―経営トップに就任以来、なぜ増収増益を続けることができたのですか。
松本:カルビーという会社にポテンシャルがあったからです。私はそれをちょっと引き出しただけ。だから、5期連続の増収増益はなんでもないこと。少なくとも、あと30年は続けないといけません。
―国内市場は縮小傾向にあり、競合企業もひしめきあっています。どのようなアプローチで打ち手を考えたのでしょう。
松本:まず業績が低迷している原因を人に求めず、仕組みに着目しました。前任者を否定して人事を刷新する経営者もいますが、なんの意味もありません。最近は仕組みをくわしく説明するのが面倒になって「集中購買でコストを下げました」なんて言っていますが、はじめから理屈を組み立てていました。それにそって、当たり前のことを粛々と実行しているだけですよ。みんな頭が良すぎるから、経営を複雑にしてしまう。すると、理屈を従業員が理解できず、戦略を実行できません。だから、私みたいに"中の上"くらいの頭が経営者に向いているんです。理屈をシンプルにすると、従業員が納得してついてきてくれます。
―増収増益を実現させた仕組みについて、具体的に教えてください。
松本:まず集中購買によって、単価を下げたり、ムダな購入を減らします。購買コストが下がれば利益が出ますが、すぐにとりこんではいけません。コストを下げたら、商品価格を下げてお客さんに還元するんです。すると市場シェアが上がり、工場の稼働率が上がる。稼働率が上がると、固定費が下がる。その利益は自社にとりこむ。簡単な理屈ですよ。
―工場の稼働率を上げれば、利益率も上がるわけですね。
松本:稼働率と固定費の相関関係をみなさん意外とわかっていないようです。たいてい変動費をいじりたがります。もともとカルビーは営業利益率が1.4%~2%と低い体質でした。目標は食品企業の世界標準15%ですが、いっぺんに上げるのはムリ。まずは10%を目標にして、それを達成する方法を考えたのです。もし目標まで30%離れていたら、すべての工場をフル稼働しても足りません。目標が10%だからこそ、この手法を実行しました。じつに帰納的でシンプルな思考法です。
―目標をひとつにしぼったこともポイントですね。
松本:ええ。アレもコレもと指示したら、従業員が混乱します。だから、いちばん大事な利益にしぼる。なかでも営業利益率がわかりやすいでしょう。カルビーも一時期は「コックピット経営」なるものをやっていました。事業ユニットごとの膨大な数値データをグラフ化して毎週更新。全従業員に共有して、さまざまな判断に活かす手法です。理論的には間違っていませんが、複雑すぎます。ジェット機内のようなたくさんの計器は読めません。いまは指標を減らした「ダッシュボード」に変えました。車のダッシュボードは計器が少ないですよね。ドライバーが確認しているのは、スピードメーターとガソリンの量くらいです。
―松本さんがとくに注意深くチェックしている項目はなんですか。
松本:各指標の成長をみています。利益の成長、売上の成長、EPS(1株あたり純利益)の成長。あとは工場稼働率、製造原価率、マーケットシェア。それくらいですよ。指標が多すぎると知恵が出てきません。数字は正直です。急に増えたり減ったりする現象には、必ず理由がある。それはなんなのか。自分で仮説を立てて、現場に行って検証する。仮説が正しければ、それにそってアクションを起こす。これも単純なことです。
―数字を分析して、どのようなことがわかりましたか。
松本:たとえば、地域別・商品別の売上を分析するなかで"売れる理由"がわかってきました。まず当社の商品でいちばん大事なのは「おいしさ」。しかし、これは必要条件にすぎません。十分条件は「価格」です。くわえて、店舗に商品を置いてもらう「営業力」がないと、なかなか売れません。以前は「モノがよければ、黙っていても売れる」という考えが社内にありました。しかし、これはおごりでしょう。いい商品をつくる、買いやすい値段にする、それをしっかり売る。当たり前のことですが、この基本を徹底することが重要です。
なぜ株主第一主義ではないのか
―御社は2011年3月に株式を上場しましたが、グループビジョンにはステークホルダーの最後に株主が記されています。なぜ株主第一主義ではないのですか。
松本:上場企業として、最終的には株主への利益還元をめざしています。でも、そのためには最初から株主利益を追い求めたらうまくいかないんですよ。その理由は、短期的視点におちいって中長期の戦略を実行しづらくなるから。もうひとつは、不祥事を起こす可能性が高まるからです。株主のために今期の利益向上だけをめざしていると、いつか不祥事を隠したり、粉飾決算をしかねません。あとは結果ですよ。「従業員が大事、コミュニティが大事」なんて理想を語っても、結果が出なかったら経営者はクビ。それは株主が決めることです。
―カルビーグループはアジア地域を中心に、積極的な海外展開を進めています。経営資源の乏しい中小・ベンチャー企業は、どのようにグローバル化に対応すればいいのでしょう。
松本:国内の成功体験を海外に持ち出しても、うまくいきません。成功するために欠かせない要素が3つあります。1つめは、コスト。「おいしいから売れる」という理屈は通りません。その国でお客さんが払ってくれる値段を見つけて、コストを適正化してください。2つめは、スピード。たとえば、もともと中国には「スナックを食べる」という習慣がありませんでした。ところが、ここ数年ものすごい勢いで市場が成長している。海外メーカーの対応も速く、こういったスピードについていかなければ成功は難しいでしょう。3つめは、現地化。仕入れや商品開発はもちろん、経営者や従業員も現地の人材がいい。本社はサポートに徹します。
―なぜ日本人よりも現地の人材がいいのですか。
松本:どの国の人材も、本来もっている能力は同じだと思いますよ。ただ2014年の時点では、少し日本人が劣勢です。あまり勉強しない、一所懸命に働かない、人件費が高い。すると、現地の人材を使うほうがうまくいく可能性が高いわけです。マネジメント側を日本人で固めるやり方は、とっくの昔に終わりました。中小・ベンチャー企業でも、現地人材をトップにすべきです。
―松本さんが考える、経営者に必要な条件を教えてください。
松本:すべての基盤になるのは倫理観です。わかりやすく表現するなら、「おてんとさまが見ている」と考えることですね。たとえば、制限速度が時速50㎞の道路を51㎞で運転してもいいでしょうか?たとえ人が見ていなくても、おてんとさまが見ているのでルール違反はいけません。法律は国によってバラバラですが、基本的な倫理観は世界共通です。
―ほかの条件はありますか。
松本:2つめは、地頭。学力や学歴とは関係ありません。3つめは、コミュニケーション力。話の上手下手ではなく、人から好かれることです。4つめは、トラックレコード。過去に圧倒的実績があると、成功する確率が高い。5つめは、論理的思考力。相手を納得させる力です。これは地頭が悪くても、身につけられます。そして最後は"徳"。「あの人のためなら」と周囲に思わせるような高い人間性です。
―業績低迷に悩む中小・ベンチャー企業の経営者に対して、アドバイスをお願いします。
松本:経営者の仕事は夢づくりです。ぜひ従業員がワクワクするようなホラを吹いてください。たとえば、柳井さん、孫さん、三木谷さんは"大ボラ吹きの大夢語り"でしょう?企業規模に関係なく、「みんなでこの夢をかなえよう」という壮大なビジョンがあると、それに向かって強力なベクトルがはたらきます。私たちも「2020年に1兆円企業」「業界で圧倒的No.1」といった目標を掲げています。実際にそうなるかどうかはわかりませんよ。魅力的な夢をえがいて、従業員を感化することが大切なんです。