こだわり続ける「コアとしての価値」
―2021年9月期連結決算では、売上高2,408億円、営業利益229億円といずれも過去最高となりました。この結果をどう分析していますか。
コロナ禍の厳しい環境下でしたが、数字としてはがんばったほうかなと評価しています。売上・利益の各成長率も含め、コロナ禍以前に掲げた3ヵ年の中期経営計画における数値目標は、すべて達成することができましたから。特に、ビジネスの基本であるトップラインがある程度の水準で維持できたのは良かった。テイクアウトやデリバリーといった、従来とは異なる領域で需要を取り込めた結果ですね。
ただし、外食産業はいまが一番厳しいタイミングです。10月までもらっていた政府の補助金や自治体の協力金が、11月以降はなくなりましたが、お客さまの行動はまだコロナ前ほどには戻っていない。そういったなかで、いま努力すべきは、お客さまに選んでいただけるために魅力ある提案を続けることだと思っています。
―たとえば、主力の『スシロー』にとっては、顧客に「選ばれる理由」とはなんでしょう。
基本は、美味しくて安ければ選ばれるわけですが、我々がよく言っているのは、「安くて美味しいものはダメ」で、「美味しくて安い」じゃなければいけないということです。まずは食べて美味しくて、お支払いのときに「思ったよりも安かったね」と思っていただけるかが大事なんです。どれほど事業の規模が拡大しようと、それこそが変わらずにこだわり続けている当COMPANIESとしての「コアの価値」です。今回の業績は、コロナ禍の厳しい環境で、この当社の「コアの価値」が評価された結果ではないかと受け止めています。
たとえ損失が出るとしても、店舗を開け続けてきた
―コロナ禍を成長の機会に変えたわけですが、今回の危機は、会社にとってどのような意味がありましたか。
一番大きかったのは、現場の責任者である店長が、自らの責務の重さを実感できたことだと思っています。原材料のコストから、働いてくれる人たちの人件費などを日々コントロールするのは、当社では店長の仕事です。これをうまくコントロールできるかどうかで、お店が被る影響はまったく違ったものになります。『スシロー』の場合、働いてくれるスタッフは店舗当たり70~80名にのぼります。彼ら彼女らへの責任という視点から日常の仕事の意義を強く感じてもらえたことは、今後のCOMPANIESの発展にとっても、大きな意味があったと感じています。
―水留さん自身は、危機に際してどのような責任や役割を意識してきたのでしょう。
自分たちの事業を、社会になくてはならないライフラインのひとつと位置づけ、そのことを世の中に認知してもらうためにどうすべきかを意識してきました。それは、お客さまにとってなくてはならない存在というだけではなく、COMPANIES5万人以上の雇用を守るという社会的な意味もあります。ですから、お店は簡単には休みませんでした。自治体からの要請には従うことを前提に、たとえ営業したほうが収益的には損失が出るとしても、我々は可能な限り踏ん張って店舗を開け続けてきたのです。そうした会社としての方向性を打ち出す一方で、損失を最小限に抑え、しっかりと利益を確保できる事業構造の確立にも力を入れてきました。
危機にあってこそ、攻めに転じるべき
―現在、もっとも力を入れている施策はなんでしょう。
ひとつは、新たな中期経営計画にも盛り込んでいる通り、国内外でかなり踏み込んだ出店攻勢をかけることです。今回のコロナ禍のように、「危機にあってこそ攻めに転じるべき」というのが私の考えです。『スシロー』ではテイクアウト専門店を含めて国内で年間約50店舗以上の出店を計画しているほか、海外では中国大陸を中心に出店を加速します。新たな地域での展開も含めて、海外では国内を超える成長をつくる考えです。さらに、『京樽』や『海鮮三崎港』のリブランディングや新業態展開など、このタイミングでもまったく変わらぬ積極的な出店計画や拡大戦略を打ち出していきます。
もうひとつは、中長期的な視点に立ち、事業における「サステイナビリティの確保」を経営の最重要テーマに掲げています。
―詳しく教えてください。
我々の事業では、天然の海洋資源を数多く調達していますが、近年は資源量の枯渇や気候変動による影響といった問題が顕在化しています。こうした問題への対応は、我々の事業が発展し、新たなステージに向かううえで欠かせないテーマだと考えています。「どういった資源を、どう使いこなしていくか」といった改善施策も必要です。しかしそれだけではなく、従来の「獲れた原材料を買う」という立場を超えて、「原材料そのものを育てる」といった視点も必要になるでしょう。そのために、養殖事業者との資本提携や、飼料・種苗の共同開発はすでに着手しており、事業の川上となる調達基盤を強化することで競合優位性を確固たるものにしていきます。
―そうした取り組みは、生産者を守る効果も期待できそうですね。
その通りです。今般のコロナ禍でも、需要の急激な落ち込みで打撃を受けた生産者が多かったようですが、我々と提携していた生産者に限っては、複数年契約で設定していた量と価格による調達を維持したことで、コロナ禍でも安定した経営ができたとのこと。ここ数年、取り組んできた調達基盤強化の取り組みの意味が、広く生産者のみなさんに理解していただけたようです。
「利益への執着」は、経営者に必要な姿勢
―危機にあっても会社を成長に導ける「経営者の条件」があるとすれば、それはなんでしょう。
基本的に、経営者にはいろいろなスタイルがあっていいと思っています。ただし、「事業に対する想い」や「あきらめないしつこさ」のようなものは、どのようなスタイルであっても大事なのではないでしょうか。特に、困難な状況にあっても利益を上げようとする「利益へのしつこさ」をもっている経営者は、危機にも強いでしょうね。日頃から、利益率の高い事業ができているかをしつこく意識する姿勢はとても重要だと思います。あくまでたとえで言っているのかもしれませんが、よく「お客さまに喜んでいただければ、利益はなくてもいい」といった発言をされる経営者がいますが、私は個人的に、それは「絶対に違う」と思うのです。事業を継続させたいのであれば、「利益への執着」は非常に大事です。そのうえで、事業に大志を抱くことができれば、危機にも負けない強靭な経営ができるのではないでしょうか。