KLab株式会社 代表取締役社長CEO 真田 哲弥

どん底の経験から学んだ「絶対に負けない戦い方」

KLab株式会社 代表取締役社長CEO 真田 哲弥

『ダイヤルQ2』で1989年、『i-mode』で1999年、そしてソーシャルゲームで2009年。KLab代表の真田氏はめぐりくる時代の波になんども乗り、起業をくりかえしてきた。いわば国内におけるシリアルアントレプレナーの草分けだ。だが、その栄光をつかむまでには、20代で十数億円の借金を背負った暗黒時代も。どのように逆境を乗り越え、大きな成功をつかんだのか。その道のりと失敗から学んだ経営の要諦を聞いた。

※下記は経営者通信43号(2017年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

年商 40億円の経営者から借金十数億円の債務者へ

―これまでに真田さんは波瀾万丈の経営者人生を歩んできました。どん底からはいあがるまでの道のりを聞かせてください。

 どん底は多額の借金返済に苦しんでいた20代後半のときですね。私は25歳で、電話による情報提供の代金をNTTが回収してくれる『ダイヤルQ2』を利用した情報提供会社を設立。翌年に年商40億円にせまるほど急成長させました。

 しかし、『ダイヤルQ2』は悪徳業者に利用されたりして社会問題化。規制が強化されて資金繰りが悪化し、経営破たんに追いこまれました。残ったのは十数億円の借金のみ。社長の私が全債務の連帯保証人でした。

―ひとりで返せるような金額ではありませんよね

 ええ。毎月の利息だけで数千万円。期日までに債務を返済しないと、30%近くの延滞金利が上乗せされるので、雪だるま式に借金が増えていきました。

破産申請書類を胸ポケットに債権者たちと瀬戸際の交渉

―自己破産を宣告するしか道はないように思います。

 それはできなかった。というのも、起業にあたり、親に土下座をして実家の土地と建物を担保に入れてもらい、銀行融資を受けていたんです。当時はベンチャー起業家が資金を直接調達する手段がなかったので。つまり、自己破産したら、親が家を失ってしまう。それでは申し訳ないので、破産以外の道を必死に模索しました。

 弁護士を依頼するお金なんてないから、法律を独学で勉強しました。コワモテのお兄さんが取り立てに来ることもあったけれど、自分ひとりで渡りあうしかない。勉強してわかったのは、「自己破産しますよ」というのが武器になること。債権者からすると、自己破産された ら1円も回収できなくなるから、それだけは避けたい。だから、つねに自己破産の申立書を胸ポケットに入れて、破産をチラつかせながら債務圧縮の交渉をしていました。

 たとえば「借金2億円を200万円にしてください」とムチャな要求をする。聞き入れてもらえるわけありませんが、「そうですか、じゃあもう自己破…」と。すると、1億円ぐらいには減額してもらえる。でも、当然ながら1億円だって支払えません。そこで時期を改めて「さらに半減を」と交渉する。さらにまた時期を改めて50回の分割払いにしてもらい…ということをえんえんと続けた。

 結果、8年かけて借金を完済しました。

―経営に失敗して8年間も苦しんだのに、なぜ再び起業に挑んだのでしょう。

 たもとをわかった仲間たちに刺激を受けたからです。私が借金を背負って苦しんでいるときに会社は分裂。その中心メンバーが人材派遣会社を設立し、のちに上場を果たしました。また、学生時代に経営していた会社の元役員もITベンチャーを興し、急成長を続けていました。そういった昔の盟友や部下たちの華々しい活躍が再浮上への熱望をかきたてたのです。「このまま底辺で終わりたくない」「彼らにできるなら、オレにもできるはずだ」って。

 そして、もうひとつ要因がありました。それがインターネットの登場です。「世の中が変わるぞ」という予感がしました。

―その後、真田さんはIT分野で2度起業し、両社を上場させています。過去の失敗からどのような教訓を得て、会社を成長させたのですか。

「失敗しても負けない戦い方」を徹底しました。現在はそのポイントを八つの法則にまとめ、若手経営者に伝えています。

ネット起業家への第一歩はサラリーマンになることだった

―具体的に教えてください。

 まず第一法則は「基礎体力と基礎知識をつけておく」ことです。自分が事業展開する分野にかんしては「だれにも負けない」と断言できるくらい勉強してください。私の場合、ネット分野で起業するつもりだったので、技術的な知識を身につけるためにアクセス(現:ACCESS)に入社しました。33歳にして人生初の就職です。毎日深夜まで勉強し、わからないことは先輩エンジニアを質問攻めした。その努力のかいあって、1年目で『i-mode』コンテンツの開発ガイドラインを作成する立場に。「これで戦える」と思いました。

 携帯電話でメールの送受信やWebサイトの閲覧をできるようにした『i-mode』は、世界に先駆けてNTTドコモが実用化に成功したサービス。「『i-mode』コンテンツを提供する事業で勝負する」。そう決めました。

―それが1998年のサイバード設立につながるわけですね。

 ええ。次の第二法則は「いい仲間を集める」。ここでいう「いい仲間」とは、自分を含めた経営チームをつくるとき、バランスのとれた構成になるメンバーのこと。私の場合、攻めが得意で思考が発散していくタイプなので、守りが得意なタイプ、思考を収束させるタイプの人材に 参画してもらいました。

 そして第三法則。「勝てる状況まで勝負をしない」。『i-mode』は世界初のサービスなので、日本のユーザーにどのくらいのペースで普及していくものなのか、見当もつかなかった。そこで私たちは「サービス加入者が100万人を突破するまで待とう」と決めました。従業員6名という最少ユニットで運営。ひたすら❝そのとき❞を待ち続けました。

―サービス加入者数100万突破は 1999年8月でした。

 はい。第四法則は「勝てるタイミングで躊躇なく大勝負をする」。私たちは毎月15名を新規採用。半年後には従業員数100名を超えた。新規コンテンツを矢継ぎ早にリリースし、アクセル全開で一等地をすべておさえてしまおう。結果、業績は右肩上がりに急伸し、2000年12月にIPOを実現。会社設立から上場まで、当時の最短記録を更新しました。

時流をヨミ間違えたら素直に認めて方向転換

―現在、真田さんが代表を務めるKLabでも、設立から上場まで順調だったのですか。

 いえ、IPOまで11年かかりました。モバイル向け専門のソフトウェア開発会社として2000年に誕生したんですが、時代が早すぎたのでしょう。「コンピュータの主流はPCからモバイルに変わる」と予測していたのに、そんな日は待てど暮らせど来やしない。人件費を垂れ流すばかり。

 そこから得た教訓が、第五法則「アテが外れたら、キッパリ計画変更」と、第六法則「勝てないときはBtoBか受託」。KLabの場合、モバイル向けのプログラム開発は当面あきらめ、サーバサイドの受託開発に事業を転換。おかげで、着実な成長軌道に乗せることができました。

 そして2009年にソーシャルゲームの大ブームが到来。そこでゲーム事業に特化した子会社を設立し、開発に注力したんです。これによって飛躍的な成長のきっかけをつかむことができました。この経験が第七法則になる。「勝つまで続ける。勝つまでやめない」。負けている状態でやめてしまうから負けになるんです。

 でも、たいていは軍資金がつきて、やめざるをえなくなる。だから、最後の第八法則は「勝負の前に資金調達。負けてもやり直せる資金を集める」です。

『虎穴に入らずんば』の精神で経営者は最前線へ出よ

―最後に、成功を追求する経営者へのアドバイスをお願いします。

 理論的な正しさだけでは勝てません。経営理論の大家とバイク好きの兄ちゃんが同時にバイク屋を始めたとしましょう。たぶん、兄ちゃんの店のほうが商売繁盛しますよ。商売には、実地・実体験にもとづいた❝深み❞が必要だからです。

 私の場合、それを得るための修行が1年間のエンジニアとしての経験でした。虎穴に入らずんば虎子を得ず。経営者自ら現場の最前線に飛びこみ、本質をつかんでください。

真田 哲弥(さなだ てつや)プロフィール

1964年、大阪府生まれ。大学在学中にさまざまな企画やビジネスを手がけ、19歳で起業。その後24歳で2度目の起業、短期で急成長を遂げるも、事実上の倒産という成功と挫折を経験。1997年に株式会社アクセス(現:株式会社ACCESS)に入社。33歳で初のサラリーマンを経験し、インターネット技術を学ぶ。1998年に堀主知ロバート氏らとともに株式会社サイバードを設立し、取締役副社長兼CTOに就任。2000年、ジャスダックへ上場。同年に株式会社ケイ・ラボラトリー(現:KLab株式会社)を設立し、代表取締役社長CEOに就任。モバイルゲーム分野への事業転換に成功し、2011年に東証マザーズへ上場。翌年、東証1部へ市場変更。数々のヒットゲームタイトルを生み出す。現在はモバイルオンラインゲームの企画、開発、運営を主力事業とし、世界各国へ提供。ゲーム事業にとどまらず、新規事業開拓にも積極的に取り組んでいる。

KLab株式会社

設立 2000年8月
資本金 45億7,232万円
売上高 209億1,300万円(2015年12月期)
従業員数 527名(2016年12月末現在)
事業内容 ゲーム事業、その他事業
URL http://www.klab.com/jp/
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