝え、日本の中小企業を強くしたい。それが当社なりの社会貢献だと考えています。