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株式会社ドリームインキュベータ 代表取締役会長 堀 紘一

「世界連鎖恐慌」に打ち克つ知恵

百年に一度とも言われる未曾有の大不況。堀紘一氏は、この大不況をあえて「世界連鎖恐慌」と呼ぶ。「連鎖」と言うからには、当然その「発端」がある。では、世界連鎖恐慌の「発端」の正体とは。また、この世界連鎖恐慌に日本の経営者はいかに立ち向かうべきなのか。今回は当代きっての経営コンサルタントである堀紘一氏が「世界連鎖恐慌に打ち克つ知恵」を誌面上であますことなく語ってくれた。

※下記は経営者通信1号(2009年5月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

―米国の金融危機に端を発した大不況が世界中を席巻しています。堀さんはこの大不況をどう捉えていますか。

 私はこの大不況を、あえて「世界連鎖恐慌」と呼んでいます。そもそもこの世界連鎖恐慌の発端から話すと、話は欧米先進諸国の年金運用にまで遡ります。欧米先進諸国では少子高齢化の加速度的な進行により、年金の支出額がその収入額を大幅に上回ってきました。そのため従来通りの運用方法では年金が破綻することは時間の問題だったんです。しかし、国民の支持を失うことを恐れた政治家たちは、この事実を公にしなかった。そこで、年金が何とか破綻しないよう、つまり辻褄を合わせる必要があったんです。

 では、どうやってその辻褄を合わせたか。そのカラクリが高利回りのヘッジファンドへの投資だったんです。ヘッジファンドというのは、ごく少数で運営している「私的な投資組合」。私なりに言いかえれば、「裁定取引と金融工学に基づいてカネを膨らませることを目的とした集団」です。彼らは高いレバレッジをきかせて、きわどい先物取引も行っていました。元金を大幅に膨らませ、何と一時期は全世界で4000兆円もの❝虚のお金❞を動かしていた。その経済的な影響力は凄まじく、ひとつの大国にも匹敵するほどです。10年ほど前にアジア通貨危機の裏で暗躍し、タイ、インドネシア、韓国などを国家滅亡の崖っぷちにまで、彼らが追いやったことは皆さんの記憶にも新しいでしょう。

 そして、ヘッジファンドが暗躍する時期と同じくして、インベストメントバンク(投資銀行)も変容し始めました。彼らは金融工学という小難しい理論を駆使して、数多くのデリバティブ(金融派生商品)を作り始めたんです。その中には、今回の金融危機の引き金となったサブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)も含まれています。そして、このインベストメントバンクが作り出した金融商品の市場は6000兆円にまで膨らみました。ヘッジファンドとインベストメントバンク、この二大勢力によって実体経済を遥かに凌ぐ❝虚の経済❞が生み出されたんです。この二大勢力が動かしているお金を合わせると、両者が重なる部分もありますが、なんと1京円にものぼります。ちなみに、世界中の国々のGDPを合わせても約5000兆円に過ぎない。これがどれほど異常な事態かが分かると思います。

―❝実体経済❞から大きくかけ離れた❝虚の経済❞が出来上がったと。

 そうです。しかし、❝虚の経済❞が長続きするはずはありません。❝虚❞なので、いつかは化けの皮が剥がされる運命だったわけです。結局、アメリカのサブプライムローン問題をきっかけに、膨張していた❝虚の経済❞は一気に破裂することになりました。まるでパンパンに膨らませた風船が破裂するように。

その後、ニューヨークでダウ平均が、東京で日経平均が急激に下がり始めた。世界中の株式市場が音をたてて崩れ始めたんです。穀物相場や原油相場もメチャクチャ。今回の世界同時株安によって失われた資産価値は、世界各国のトータルで見ると、約3000兆円に及ぶと言われています。人口約30万人のアイスランドは国家破綻の危機に瀕しているほどです。

 この状況に、私は珍しく怒っています。もちろん、いちばんの怒りの矛先はヘッジファンドやインベストメントバンクに対してです。本来、金融というのは産業に対して血液(資金)を供給するという大事な役割があるはずです。しかし、彼らは金融人の本来の役割を忘れ、自分たちの金儲けのため、世界中の人々を恐慌に陥れた。これは到底許されることではありません。

 しかし、現実はすでに「世界連鎖恐慌」が始まってしまった。呆然としている場合じゃありません。そんな余裕はない。特に経営者にとって重要なのは、この恐慌にどう生き残るかです。

経営者はどんな戦略をとるべきか

―今回の「世界連鎖恐慌」はいつまで続くのでしょうか。

 今回の世界恐慌は、資本主義の成立以来、人類にとって4度目になります。19世紀に2回、20世紀に1回、そして今回が4度目。過去3度の世界恐慌は、不況から脱出するまでに10年以上かかっています。ですから、今回の恐慌も世界経済が本格的に立ち直るまでに10年以上はかかると言われているわけですが、私はもっと早く立ち直ると見ています。

―では、この厳しい状況下、経営者はどんな戦略をとるべきでしょうか。

 不況時に経営者がとるべき戦略は、自社のマーケットポジションによって変わってきます。端的に言えば、自社がマーケットの中で強者なのか、弱者なのか。強者の戦略で言えば「カネでシェアを買う」ことです。現在のような状況下では中小の競合他社は広告出稿を控えざるえないため、逆に強者にとっては潤沢な資金力を活かして大規模な広告宣伝を打つ絶好の機会です。

 つまり、2番手、3番手に徹底的に差をつけられるわけです。不況時なので売上を伸ばすことは難しいですが、シェアを伸ばすことはできます。

 一方、弱者の戦略としては「守りを固めながら、攻めに転じる」こと。「守り」については、具体的な方策は3つです。1つ目は、無借金経営にすること。2つ目は、採用を控えること。3つ目は、既存顧客を大切にすること。これらが経営の守備固めの常道だと思います。また「攻め」については、徹底的に差別化を図ること。シェアで強者に勝てないなら、ニッチを攻めていく。ひとつの分野を徹底的に深堀りして、差別化を図る。

 ちなみに私のメッセージとしては、弱者こそ、この世界連鎖恐慌を機に果敢に攻めてほしいということ。好況時はどの企業も全体的に伸びているので、なかなか中小・ベンチャー企業が創意工夫をしても、大企業との差は詰まりにくい。しかし、大不況になると大企業も軒並み業績を落とし、中には倒産する大企業さえ出てくる。不況というのは「乱世」なんです。中小・ベンチャー企業にとっては、世に名乗りを上げる絶好のチャンスでもあります。

―不況期の経営者は短期的な視点に陥りがちです。どうやって経営のバランスをとればよいのでしょうか。

 不況期には、利益の6~7割を短期的な投資に配分する。そして、残りの3~4割を中長期的な投資に配分すべきです。好景気の時は、この配分を逆転させます。短期的な投資を3~4割に抑え、中長期的な投資を6~7割に増やす。好景気の時は放っておいても業績が伸びるわけですから、将来に投資する。こうやってバランスをとるわけです。

―不況時でも企業を成長させられる経営者はどんなタイプでしょうか。

 勉強する人、それ以外にありません。名経営者と呼ばれる人は例外なく勉強家です。不況・好況に関係なく、本当によく本を読みますし、どんな立場の人からも貪欲に学ぼうとしています。勉強を続ける経営者は、継続的に企業を成長させ、勉強をやめてしまった経営者は、そこで成長が止まってしまう。

 これからの社会は❝学歴社会❞ではなく、❝学習歴社会❞になります。今の若い経営者は、ろくに勉強を積み重ねずに、すぐに結果を求めようとする傾向がある。あまり短期的な視点で人生を考えないほうがいいと思います。人生の結果なんて50代、60代で出せばいい。人生をもっと長いスパンで考え、今のうちから本を読み、自分への投資を地道に続けてほしいと思います。

経営者にオススメする本とは

―経営者にオススメする本を教えてください。

 時の経過に耐え抜いた古典がいいと思います。時代を超えて残っている本は❝本物❞です。だから、経営者は折に触れて古典を読み、❝本物❞に接する時間を増やすことが大事です。

 私が経営者にオススメしたいのは、以下の10冊。エーリッヒ・フロムの『愛するということ』、ヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』、チャールズ・ダーウィンの『種の起源』、野中郁次郎の『失敗の本質』、福澤諭吉の『学問のすゝめ』、宮本常一の『忘れられた日本人』、山本七平の『「空気」の研究』、戦没学生たちの手記の『きけわだつみのこえ』、吉田満の『戦艦大和の最期』、坂井三郎の『大空のサムライ』です。これら10冊は日本の経営者の必読書だと思いますね。

―堀さんが考える❝今後の世界経済の展望❞を聞かせてください。

 今後の世界経済を読み解くキーワードは3つあります。1つ目が「産業資本主義への回帰」。今後はモノづくりをはじめとする産業資本主義へと回帰していくでしょう。これは日本企業が得意とするところでもあります。

 2つ目が「本物志向」。20世紀は大量生産・大量消費の時代でした。しかし、これからは地球環境に配慮し、モノを大切にする考え方が主流になっていくでしょう。人々は本物志向をより強め、本物のサービスを提供できる企業だけが生き残るようになります。

 3つ目が「多極化」。19世紀はヨーロッパ、20世紀はアメリカの世紀でした。そして、21世紀はアメリカ、EU、中国、インド、ロシアなどが軸になる多極化の世紀になるでしょう。特にアジアを中心とした新興国の力が目立ってくると思います。おそらく今回の恐慌から世界経済が立ち直るのも、中国やインドなどの新しい力が鍵となるでしょう。

―最後に、経営者に向けてメッセージをお願いします。

 「もうダメだ」、そう思った時、そこから本当の勝負が始まります。どんな経営者も大きな壁にぶつかる経験はある。壁にぶつかれば、ひと通り思いついた手も打ちます。しかし、大事なのはそこから。万策尽きて、あきらめるのか。最後のひと踏ん張りで、「もう一回だけ頑張ってみよう」と、最後の力を振り絞るのか。この頑張り一回の差こそ、その後の企業の明暗を分けるんです。また、この最後の粘りが新しい知恵や工夫も生み出します。

 現在の世界恐慌は普通の努力、普通の知恵では乗り切れません。そんな時こそ、経営者には最後の粘りを見せてほしい。現在の日本経済は、夜の闇が深い午前4時のようなものです。しかし、必ず夜明けは訪れる。経営者の皆さんが最後の最後まで力を振り絞り、今回の世界恐慌を大きなチャンスに変えてくれることを私も願っています。

堀 紘一(ほり こういち)プロフィール

1945年、兵庫県生まれ。1966年、メリーランド州立大学に留学。1969年に東京大学法学部を卒業後、株式会社読売新聞を経て、1973年から三菱商事株式会社に勤務。1980年にはハーバード大学経営大学院の経営学修士(MBA with High Distinction)を取得。1981年から19年にわたり株式会社ボストンコンサルティンググループに勤務。1989年から2000年5月まで日本法人の代表取締役社長を務める。同年6月より最高顧問に就任。2000年4月にベンチャー企業の支援とコンサルティングを行う株式会社ドリームインキュベータを設立し、代表取締役社長に就任。同社は2002年5月に東証マザーズ、2005年9月には東証一部に上場した。現在は同社の代表取締役会長 。

株式会社ドリームインキュベータ

設立 2000年6月1日
資本金 46億1,318万円 ※2009年3月末現在
売上高 19億4,600万円 ※2008年3月期実績
従業員数 73名(常勤役員、従業員、出向社員)※2009年3月末現在
URL http://www.dreamincubator.co.jp/
お問い合わせ電話番号 03-5773-8700

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