人口の絶対数が減少するなら参加率を高めるしかない
―2018年3月期は二度の上方修正を行い、連結売上高は970億円を予想しています。好調な業績の要因はなんでしょう。
国内と北米、両市場で最低賃金がかなり上がったことです。とくに国内はアベノミクス以降のここ4~5年、アルバイトの時給が10%以上、上がっています。その結果、当社のコアターゲット層である20代前半の若者層の可処分所得が増え、ボウリング場、ゲーム、カラオケという当社3事業への参加率が増えたとみています。
当社にとっては、レジャー参加率は非常に重要な指標です。人口減少の影響から、国内レジャー産業の市場規模は縮小を続けています。とくに当社のコア層である大学生人口は、20年前の団塊ジュニア世代が200万人だったのに対し、現在は120万人。今後20年でこれが100万人前後に減るとの見通しもあります。
人口の絶対数が減少するなかで、成長を維持するには、参加率を高めるしかありません。
―しかし、主力のボウリング場をみれば、参加率自体も長期的には下がっているのではないですか。
残念ながら、そのとおりです。20年前の70%前後から、現在は30%強ほどに半減しています。人口が60%に落ち、参加率も半減しているので、市場規模は30%になっている計算です。そのため、15年ほど前からボウリング業界では団塊世代を対象に、「シニア層の取り込み」に力を入れました。
当時は、「この層を取り込まなければ、その業界は滅びる」と、どの業界でも言われていた時代でした。
しかし、シニア対策は即効性があるものの、団塊世代をピークに、ゆくゆくはシニア層でさえ減少傾向に入ります。結局は、若者層の開拓を疎かにしていれば、いずれ市場はシュリンクするだけ。ゴルフ場やパチンコ、マージャン業界がいい教訓です。
小中学生を取り込み10年後の市場をつくる
―結局は、若者層の取り込みが重要だということですか。
ええ。コストをかけてでも若者層の参加率を上げていかなければ、業界の健全な成長は望めません。そこで当社では、若者層の参加率を上げるために、ふたつの施策に力を入れています。ひとつは、保護者と来店する小中学生の無料化です。ボウリングに限らず、スキーやスノーボード、カラオケでも同じですが、幼いころの経験がその後の習慣に与える影響は大きいんです。子どものころにそういう場所に親に一度しか連れて行ってもらったことのない人は、大学に入って友だちに誘われても断る傾向があるといいます。それが10回連れて行ってもらった人は、断らないもの。これが20~30回なら、逆に誘う側になる。そういうものなんです。
―いわば、10年後の市場をつくっている、と。
そのとおりです。ですから、親が子どもを連れてきやすい環境をつくることで、将来の若者層の参加率を上げていく。長期的施策であり、即効性はありませんが、これが重要なんです。
そして、もうひとつが新マシン開発による話題性の確保です。当社の事業でいえば、ゲームやカラオケはメーカーがそれなりに新機種を開発してきましたが、ボウリングにかんしては1980年代にスコアが自動計算されるコンピューターボウリングが登場して以来、ほとんど新機種が登場していない。そこで当社では、今年の年末から約半年程度をかけて、全店の大幅リニューアルに踏み切ります。
私がトップである間はどんな多角化も慎重であるべき
―それはどのようなものですか。
ボウリングとカラオケの新マシンを独自に開発しています。ボウリングについては、30年ぶりのフルリニューアルを計画しており、全国4000レーンをすべて新マシンに入れ替えます。LEDや高精細大画面映像といった最新技術を駆使し、まるで真横でプレーしているようなリアルな感覚の対戦型ボウリングマシンを導入します。全国の支店同士の対抗戦というような楽しみ方もできるでしょう。
同様に、カラオケでも同様のネットワーク環境を構築し、インタラクティブな交流環境を提供します。そうなるとそこは、もはやボウリングやカラオケをするだけの場所ではなく、遠隔地にいながら同じ楽しみを共有できる場になる。たとえば、マジックバーでせいぜい数名しか楽しむことしかできなかったマジックを、全国で数千名が一度に楽しむことができる。地下アイドルやインディーズバンドのオフ会を開くのだっていい。もはや、「ボウリングに行こう」「カラオケに行こう」じゃなくてもいい。遠隔地の若者同士がリアルにインタラクティブな交流ができる環境があり、たまたまそこにボウリングやカラオケもある、という考え方ですね。ただし、ボウリングやカラオケといったリアルな楽しみがそこに実在するというのは、店舗をもつ強みですね。いつの時代も、若者は仲間と集える場を求めているものです。
―事業の核心にはつねに若者層の取り込みがあるようですね。
ええ。当社事業のメインターゲットは20代前半。彼らの趣味・嗜好に関心をもち続けようと意識しています。中核であるこの層を開拓する意識が薄れ、安易にほかの施策に目が向いたときに、足元が揺らぎ、時代の変化の波にのまれそうになる。それがこれまでの当
社の歴史でしたから。
その考え方は事業開発でも同じです。共通ポイント事業など、本業とかけ離れた新規事業に手を伸ばした際は、大きな失敗も経験してきました。ですから、事業の基本、「本業を忘れない」ことは、経営の基本に置いています。私がトップである間は、どんな多角化も慎重であるべきと戒めています。レジャーという切り口であれば、映画館もできる、温浴施設やゴルフにも手を伸ばせる、とは考えない。そんな考え方は「こじつけ」だと言い聞かせているんです。レジャー産業は、人口動態や趣味・嗜好の変化といった、時代の変化の波をまともに受ける性格が強い事業です。ですから、創業以来、何度も苦境に立たされてきました。全国で初めて本格的な複合施設を展開したのも、上場を果たして全国展開に舵を切ったのも、また北米市場に進出したのも、みなこうした時代の変化を乗り切るための挑戦でした。ただ、その際にいつももち続けていたのが、本業への信念。それがあったからこそ、時代の変化を乗り切れたのだと信じています。