陸海空あらゆる市場において、世界規模で事業を展開
―事業内容を教えてください。
我々は、気象にかかわるあらゆるリスクに対する問題解決のコンテンツを提供している会社です。たとえば、海だけ、空だけ、陸だけ、日本だけ、アメリカだけといった、各分野・エリアに特化してそのような情報を提供している会社はいくつかあります。ただ、陸海空あらゆる市場に対して、しかも世界規模で提供できるところは、当社だけだと自負しています。
現在、拠点数は21ヵ国で32拠点。50ヵ国・地域でサービスを展開しており、航海気象や航空気象、鉄道気象、生活者向け気象など、さまざまなマーケットを対象にしています。
―気象庁の取り組みと、なにが異なるのでしょう。
大きく、ふたつの違いがあります。ひとつは、気象庁は精度の高い気象予測の提供がいちばん求められています。当社でも精度は当然求められますが、それだけを追求してもビジネスになりません。冒頭に話したとおり、気象予測だけでなく、気象リスクに対する問題解決までを提供しているのです。
わかりやすくコンビニエンスストアで言うと、「明日の最高気温は何℃になる」という情報だけではなく、「だから冷やし中華を通常の2倍発注したほうがいいですよ」という情報が課題解決になる。そこまでやるのが、ウェザーニューズなんです。
もうひとつの違いは、気象庁は情報を必要とする人に対し、広くあまねく対応していく必要があります。言わば「みんなの気象庁」ですね。一方当社は、個別に対応していく必要があるので、言わば「あなたのウェザーニューズ」です。そういった役割の違いが、明確にありますね。
差別化に欠かせない、専門家の存在と予測精度向上
―どのようにして、気象リスクに対する問題解決まで行っているのですか。
「リスクコミュニケーター」の存在が大きいです。これは気象リスクをモニタリングし、対応策情報を伝える担当者のことです。
たとえば、航空分野における課題のひとつに「余分燃料をどのくらい積むか」があります。これは、航空法で定められているのですが、それをすべて把握する。そのうえで、パイロットの経験や飛行機の大きさ、各空港の特性などを踏まえ、気象予測を加味して考える必要があります。そこまで行うためには、それなりの航空知識がないとムリなんですね。
我々は、民間会社としていち早くこの分野に参入したイニシアティブを活かし、300人体制で気象リスクをお伝えしています。これが、絶対的な差別化ですね。そして、もうひとつ重要な要素があります。
―それはなんでしょう。
やはり、予測精度を向上させることです。世界最大の気象データベース構築を目指し、飽くなき挑戦を続けています。そのため、世界各国の気象庁が観測する情報の収集にくわえ、我々自身で観測を行っています。当社独自で気象衛星を2基あげているのは、その一例ですね。
もともと気象衛星のミッションは、北極海における海氷の正確な位置を観測することでした。残念ながら、どこの国の気象庁もそんなところを観測してくれませんから。しかし、夏場に北極海航路をトライする船会社に対して、「海氷がいまここにあるから避けたほうがいい」という情報を提供するには、海氷の位置を正確に把握することがどうしても必要だったんです。
そのほか、さまざまな独自観測を行っていますが、個人の方からの情報収集も大切な要素です。
―詳しく教えてください。
当社ではBtoBだけでなく、Webとスマートフォンアプリによって個人向けに気象情報の提供を行っていますが、逆に一人ひとりの身の回りに起こっている気象情報をフィードバックしてもらっているんです。
象徴的な例として、日本における冬場の雪予測は地域で降り方が全然異なるので、すごく難しくて。それを、我々が「ウェザーリポーター」と呼んでいる個人の方たちから「どの地域でどれくらいの積もり方をしているのか」といった情報を得ているんです。それを毎年重ねていくことで、雪の予測精度がすごく上がっているんですよ。現在、アプリのダウンロード数は約2,000万です。
小名浜港を襲った、爆弾低気圧がはじまり
―ウェザーニューズはなぜ気象に関する分野で事業を始めたのでしょう。
創業者である、石橋博良の経験に端を発しています。1970年1月、福島県いわき市。小名浜港を襲った爆弾低気圧により、木材を載せた貨物船が沈没し、15名の尊い命が奪われました。当時商社に勤めていた石橋は、この船の担当者でした。「本当に役立つ気象情報があれば、この事故は防げたかもしれない」。そう考えた石橋は気象の世界に進み、1986年にウェザーニューズを設立したのです。
そのため、当社がなによりも大事にしているのは安全性です。その安全性を確保した前提で、経済性を追求しているのです。これはもう、当社がウェザーニューズである限り絶対ゆるぎないものです。
―それを具体化している取り組みはありますか。
取り組みのひとつに、「台風が発生したときなどは一致団結してそれに関する業務にあたる」というのがあります。当社はいま従業員1,000名を超える会社で、リスクコミュニケーターのほか、予報技術者や営業、IT技術者などさまざまな職種のスタッフが働いています。ですが、台風が発生すると職種に関係なく「協力できることはなんでもやりましょう」というのを意識的に行っています。「台風が来ているけど関係ない」というスタンスでは、ウェザーニューズで働く意味がないということです。
ふたつの気象分野と、新しい事業に注目
―今後における経営ビジョンを教えてください。
ふたつの市場を強化していきます。まずはエネルギー気象。風力発電や太陽光発電といった自然エネルギーは、気象に密接に関連しています。この発電量予測を的確にとらえることが、化石エネルギーとの最適バランスをとるうえで重要で、全世界の電力会社にとって大きなテーマなんですね。こういった分野こそ、当社が大きな貢献をしなければならないと思っているのです。
もうひとつは、スポーツ気象です。アウトドアで行う競技には気象予測が必要で、当社は2015年のラグビーワールドカップ、2016年のリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック(以下、五輪)から本格的に支援してきました。現在、東京五輪は来年に開催予定ですが、これまで積み上げてきた経験をそこで活かしたいと考えています。
また、今後新たに事業を立ち上げたい領域があります。
―どういった領域ですか。
気候変動によるリスクを、さらに最小化するような新サービスを検討中です。たとえば台風が来て、ある農家がウェザーニューズの情報を活用してリスクを最小化できたけど、実際としては被害が発生してしまったとします。我々は台風を止めることはできません。ですが、「起こったものはしょうがない」で終わらせたくない。そこで、気候変動によるリスクをなんとか事前にヘッジできないかと。
しかし、いまのところそうしたサービスはありません。変わりゆく気候変動に対し、抱える潜在的な気象リスクの把握、評価が一般的には難しいのだと思います。ただ、幅広く気象予測を行い、かつ統計的なデータをもつ我々なら、そうしたサービスを提供できるのではと考えています。
今後もチャレンジを続け、「全世界77億人の情報交信台」という我々の夢を目指していきます。