急速な経営環境の変化に、企業変革で立ち向かう
―セイバンは2019年に創業100周年を迎えました。ランドセル業界の歴史とともに歩んできたメーカーとして、業界の現況をどうとらえていますか。
泉:もともと財布や小物など皮革製品を手がけていた当社は、ランドセル通学が一般化する前の1946年にランドセルの製造を始めました。1960年代には、当社を含めた各メーカーが人手不足になるほど市場が拡大。当社もランドセルに事業を集中し、長年市場をけん引してきました。
現在は、少子化を背景に市場規模がゆるやかに縮小しています。小学1年生の児童数は現在100万人台で、ここ20年で見ても、減少しています。一方、ランドセルは贈答品としての価値が高まりつつあり、価格が高くても品質の良い製品が売れるようになっています。こうしたなかで、当社は業界のリーディングカンパニーとして高い市場シェアを占め、長年かけて築き上げてきたブランド力を今後も高めながら、さらなる成長を目指しています。
―2003年に発売した『天使のはね』は強いブランド力がありますね。
泉:ええ。しかしじつは、そのブランド価値が毀損しかねない、危機的な状況に陥ったこともあるんです。私が社長に就任した2011年当時は、『天使のはね』がネットで希望小売価格の10分の1程度の値段で売られる現象が多発していました。その原因は不良在庫。かつてランドセルは、黒と赤の製品を大量につくれば、在庫があまっても翌年には売ることができました。しかし市場では、競合がA4のクリアファイルが入る大型のランドセルや、さまざまな色の商品を戦略的に投入し、当社では次第に在庫が滞留するように。その結果、在庫が卸売会社から流出し、不当廉売につながったのです。
当時は、こうした競争の激化や需要の多様化といった経営環境の変化から、企業変革の必要に迫られた時期でした。
未知なる課題に対応できる、人材を育てたい
―在庫の滞留や不当廉売が起こった状況には、どう対処したのでしょうか。
泉:たとえば、卸売会社任せだった商品の流通を自社でコントロールすることで、滞留した在庫が市場に廉価で売り出されるのを防ぎました。最終的には販売代理店を立ち上げ、グループ内で小売店に商品を直接卸せる体制を6年かけて構築しました。
野崎:セイバンさんはさらに、問題の根本原因である在庫の滞留についても現状を徹底的に改善したそうですね。従来の大量生産から多品種少量生産に方針を切り替え、生産量を抑えることによる減収という痛みをともないながらも奮闘したと聞いています。
―一連の取り組みで、在庫の滞留による当面の問題が解消できたのですね。
泉:ええ。いまでは、海外市場の開拓といったさらなる成長戦略を描き、「次の100年」を見すえた成長基盤を固めるために、リーダー人材の育成に注力しています。これまでも当社は、在庫の管理といった個別の課題に対処してきました。しかし、経営環境が急速に変化するなかでは、かつて経験したことのない未知の課題が次々と生まれてきます。そこで、新しい課題に直面した際に、問題の原因を論理的に分析し、効果的な打ち手を導き出せる人材が必要と考えたのです。
野崎:さらにはメンバーを率いて打ち手を実行し、評価と改善を繰り返していく。こうしたPDCAサイクルを回せるリーダーを育てたいとセイバンさんは考えていました。セイバンさんはもともと、今後の成長戦略を描くため、当社グループのフィールドマネージメントからコンサルティング支援を受けていました。そのご縁から、我々FMHRが次世代リーダーの育成を支援することになったのです。
―FMHRの育成プログラムにはどのようなことを期待しましたか。
泉:社員が、学んだことを実践的なスキルとして身につけられることです。ノウハウを頭で理解できても、会社で起きているリアルな課題に対処できなければ意味がありませんからね。
野崎:従来多くの会社で行われてきた教育プログラムは、「公平公正」に幅広い社員を育成するのが主流で、「入社X年目研修」といった一律的な階層別研修が一般的です。しかし、受講者が多いとそのぶん、プログラムの内容は抽象度が高まってしまい、スキルや考え方の理解にとどまり、受講者一人ひとりの実務に活かされません。実務で使えないと、せっかく覚えたことを忘れてしまい、プログラムそのものがムダになってしまいます。そこで今回は、やる気や能力のある社員を選抜したうえで、実務に直結するカリキュラムを通じ、学んだスキルが身につくプログラムで支援しています。
「実務直結型」のプログラムが、確実なスキル定着につながる
―実際にどのようなプログラムを行っているのでしょう。
野崎:セイバンさんは次世代のリーダー像に求める要件のひとつに、「課題を論理的に解決できること」をあげているため、カリキュラムは課題解決力をおもなテーマとして組んでいます。そしてまずは、立候補制により管理職ではない20代後半から40代前半の社員11名を受講者に選定。第1段階として、他業界のケーススタディをもとにした基礎的なロジカルシンキングを学んでもらっています。
泉:特徴的なのは、プログラム開始半年後からの第2段階です。受講者11名のなかでもとくに理解度の高い社員が3名選抜され、現役コンサルタントとの1対1による「実務直結型」のフォローを受けています。
―詳しく聞かせてください。
野崎:たとえば、生産管理を担当する受講者の場合、「在庫削減」をテーマに設定。工場が抱えている在庫に対して、「いくら削減したいか」「削減できていない原因はなにか」「どのように削減するか」といった課題を論理的に分析します。その後も、課題解決に有効な打ち手を導き出し、実際にそれを実行してもらいます。
人を成長させる要素の7割は、仕事での経験とされています。当社のプログラムでは、現役のコンサルタントでもある講師が現場に入り込み、実務上の課題解決に伴走。実践とフィードバックを繰り返すことで、受講者にスキルをじっくりと身につけてもらうのです。
泉:受講者の間には、日常業務でも積極的に「ロジックツリー」を使って課題解決を試みるといった、意識変革が見られます。単発的な座学の研修では得られない効果を実感しています。
―リーダー人材の育成に向けて、今後のビジョンを聞かせてください。
泉:市場が縮小するなかでも会社を継続的に成長させるため、2018年の保育事業への参入を含め、当社では事業の多角化を推進していきます。そこで今回のプログラムでは、受講者のなかからこうした今後の成長戦略の企画・実践に携われる人材を育てることをゴールに設定。課題解決力をベースとしたスキルを身につけたうえで、リーダーシップをもち、新しいことに挑戦できる人材を育てていきたいです。
野崎:今回のプログラムでは、他業界で活躍する人を招く「講演型」のカリキュラムも同時に実施しています。たとえば、若手経営者には「起業家精神」、サッカーの元日本代表選手には「プロ意識」といったテーマで、リアルな体験を語ってもらい、受講者にリーダー人材に必要な概念への理解を深めてもらうのです。当社は、こうした複数のアプローチによるカリキュラムで、セイバンさんが掲げるビジョンや成長戦略の実現を支援していきます。
人材への投資は、経営者最大のミッション
―人材育成に課題を抱えている経営者にアドバイスをお願いします。
泉:会社は人が運営する組織である以上、人が成長しなければ会社も成長しません。そのため、会社を持続的に成長させていくには、いかに人材育成に投資できるかが重要です。教育や研修に予算と時間をかけて、戦略的に社員を育てていくことは、経営者として最大のミッションだと思っています。
野崎:経営環境が絶えず変化するなかで企業の舵取りを担う人材を育てるには、早い段階から有望なリーダー候補者を選び、実践で活用できる学びを与えることが重要です。我々は、総花的な研修ではなく、実践に重きを置いた育成支援ができます。「わかる」だけではなく、「できる」人材の育成を目指している経営者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。