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株式会社ドリームインキュベータ 代表取締役会長 堀 紘一

日本的経営に自信を持ちアジア市場を目指せ

復興需要が下支えしているものの、依然、日本経済は出口の見えない厳しい状況が続いている。こうした中、経営コンサルタントとして企業経営者から多くの支持を集めるドリームインキュベータ会長の堀紘一氏は「中小・ベンチャー企業はアジアに活路を求めよ」と喝破する。同社は政府の政策立案にも多大な影響力を持つ、国内最大級のコンサルティング・ファームだ。すでに日本企業の主戦場となりつつあるアジア市場を中小・ベンチャー企業が攻略するためには何が必要か。堀氏に聞いた。

※下記は経営者通信20号(2012年8月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

―国内市場が縮小しつつある中、どのような戦略を中小・ベンチャー企業はとるべきでしょうか?

堀:まず、大企業と同じ内容の商品・サービスを提供しているようでは、生き残れないでしょう。スケールメリットの強みを発揮できる大企業は、中小・ベンチャー企業より安いコストで商品・サービスを供給することができます。市場縮小で安売り競争が始まれば、大企業と同じ内容の商品・サービスを提供している中小・ベンチャー企業は太刀打ちできません。では、どうすべきか。徹底的に差別化する以外にありません。私たちドリームインキュベータ(以下、DI)の事例をご紹介しましょう。DIは国内でこそ大手のコンサルティング・ファームですが、グローバル規模で考えれば、ボストンコンサルティンググループやマッキンゼー&カンパニーといった大手よりも非常に小さい。私たちが彼らと同じことをやっていても勝ち目はありません。

そこで差別化のひとつとして打ち出したのが、海外の事務所でも完璧に日本語が通じる体制をとったこと。海外の出先でも日本語で相談したいという需要は日本企業の間で根強くあったのですが、それに応えられるのは当社だけ。大手がマネできないDIの独自性のひとつとなっています。このように、差別化戦略を考える場合、従来のように国内の同業大手と比較するのは、もはやナンセンス。これからはグローバルな視点で独自性を見出すことが必須です。また、日本経済が頭打ちになる中、海外進出、とりわけアジア市場の開拓が中小・ベンチャー企業にとって大きな課題です。

―世界経済の成長エンジンを担ってきた中国に、変調の兆しが見えますが。

堀:中国の成長率が多少鈍化しても、その後にはインドネシア、ベトナムが続き、さらにはカンボジア、ラオスなど、開発余地が大きいASEAN(東南アジア諸国連合)諸国が続々と控えています。アジア市場全体を見渡せば、成長の限界点はまだまだ先のことです。私はこの3月にカンボジアなどを訪問し、多くの政府高官や経営者と意見交換をしましたが、アジアのパワーエリート層の人材レベルが高く、秘めたる国力は相当なものだと感じました。たとえば、カンボジアのチャン・サルン農林水産相はオックスフォード大学を出て、ハーバード大学院でも学んでいる。また、中国でもベトナムでも、アジアのベンチャー経営者は一様に英語が堪能です。一方、大臣や高級官僚、さらには大企業の経営者まで、日本のパワーエリートのほとんどは東大卒止まりで、英語をまともにしゃべることができる人も非常に少ない。人材レベルの観点から見ただけでも、すでに日本は一等国の座から転落しています。

―どうすれば日本企業はアジア市場を攻略できますか?

堀:ソフトウェアに着目すべきです。しかし、ソフトと言ってもITではなく、「食」、「アニメ・マンガ」、「ファッション」の3つです。なぜなら、これらの分野で日本は圧倒的なグローバル競争力を持っているからです。まず「食」ですが、日本の農産物よりも品質が上で、おいしくて安全なものは地球上にありません。コメ、サクランボ、メロン、何でもよいですが、日本の農産物はすべて世界最高水準。これまでは日本の農産物をアジアに輸出しても、現地の所得水準からすれば超高価になるため、受け入れられませんでした。でも、これからは違う。いまアジアでは、新しい富裕層が続々と誕生しているからです。彼らはおいしくて安全な食品に対して金を出し惜しみません。たとえば、中国で年収3000万円以上の富裕層は日本の10倍存在しますが、彼らは「中国で生産されたものは危ない」と言って食べません。一方で、「日本で生産されたものは安全」と言って、中国の農産物に比べて何倍も高い日本の農産物を取り寄せて食べているんですよ。

―経済成長で購買力が上昇すれば、アジア全域で日本の農産物に対する需要も高まる、というわけですね。

堀:そうです。アニメ・マンガも同じですね。すでにアジアのアニメ市場は日本勢によって寡占状態が築かれていますが、ラオスやカンボジアといったアジア諸国の生活水準が向上すれば、日本のアニメに対する需要はさらに増すでしょう。そして、ファッション。世界標準はパリ・コレクションに代表される欧州ファッションですが、「白い肌で金髪で碧眼の女性」に似合うようにデザインされていますので、「黄色い肌で髪と瞳が黒い東洋人」にも似合うとは限りません。アジアでは、自分たちに似合うファッションに対する潜在ニーズが、きわめて高いのです。当社もアジアのファッション市場の攻略に動いています。DIは日本知財ファンドを通じ、日本最大級のファッションイベント「東京ガールズコレクション(TGC)」の商標権に投資。権利の6割を保有しており、TGCブランドの海外展開を推進しています。その戦略のひとつとして、アジア中の人気ファッションを一堂に集めた「アジアガールズコレクション」といったイベントを東京で開催する計画を進めています。実現すれば、アジア友好の場にもなるでしょう。

―しかし、アニメやファッションの市場規模はそれほど大きくないのでは?

堀:当社の社員で非常に鋭い仮説を唱える人間がいましてね、彼が言うには、人類の欲求は飢えや寒さをしのぐことが一番最初にあり、それが満たされると家族意識が芽生え、地域社会のためにとか、国家のためにという意識が生まれる。そして、国家レベルでも衣食住が満たされると、次はレジャーへの欲求が生まれ、それも満たされると、最後に「コミュニケーション」への欲求が出てくると。今日、FacebookなどのSNSが爆発的な勢いで世界同時流行していますが、その背景には、人類の欲求レベルが「コミュニケーション」という高次元の最終段階に達したからだ、と彼は分析するのです。コミュニケーション欲求の高まりを消費の観点から見ると、「人々はコミュニケーションにお金を使うようになる」ということを意味します。ネットを通じて話題が瞬時に広まるように、アニメやファッションは現代の人々のコミュニケーションの大きな部分を占めています。そして、コミュニケーション欲求の高まりは、話題となるコンテンツの消費を促進させることになります。良い悪いは別にして、コミュニケーション欲求の高まりとともに、人々はアニメやファッションを旺盛に消費するようになるでしょう。

ドリームインキュベータの考える成功する経営者の条件とは

―ところで、堀さんは多くの経営者を見てきたと思いますが、成功する経営者の条件は何でしょうか?

堀:条件のひとつは「事実を語る」こと。事実には何よりも迫力があり、他人も耳を傾けます。しかし、たいした経験もないのに、すぐに哲学をしゃべりたがる経営者が多いですね。たとえば、松下幸之助が実績も何もない20歳の時に哲学を披瀝していたとしても、誰も耳を貸さなかったでしょう。功成り名を遂げた経営者が哲学を話すから、皆が聞きたいと思うのです。しかし、事実を語るというのも、案外難しいものです。漫然と事象を眺めているだけでは、語るべき事実は見つかりません。語るべき事実を見つけるためには、現場を徹底的に観察すること。磨かれた観察力で現場を見れば、新しい何かを感じることができ、新しい価値が創出できるはずです。次に必要なのは、「相手に対する愛」。従来は逆境を味わった人がハングリー精神を発揮し、ワンマン経営で成功するケースが多かった。ですが、これからは人間的な愛を知り、社員を大切に扱う経営者の方が成功するでしょう。そういう意味では、これからは人間的な愛を持っている親御さんに育てられた人の方が成功する確率が高いと思います。

―これからは誠実さと思いやりが、経営者に求められる重要な資質となるのですね。

堀:そうです。最後に、もっとも大事なのは「目」ですね。目は体の中で唯一、大脳皮質が露出している部分なのです。だから、目は絶対に嘘をつけません。今まで多くの経営者と会いましたが、目をそらす人、目つきのおかしい人は、短期的な成功を収めても、最後は転落していきましたね。

たとえば、村上ファンドの村上世彰君。通商産業省の役人だった頃から彼のことを知っていたのですが、当時から彼の目つきが気になって仕方がありませんでした。顔面神経痛ではないのですが、目がカチャカチャしているというかね、落ち着きがなかった。ライブドアのホリエモンもそうでした。彼の場合は、不自然に目をそらす。目の病気かと疑ったほどです。

目をそらす人というのは、何かやましいことがある。だから村上君とも堀江君とも付き合いませんでした。私は最終的に、経営者を目で判断します。

―欧州債務危機の拡大など、不透明な経済環境が続いています。このような時代に経営者が指針にすべきことはありますか。

堀:リーマン・ショック以前は「ウォール街の時価総額最大主義こそが世界の正義」とされていました。アメリカ型資本主義の考え方に立てば「株式時価総額が大きいほど、その会社が立派で成功している」と評価されるからです。しかし、私はそう思わない。時価総額なんて株価が高くなれば同時に高くなるわけで、企業の実力を映す鏡なんかではなく、単なる人気投票に過ぎません。

4項目あるDIの社是(右参照)の第1項は「人々の役に立つ」という言葉です。企業の根幹的な存在意義は時価総額ではなく、社会に役立っているかどうかに尽きます。これはきれいごとではありません。社会に役立っている会社なら必ず社会の支持を得ますから、長い目で見れば儲かるに決まっています。

「人々の役に立つ」という考え方は、日本の経営者だけではなく、中国やベトナムなど、アジアの経営者などと話していても共感されます。日本人は今まで、あまりにも欧米流にかぶれていたというか、盲目的に信じすぎていました。これからは自分の頭で考えて、自分が正しいと信じることを貫くべきです

堀 紘一(ほり こういち)プロフィール

1945年、兵庫県生まれ。1966年、メリーランド州立大学に留学、1969年に東京大学法学部を卒業後、株式会社読売新聞社を経て、1973年から三菱商事株式会社に勤務。1980年にはハーバード大学経営大学院の経営学修士(MBA with HighDistinction)を取得。1981年から19年にわたり株式会社ボストンコンサルティンググループに勤務。1989年から2000年5月まで日本法人の代表取締役社長を務める。同年6月より最高顧問に就任。2000年4月にベンチャー企業の支援とコンサルティングを行う株式会社ドリームインキュベータを設立し、代表取締役社長に就任。同社は2002年5月に東証マザーズ、2005年9月に東証一部に上場した。現在は同社の代表取締役会長。著書多数。最新刊に『「もう一度会いたい」と思われる人になれ!』(PHP文庫)、『「正しい失敗」の法則』(PHPビジネス選書)。

株式会社ドリームインキュベータ

設立 2000年4月
資本金 46億1,500円万(連結、2012年3月期現在)
売上高 65億2,600万円(同上)
従業員数 199名(連結役職員数)
事業内容 大手企業や政府の産業政策立案などに対する「戦略コンサルティング」、ベンチャー事業に投資・育成する「ベンチャー支援」
URL http://www.dreamincubator.co.jp/

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