―御社は1986年に長崎県佐世保市の小さなカメラ店としてスタートし、現在では国内トップクラスの総合通販企業へと成長しました。成長の秘訣は何だと思いますか。
髙田:身の丈に合った経営をすることだと思います。これは女房と2人でカメラ店を経営していた25年前から、ずっと変わりません。決して無理をしない。背伸びをしない。自分たちのペースを守って、着実な成長を心がけてきました。やはり無理に背伸びをすると、急成長の歪みが生じてしまうんです。サービスの質が低下し、お客さまにご迷惑をおかけしてしまう。これでは本末転倒です。それだけは絶対にしたくありませんでした。
―「身の丈に合った経営をする」というのは、具体的にはどういうことですか。
髙田:たとえば、当社は無理に株式上場を目指していません。よく「御社は上場しないのですか?」と聞かれるのですが、無理に上場するつもりは全くありません。もし上場したら、当然のことですが、株主から短期間で高い成果を出すことを求められます。そんな自社に分不相応の要求に応え続けていたら、あとでお客さまにしわ寄せが来てしまいます。
また、当社は創業以来、あえて売上目標を掲げてきませんでした。これも同じ理由です。高い売上目標を掲げ、社員に厳しいノルマを課せば、社内に歪みが生まれてしまいます。それがお客さまに悪影響を及ぼしてしまうと思うのです。
―売上のノルマも課さずに、社員は本気で働くのでしょうか。
髙田:ええ。売上のノルマを課さずに、社員の本気度を高める方法があるんです。それは、自社の理念やお客さまに対する思いを情熱的に語り続けること。そうすれば、私の熱い想いが伝播して、社員の本気度が高まるんです。
―社長が熱く語れば、社員は変わるものなのですか。
髙田:ええ。ただ、実際のところ、社員の本気度を高めるのは簡単ではありません。ですから、私のメッセージを伝える場をなるべく多く設けています。社員の年代別会議、全社会議、クレド…。様々な手段を使って、社員の本気度を高めています。もちろん社員がすぐに変わるとは思っていません。少しずつ変わっていけばいい。これは「私と社員との我慢比べだ」くらいに思っています。
競合他社についてどれくらい意識しているのか
―競合他社については、御社はどれくらい意識していますか。
髙田:全く意識していません。競合他社に勝つことばかり考えていたら、商売の本質を見失ってしまうからです。メーカー間での機能競争に走ってしまうこともあります。お客さまからしたら「こんな機能いらないよ」なんて商品がありますよね。当社はそんな虚しい競争に巻き込まれたくありません。あと、最近はグローバル競争を意識して、海外展開を急ぐ企業も多いですよね。たしかに国内市場を攻め尽くした大手企業なら、海外に進出するのも頷けます。でも、当社の場合、まだまだ国内でやるべきことが多い。だから、今は国内基盤を固めることに注力しています。当分は海外展開をする予定もありません。やはり大事なのは、お客さまの声を知ることだと思います。お客さまに喜んでもらうにはどうすればいいのか。日々それだけを考え、実行していけばいい。そうすれば、自然と会社は伸びていくと思うのです。
―今は変化の激しい時代です。いくら「身の丈経営」と言っても、自社のペースでのんびりやっていたら、時代に取り残されてしまいませんか。
髙田:たしかに自社のペースでぬるま湯に浸かったままなら、会社の存続すら危ういでしょう。ですから、当社も日々の業務の中では、即断即決のスピード経営を心がけています。大局的な視点で「身の丈経営」を貫きつつ、ミクロの現場業務では日々速いスピードで改善を繰り返しているわけです。たとえば、当社ではテレビショッピングで商品を宣伝しています。この宣伝の企画を即断即決で行うこともあります。なぜなら、やってみなければ分からないことも多いからです。だから、まずやってみる。そして、結果が出てから「どうすればもっと売れるだろうか?」と考えるわけです。トーク、価格、カメラワーク、照明など、もっと売れる方法はないかと多角的に考える。そして、すぐに改善策を実行し、また考える。これをスピーディーに繰り返すことで、サービスの質が高まると思うのです。
―御社では、顧客が喜んでいるか否かをどうやって判断しているのですか。
髙田:お客さまの気持ちを知る一つの手段として、「数字」があります。売上、視聴率、返品率などの数字。数字が変化した時は、お客さまの気持ちが変化した時なんです。だから、私たちも数字をベースにして、「じゃあ、次はこうしよう」と考えていく。とはいえ、コンサルタントを雇って、じっくり分析をするなんてことはしません。コンサルタントが理詰めで考えていっても、時間ばかりかかってしまい、いつまで経っても次のアクションが決まらないからです
どうやって即断即決をしているのか
―理詰めで考えても、なかなか決まらないなら、髙田さんはどうやって即断即決をしているのですか。
髙田:最初は論理で考え、最後は「直感」で決めます。直感とは、感覚によって物事の本質を見抜く力のこと。いわゆる「ひらめき」や「勘」のようなものです。この直感を養わないと、即断即決ができません。ちなみに、直感というと、「持って生まれた先天的な才能」のように考えられがちです。でも、直感は後天的に磨くことが可能だと思っています。
―どうすれば直感を磨くことができるのですか。
髙田:密度の濃い経験を積み重ねることです。また、経験の密度の濃さは、仕事の規模や難易度ではなく、本人の意識によって決まります。どれだけ目の前の仕事に没頭し、どれだけ自分の頭で考え抜いたかで決まるんです。
私も26歳でカメラを売っていたころから、35年間ずっと考えて、考えて、考え抜いて仕事をしてきました。ヒマな時間なんて全くなかった。もう四六時中、ずっと仕事に没頭し、考え続けてきたんです。その濃い経験の積み重ねが、私の直感の源になっていると思います。
―最後に、いま不況に立ち向かっている経営者へメッセージをお願いします。
髙田:私の考えが全ての業種に通じるとは思っていませんが、私は自社の身の丈にあった経営を貫いています。こんな時に無理に身の丈に合わないことをしても、逆に状況が悪化するだけだと思っているからです。また、そもそも経営者に好不況は関係ありません。いくら景気が悪くても、私たち経営者には景気を変えることができない。つまり、経営者がいくら景気について考えても仕方がないと思います。では、経営者はどうすべきなのか。まず現在の経営環境をありのままに受け入れる。そのうえで、お客さまのことを徹底的に考える。どうすればお客さまが喜ぶのか。知恵を振り絞ることで、どんな苦境であっても乗り越えられると思います。ですから、私たちも新しい課題が出てくる中で、毎日が勝負だという気持ちで取り組んでいます。