―アベノミクスの効果で円安と株高が進んでいます。景気回復ムードが生まれる一方、設備投資や人材採用など、攻めの経営に慎重な企業が多い状況です。経営者は、どのように景気動向を判断して会社の舵取りをすればいいでしょうか。
澤田:株価は景気の先行指標なので、将来の見通しが少し明るくなったといえるでしょう。大規模な公共投資など、政府が積極的にいろいろ取り組んでいるので、よい方向へ進んでいると思います。しかし、中国経済の成長が減速するなど、世界情勢も楽観視できません。だから、1、2年先はまだまだ不透明ですよ。ただ、いつの時代も景気のよいときと悪いときは繰り返しやってきます。時流を読んで、攻めるべきときは果敢に攻め、守るべきときは慎重に経営を進めればいいのです。
―「景気のよいときは慎重に経営を行い、景気の悪いときは攻める。また、会社の業績がよいときは慎重に経営を行い、業績の悪いときは攻めるべき」というのが澤田さんの持論です。
澤田:ええ。景気も会社の業績も同じ。調子のよいときは、脇をしっかりしめる。反対に調子の悪いときは、明るく元気に、思いきって挑戦しようという方針ですね。景気のよいときに調子に乗りすぎると、つい驕りが生まれて、ドボンと急落してしまう。当社でもバブルの時期など、さしたる努力をせずとも前年比60、70%と伸びていました。そのとき、喜ぶより「これはおかしい」と警戒心をもった。そこで当時は、いっさいの拡大策をストップ。地価が高騰していた新宿から本社機能を浅草に移し、“緊急避難”をしました。おかげで、同業他社がバブル崩壊の打撃を受けるなか、まったく影響を受けませんでした。
―慎重に取り組んだ結果、業績悪化を回避できたのですね。逆に景気が悪いときに攻める利点はなんでしょう。
澤田:景気が悪いときは、他社が守りに入るぶん、積極的に攻めれば大きく躍進しやすい。誰も取り組まないことを実行すれば、注目度も高まりますから。ただし、会社の業績が好調なときは注意が必要。特に、絶好調の後に揺り戻しが必ずやってきます。エイチ・エス証券がライブドア事件のあおりを受けたのも、まさに業績が絶好調のときでした。すべてのものごとには「陰」と「陽」の二面性があります。ガマンするときなのか、それとも攻めるべきか。冷静に状況を分析して、判断しなければならないのです。
―経営のバランスをとることが大切なんですね。
澤田:そうです。人間でたとえると、栄養のバランスが崩れると病気になるじゃないですか。運動しすぎてもケガをするし、ずっと寝たままだと次第に身体が動かなくなる。経営も一緒。やりすぎても、やらなさすぎてもダメ。経営がうまくいっていない理由は、会社全体のバランスが悪くなっているからなのです。
―そうなった場合、どう対処すればいいでしょう。
澤田:まずは、貸借対照表やプロジェクト単位の損益計算書など会社の数字をチェックすべきです。会社は「ヒト・モノ・カネ」で成り立っているもの。そのバランスが崩れているから、おかしくなる。人のやる気がないのか、商品が悪いのか、財務体質が弱いのか。必ずどこかに原因がある。その原因さえ取り除いたら、たいがいの企業は黒字になるんです。人から話を聞く場合、ごまかす可能性があります。その点、数字はウソをつかない。どこにムダがあるのか、どこが弱いのか、どこを強化したらいいのかがわかる。万年赤字のハウステンボスを1年で黒字化できた理由も一緒ですよ。
―ハウステンボスのケースでは、どのように経営のバランスをとったのですか。
澤田:売上が上がらないのに、経費が高い。バランスが悪い状態でした。そこで、まずは経費を大幅に削減しました。ハウステンボスの敷地面積は、ディズニーランドの1.6倍。単純に考えると、光熱費や人件費も1.6倍かかる。しかも開業から18年が経過しているので、修理などの設備投資も必要。だから、まずは敷地の3分の1を入場無料のフリーゾーンにして開放。維持・運営費を2割削減することから始めました。では、売上が上がらない理由はどこにあるのか。それはお客さまが喜ぶようなイベントがないからで「100万本のバラ祭り」や「光の王国」など、魅力的なイベントを行ってお客さまを増やす。お客さまが増えることで、赤字続きでやる気をなくしていたスタッフのモチベーションを上げる。そんなに難しくないよね(笑)。
―昨年出版された『運をつかむ技術』では、バランスだけでなく運も重要だと書いています。
澤田:運は、むちゃくちゃ重要だと思いますよ。企業経営が成功するかどうか、7、8割は運で決まるんじゃないでしょうか。実力よりも大切な要素です。私の起業の原点を振り返ると、たまたま旅行業を始めたときに、日本で海外旅行が注目され始めていた。だから、時流に乗って業績が急伸した。これは運です。
―しかし、運は理論的に分析できないため、経営に活かすのは難しいのではないでしょうか。
澤田:もちろん、「天運」は自分の意志で変えられるものではありません。しかし、自らの努力で引き寄せられる運もあります。たとえば、ある経営者が事業に失敗したとします。そこで、落ち込んでしまったりあきらめたりしていると「今度はムリしないでおこう」と、後ろ向きな考え方の人が集まりがちです。
しかし、それでは失敗の原因を取り除くアイデアを持った人物を遠ざけることになります。暗くて後ろ向きな集団に、わざわざ入りたいという人は少ないですからね。だから、事業が失敗したとしても、明るく前向きに取り組むよう努めるのです。すると、自然と明るく運のいい人が周りに集まるようになります。取引する会社も同様です。成長している運のいい会社と取引すれば、自身の会社も成長することができる。逆に運の悪い会社と取引すると、不渡りを喰らったりしてしまいます。そうなると悲惨ですよね。
―澤田さん自身は、これまでずっと運がよかったと思いますか。
澤田:そんなことはありません。運が悪いときもあれば、よいときもあるんですよ。運が悪いときは、落ち込むじゃないですか。でも、落ち込むと自信をなくしてしまい、どんどん運も悪くなっていきます。だから、運が悪いときは元気にふるまう。ウソでもいいから明るくする。そうすると運も早く上向きになります。
―バランスをとる。運を引き寄せる努力をする。ほかに経営の要諦はありますか。
澤田:つねにチャレンジし続けることです。新しいことにチャレンジして会社を変化させないと、時代に取り残されてしまいます。かつては世界を席巻した、GMや米コダックすら倒産しました。つい4年前に過去最高益を記録し、他社の追随を許さなかった任天堂も赤字に転落。スマートフォンの普及により、状況は一変してしまった。近年は、特に時代の変化が激しいですよね。うまくいっているからといって何もしないと、すぐに経営危機に陥る可能性があるのです。ただ、チャレンジというのは、未知の分野に取り組むということ。当然、失敗のリスクはあります。
―どうすればリスクをコントロールできるでしょう。
澤田:博打をしないことです。博打とチャレンジは違う。無謀なことをして倒産したら、元も子もない。また、当然ですが法に触れないこと。その2つの線引きさえ守れば、チャレンジはすべて今後に活かされます。なぜならば、失敗をしたほうがいいからです。エジソンだって何百、何千という失敗があったからこそ、大発見をしている。ハウステンボスでもたくさん失敗して、黒字になりました。なので、どんどんチャレンジして、どんどん失敗すべきですね。
―最後に、業績低迷に悩む経営者にアドバイスをお願いします。
澤田:経営の基本は「ヒト・モノ・カネ」です。商品が悪かったら、営業がナンボがんばっても売れない。逆もしかり。両方そろっていても、お金がつきたら潰れる。この3つがキチッとそろっているかどうか、経営者はバランスをみなければいけません。これに運がついてきたらバッチリだよね。
ただし、調子に乗りすぎて経営のバランスを崩さないように注意すること。そして、致命傷にならないよう慎重に準備をして、大胆にチャレンジする。そうすれば、たいがいの会社は業績アップします。ほら、難しくないでしょ(笑)。特に今、予想もできない変化が、ものすごいスピードで起こっています。業績が低迷している会社にとっては、逆転のチャンスだと思いますよ。