たった7店舗の時点で「30 年後に100店舗」を計画
―ニトリは2015年2月期まで増収増益を28期続けています。継続成長の要因はなんでしょう。
ロマンとビジョンをもっていることです。ロマンは志と言いかえてもいいでしょう。私は43年前に米国に行き、その住まいの豊かさを目の当たりにしました。「これを日本で実現するんだ」というロマンが生まれたのです。
この志はすぐに果たされるものではない。そこで必要なのがビジョン。長期計画のことです。強いロマンをもっていれば、ビジョンは「絶対に達成しなければいけないもの」になります。その達成のために、いまなにをしなければいけないのか、逆算で考える。そうすれば先手先手で経営でき、継続的に成長できるのです。
私の場合、60年でロマンを実現するとして、まず前半の30年間で100店を全国展開すると決めた。計画を立案したときは、札幌市内の7店舗だけ。そこを出発点に、計画から1年遅れの2003年に100店を達成できました。
―30年という長期間にわたる計画で、くるいがたった1年。なぜそれほど精度が高いのですか。
外部環境の変化を予測し、先手を打ってきたからです。最近の例でいえば、2008年にリーマン・ショックがありましたね。私は住宅価格の暴落が起こる半年以上前にそれを感じとり、外貨をすべて売って新規出店や広告宣伝の資金としてプールしました。予測通り不況が到来。土地や建物の価格が下がると同時に出店攻勢をかけた。また財布のひもが固くなった消費者へ向けて、値下げキャンペーンを繰り返したのです。その結果、競合他社の不振を尻目に業績を大きく伸ばすことができました。
それから2013年の日銀の異次元金融緩和で始まった円安も予測していました。ニトリの商品はインドネシアやベトナムで製造しているものが中心。1円の円安で経常利益が約15億円減ってしまう構造になっている。そこで事前に為替予約を活用し、リスクをヘッジ。それとグループをあげてのコスト削減努力で、利益を減らさずにすんだのです。
経営者自ら現地を訪ね 定点観測して変化を見抜け
―景気や為替の変動を的確に予測する方法を教えてください。
トップ自らビジネスの最前線へ出向き、変化を感じとることです。私はリーマン・ブラザーズの破たんを予測したわけではないんです。世界経済を動かしている中枢である米国をひんぱんに訪れ、定点観測していた。そのなかで、2000年代はじめに住宅価格がどんどん上がっていることに気づき「これは必ず暴落する」と。
こうした予測はトップにしかできない。社員たちはどうしても目の前の仕事に忙殺され、長期的な変化を見抜けない。経営者はロマンとビジョンをもっているから、つねにものごとを長い目で見ています。だから変化に気づける。
もっとも、ロマンとビジョンをもっていなければ、たとえ経営者でも困難でしょう。10年後にどんなことを実現しているのか、売上高や利益の数字はどうなっているのか、どんな会社になっているのか。こうしたビジョンを語れないなら社長失格です。
―外部環境の変化に対応する具体的な施策を聞かせてください。円安が進行するなかで、どうやってコストを削減したのでしょう。
安い商品が見あたらないなら、自分たちでつくってしまおうと。ニトリは商品の企画・製造から物流・販売まで手がけています。たとえばソファーをベトナムの自社工場でつくっている。これをもっと上流工程から自前でやろうと。
つまり、バネとウレタンを外部から調達してきてソファーに仕上げていたのを、鋼材を巻いてバネにするところから、合成樹脂をウレタンにするところからウチでやることにしたわけです。そうやって自前でやってみると、コスト削減の余地がたくさん見つかる。
たとえばウレタンは重量に応じて取引価格が変わるので、機能に関係のないところで重くしているケースもあった。自前で製造するなら取引慣行は関係ないから、重くしなくていい。コストも下がり、ソファーの品質向上にもなるウレタンをつくることができました。
経営者が率先垂範すれば社員も「できる」と思う
―自前主義を採用したくても、異分野のエキスパートを自社で抱えるのは困難です。小売店であるニトリが、どうやって化学工業の専門領域がわかる人材を確保しているのですか。
私自身が率先して異分野のことを勉強し、現場でやってみせるんです。ウレタンのときもそう。「自前でつくったらいいじゃないか」と私がいっても、社員は「そんなことできません」。そこで私はベトナムへなんども行き、工場で実際に手を動かして、原材料からウレタンをつくってみせたんです。
そうすると、最初は「専門外の分野だから」とかかわるのを避けようとしていた社員も、「なんだ、できるじゃないか」と。なにも、だれもやったことのない新発明をしろといっているわけじゃない。ウレタンは現につくられているんだから、その製造ノウハウを調べて実行するだけ。「できない」のではなく、「やらない」だけなんです。
ニトリはそうやって、私がまずやってみせることで社員の新分野への挑戦をうながしてきました。そして家具をはじめ住まいを豊かにするホームファッションの領域で、企画・製造・輸入・小売・物流をすべて自前で手がけるビジネスモデルを築き上げてきたのです。
あきらめない執念が幸運を呼んだ
―同じことができる経営者は少ないと思います。似鳥さんの行動力の源泉はなんでしょう。
「なにがなんでもあきらめない」という執念かもしれません。私は大学を卒業後、いったんは父親が経営するコンクリート会社に入社。でもうまくいかず、1年で辞めた。家具店を開業して出直そうとしたのですが、接客は苦手。店での切り盛りは妻にまかせ、自分は経営に専念することに。サラリーマンもダメ、店主もダメ。これで会社経営者としてもダメだったら、もう死ぬしかない。
事実、自殺を考えた時期もあったんです。まだロマンもビジョンもない、会社を設立した直後の28歳のころのこと。競合店が登場し、業績が急激に悪化してしまった。首をつる、高いところから飛び降りる、切腹する…。どんな方法で自殺しようか。そんなことばかり考えていた。
―どうやってその苦境を脱出したのですか。
ネガティブ発想をやめて、攻めに転じたのです。競合店を包囲するように出店して、相手を圧倒した。そんな発想の転換ができた原動力になったのが、ロマンでした。
倒産寸前で思いつめていたとき、家具業界向けの米国ロサンゼルスへの視察ツアーがあると聞いた。「なにか危機を切り抜けるヒントがつかめるかもしれない」。わらをもつかむ心境で、親せきから借金して費用をねん出し、参加したんです。そこで先進国の住まいの豊かさを実感。「日本にこの豊かさを」というロマンを見つけることができた。それを果たすためには競合に負けるわけにはいかない。戦闘意欲がわいたのです。
執念をもって、あきらめない。一手を打ってダメでも次の手、さらにその次の手と。考えられる限りの手を打つ。そうやっているうちに、危機脱出につながる幸運が舞い込んでくるもの。私の場合も、執念をもっていたので「米国視察に参加しよう」と思えたわけです。
自分の収入を削ってでも社員の待遇アップへ回せ
―円安や消費増税など、外部環境の悪化に悩んでいる中小企業の経営者にアドバイスをお願いします。
「外部環境が悪い」なんて、いいわけに過ぎません。経営者はロマンとビジョンをもって、それを実現していくことだけ考えていればいい。為替や税についてアレコレいう前に、考えられるすべての手を打って、社内のだれよりも長く働くことです。
決して、社員に犠牲をしいてはいけません。サービス残業させるなんてもってのほか。ニトリでは「1分でも就業時間を超えたら残業代を支払う」と宣言。その通りに運用しています。
安倍政権が企業に賃上げを求めても中小企業は「そんな余裕はない」というところが多いでしょう。まずお客さまに支持されるような施策を講じ、利益をあげてから社員に還元するべきなのは確かです。でも、ありがちなのが、社長がたくさん給料をもらっているケース。「自分の子どもにクルマを買ってやりたいから」なんて。そんなおカネがあるなら、社員の給料を少しでもあげてください。