インフラを支えるプロの方が、業績アップを後押し
―コロナ禍においても業績を伸ばしていますね。
ええ。ワークマンは、道路や建物、電気、水道、運送といった社会に欠かせないインフラを支えるプロ職人の方たちから支援されている会社です。コロナ禍でも、プロの方たちは変わらず仕事をされていますし、そういう意味において客足が落ちることはありませんでした。また、散歩やジョギング、密を避けるためのアウトドアを好む方の購入が増えたことも要因ですね。
さらに言えば、店舗のほとんどがロードサイドにあったこともポイントでした。多くのショッピングセンター自体が休館するなか、当社がショッピングセンターで運営している店舗は10店舗程度。昨年の緊急事態宣言が出た直後は店舗ごとの状況に従って、時間短縮営業や臨時休業も行いましたが、お客さまのニーズに応えるため、極力営業を続けることができました。
―そもそもワークマンは10期連続の増収を果たしており、2021年3月期は過去最高売上を見込んでいます。要因はなんでしょう。
経営戦略を、「客層拡大」と「データ経営」に絞って事業を展開していることが奏功していると言えます。
これまでワークマンは、プロの方をターゲットにし、ニッチなマーケットを開拓してきました。しかし、人口減少とともに技能労働者の数も減ってきています。当社は、「1,000店舗で1店舗の売上1億円」を目指してきましたが、1,000店舗1,000億円がもう限界ではないかと。そこで、プロの方だけでなく、一般のお客さまも使える、もちろんプロの方も休日に使えるような商品をつくり、客層拡大を図っていこうと考えたのです。そして、生まれた新業態がアウトドア、スポーツ、レインウエアの専門店「WORKMAN Plus」であり、女性をメインターゲットにした「#ワークマン女子」なのです。
新業態を運営するのに「カン」は通用しない
―「データ経営」についても教えてください。
新業態を展開するためには、新しいマーケティングも行っていかなければなりません。「ワークマン」では、40年近く運営してきた経験から「去年はこれだけ売れたから、今年はこれくらい売ろう」といった、ある意味カンで経営を行ってきた部分がありました。しかし、新業態の運営においてそれは通用しない。もっと言えば、なにが正解でなにが間違いかというのは誰ひとりわかりませんから。そのため、やはりデータをもとに、しっかりと仮説を立てて実行する。その結果を分析して、さらに改善を続けていく必要があったのです。また、データ経営を行っていくうえで、重視したことがあります。
―それはなんでしょう。
すべてのスーパーバイザー(以下、SV)が、データ分析を行えるようになることです。店舗ごとに売れ筋や客層も異なるため、現場のことをよくわかっているのはほかならぬSVです。そのSVがデータを扱えないことには、いくら「データ経営が重要だ」と言っても意味がありません。ただ、簡単に「データを分析する」と言っても、データ分析が得意な人がいれば不得意な人もいる。慣れていない人が使いこなすまでには当然時間がかかるし、普段から忙しく働いているので「面倒くさい」と感じる人もいるでしょう。
そこで導入研修を行いつつ、当時スーパーバイズ部の部長だった私が、とにかくデータ経営の重要性を伝え続けるとともに、データ分析をルーティン化させるようにしました。1ヵ月のうち、「第1週目、2週目、3週目はこういう分析をしよう。4週目は分析したことをもとに店長に提案してみよう」といった具合です。そうすることで、データ分析が得意な人、不得意な人に関係なく、データ分析ができるようになっていきました。
データにもとづいているから、店長も納得してくれる
―その結果、いかがでしたか。
まず、品揃えの改善と売上アップにつながりました。欠品が出たらその都度発注するいままでの方法では、チャンスロスにもなりますし、どの商品が欠けているか売り場をこまめにチェックするのも大変ですから。それがデータにもとづいた需要予測発注を行うことによって、改善されました。
また、データにもとづいた提案を行うため、SVと加盟店の店長とのコミュニケーションが円滑になりました。たとえば、10年以上店舗を運営している店長に対し、若いSVが「この商品を入れてください」と提案しても、なかなか聞いてくれないということが、これまで正直ありました。そこでデータにもとづいた提案をすると、店長も納得してくれる。さらに、売上アップにつながれば、店長に感謝してもらえる。それが、SVの自信や、やりがいにつながるのです。これまでクチ下手で目立たなかったSVも、率先して意見が言えるようになった、といった成長にもつながっていますね。そうしたことが、結果的に仕事の楽しさにつながっていければと期待しています。
3業態をバランスよく配置し、顧客満足を追求
―小濱さんが経営を行っていくうえで重視していることはなんでしょう。
会社が掲げているビジョンに、「声のする方に、進化する」というのがあります。これは、お客さまの声を聞く。あとは、働いている社員や加盟店の店長、店舗のスタッフさんも含めて、現場の声をしっかりと聞くということです。業績がいいからと、聞く耳をもたなくなってしまうと、必ず業績は落ちます。やはり、みなさんがなにに困っていて、なにを求めているのかをちゃんと聞き取り、経営に活かしてつねに改善していく。そうすることで、社会に必要とされ、愛される会社に近づけていけるのではないかと考えています。
―今後の戦略を教えてください。
おかげさまで「WORKMAN Plus」と、実験的に1店舗展開している「#ワークマン女子」が好調のため、こちらの新業態を強化していきたいと考えています。とはいえ、当社はあくまでも「作業服屋」が原点であり、当然プロの方も大事にしていきたい。今後の情勢によりますが、10年後を目標に「ワークマン」を200店舗、「WORKMAN Plus」を改装と新店開発で900店舗、そして「#ワークマン女子」を400店舗展開していく予定です。また、たとえば「レイングッズ」をメインにした店舗、あるいはシューズをメインにした店舗など、「新しい業態ができないか」というのはつねに社内でいろいろ話し合いを行っているところです。
その一方で、課題もあります。
―どのような課題ですか。
お客さまが増えたのはうれしいことですが、増えすぎて駐車場がたりなくなったり、品出しが間に合わず加盟店の店長やスタッフの疲弊につながっていることです。また、一般のお客さまが増えることでプロの方が気軽に手袋や足袋などを購入できないといった弊害も。プロの方が買いづらいというのは、ワークマンにとって非常に大きなマイナスポイントです。そのため、先ほどの3業態をバランスよく設置することで、自店競合が起きず、プロの方も一般の方も満足してもらえるような店舗展開をしていきたいと考えています。
「客層拡大」と「データ経営」は、「これで完了しました」といったことはありません。この2つを追求することで、これからも成長戦略を描いていきます。