市場調査で確立した優位性は、たちまち失われてしまう
―企業がマーケティング活動を行ううえでの問題点はなんでしょう。
多くの企業が、「モノを売るために市場調査を行うことがマーケティング活動である」と認識していることです。確かに、市場の動向をつかむことで、品質や価格による優位性を高めることはできます。しかし、経営環境の変化が激しい現在、そうした優位性は時間とともにたちまち失われ、市場で長く競争力を維持することは困難です。マーケティングの本質は、「自社に優位な市場を創ること」です。変化の激しい時代だからこそ、この本質を追求する最善の戦略は、マーケティングにブランディングを融合した「ブランドマーケティング戦略」であると、当社は考えています。
―それはなぜですか。
どのような企業でも、経営資源の多寡に左右されることなく、自社に優位な市場を創り、自らの競争力を高められるからです。商品がコモディティ化した市場において、品質や価格で戦うには、ヒトやカネといった資源が多く必要になります。それに対して、「このブランドの商品だから購入したい」と消費者に選んでもらえる独自のブランドを確立し、それをマーケティングに活かせれば、熾烈な競争に巻き込まれることなく市場優位性を保てるでしょう。ただし、他者の心を動かすブランドをつくり、持続的な企業成長につなげていくには、3つのステップを踏むことが重要です。
ブランドとなりえる資源は、どんな企業にも存在する
―3つのステップとはどのようなものですか。
まずは、ブランドとなりえる自社独自の魅力や「資源」を把握し、経営環境の変化を捉えながら自社をポジショニングすることです。次に、ステークホルダーの共感を得られるような、経営者の想いや企業の歩みを伝えるストーリーを設計すること。そして最後は、戦略的に市場を創造し、ビジネス成長につなげられるマーケティング戦略を描くこと。
当社では、約10年にわたり磨きこんできた複数のフレームワークを用い、これら3つのステップを踏んだブランドマーケティングにより、企業の成長を支援しています。
―具体的に、どういった支援を行っているのでしょう。
まずは、企業のポジショニングを行うためにその企業の「パーパス」、つまり、市場における存在意義を明確化します。パーパスは、企業のイメージを形成するにあたり非常に重要な概念であり、消費者の心を惹きつけるブランド力の源泉となるものです。次に、その明確化したパーパスを、コーポレートスローガンやステートメントといった文章に落とし込みます。物語形式で社内外により強くブランドを印象づけるストーリーテリングの手法も、当社が力を入れている支援内容のひとつです。そして、戦略的に市場を創造するための支援として、ブランドロゴや動画といったクリエイティブの制作のほか、パーパスにもとづいた新商品開発やプロモーションなどもお手伝いしています。
―自社の競争力を高めたい経営者に、アドバイスをお願いします。
どんな企業であっても、必ずそこには独自のブランドとなりえる資源が存在します。まずは、その資源に光を当て、持続的な成長を可能にするための理想の姿と戦略を描くことが大切です。当社は、光を当てるべき資源がわからず戦略づくりに悩む中小企業を、専門的なノウハウと実績にもとづき、しっかりと支援していきます。ブランドマーケティングによって、同じ想いをもつステークホルダーが集まり、共創を通じた成長を実現していく。そんな企業を一社でも多く増やしていけるよう、かかわる人たちの想いとともに、未来を創造できる存在であり続けたいです。
唯一不変の「経営者の想い」が、市場での揺るがぬ競争力を生み出す
アスエネ株式会社 Co-Founder & 代表取締役CEO 西和田 浩平
株式会社エフアイシーシー 代表取締役 森 啓子
競争環境が激化するなか、たとえ現状で先進的な技術力やビジネスモデルを擁していても、市場での優位性確保に頭を悩ませる経営者は多い。新電力事業を手がけるアスエネの代表、西和田氏もそうした経営者のひとりで、ブランドマーケティングを活用した新たな競争戦略に、取り組み始めたという。ここでは、西和田氏と、同氏を支援したエフアイシーシー(以下、FICC)代表の森氏に、取り組みの内容や今後期待する成果について聞いた。
あらゆる製品やサービスは、コモディティ化してしまう
―アスエネがブランドマーケティングに着目した経緯を教えてください。
西和田:FICCの森さんと互いのビジネスについて話しあうなかで、ブランディングの重要性に気づかされたことがきっかけでした。当社は、ブロックチェーンを活用した電力のトラッキングシステムや、CO2排出量を可視化するサービスを開発、提供しています。また、「100%の再エネ電力」を地産地消型で提供するのも事業の特徴です。創業以来、こうした技術力や直販営業力、ビジネスモデルによる差別化には注力してきましたが、ブランディングという観点では十分に対応できていなかったのです。
―技術力やビジネスモデルによる差別化では不十分だと。
西和田:はい。インターネットやスマートフォンが普及し、情報が急速に伝わる環境においては、いずれ競合他社を含めてあらゆる製品やサービスはコモディティ化してしまう傾向があります。そうなった場合でも、自社の独自性を維持できるのは会社のミッションやビジョン、バリューを含めた「ブランド力」にほかならないと気づいたのです。
森:西和田さんのお話を聞いていると、地球規模の気候変動問題に真剣に向き合う、ご自身の大きな熱量を感じるんです。アスエネさんはすでに他社と差別化されたテクノロジーや価格優位性がありますが、西和田さんの業界や社会に対する強い想いこそ、不変で、多くのステークホルダーを惹きつける競争力の源泉になると確信しました。
―現在、具体的にはどういった支援を行っているのでしょう。
森:まずは、当社が独自開発した『ビジョンラダー』というフレームワークを用いて、自社分析を行ってもらいました。『ビジョンラダー』は、ビジョンやミッションといった大義や、競争環境、経営資源を整理することでそのブランドの強化すべき点を明らかにし、優位な市場の創造と経営資源の調達にもつながるパーパスを明確化するものです。この分析は、西和田さんに専用のフォーマットに記入してもらったうえで、当社がヒアリングを行い、進めました。
西和田:ブランドを強化したうえで、FICCさんには当社のコーポレートスローガンやステートメントも作成してもらっており、今後はそれらをWebサイトや会社案内に掲載する予定です。
ブランドマーケティングを、新たな「共創」につなげる
―ブランドマーケティングに期待する成果を聞かせてください。
西和田:明確化された当社のパーパスが、当社の理念を伝えるテキストやロゴといったカタチに落とし込まれることで、さまざまなステークホルダーの共感を得られやすくなる効果を期待しています。たとえば、潜在顧客からは、「アスエネというブランドと当社のミッションに対する共感」を理由にサービスを選んでくれるようになること。また、会社が大切にしている価値観がより正確に求職者に伝わり、採用力の強化につながることも、ブランドマーケティングに期待するところです。
―今後、ブランドマーケティングをどのように経営に活かしていきますか。
西和田:気候変動問題に対する日本人の危機意識はまだ弱く、当社では事業を通じてその意識を変えていきます。その際は、いかに多くのステークホルダーを巻き込み、新たな事業の創出を含めた具体的なアクションを起こしていくかが大切です。そのためにも、ブランドマーケティングを通じ当社の理念を共有できる仲間を増やしていきたいです。
森:ブランドマーケティングが秘める最大の効果は、他者の共感を得ることで、経営資源を無限大に増やしていけることです。そこから、「共創」によってイノベーションが起こります。そうした循環を生んでいくためにも、今後も企業のブランドマーケティングを支援していきたいと思っています。
FICCさんによるコンサルティングや、『ビジョンラダー』を使った自社分析を通じて、市場におけるアスエネの存在意義を明確化することができました。事業に対する想いや会社の魅力が、関係者に十分に伝えきれていなかったという、気づきも得られました。