業績悪化後のM&Aは、買い手がつきにくい
―日本におけるM&A市場の状況をどのようにみていますか。
全体的にみると、活況だと言えます。事業承継のM&Aは依然として活況ですし、近年は大きな会社同士のM&Aがあったり、親会社が上場しているグループ会社を100%の子会社にする、組織再編のM&Aが行われたりといった動きがみられました。ただ、当社が得意としているスタートアップのM&Aは、以前と比べて増えているものの、個人的には「もっと多くてもいい」くらいの伸びだと考えています。
スタートアップのM&Aが思った以上に伸びていない要因としては、買い手も売り手となる企業も業績が好調だったこと。特にIT系は、コロナ禍でネット需要が増えたため、買い手のM&Aニーズは高まっている一方、売り手も「今は売る必要がない」というアンマッチが起きているんです。
ただ、こうした背景には、根本的な思考も大きく起因しているのです。
―それはなんでしょう。
これは日本全体に言えることですが、経営者には、IPOは「業績が好調なときに目指すもの」、一方のM&Aは「業績が落ち込んでいるときに行う敗戦処理」と考える傾向が根強く残っていることです。先進的なスタートアップの経営者でも、「自分が手塩にかけた会社を売りたくない」といった感情が優先されることがあります。ただ、業績が悪くなってからあわててM&Aを検討しても、買い手がつかなかったり、もし買い手が見つかっても買いたたかれたりする可能性が高い。一方で、なんとかIPOを果たしたとしても、上場してすぐに業績が伸び悩み、株価を落とすケースが多々あるのです。
アメリカのようになれば、スタートアップは活性化する
―どうすればいいでしょう。
やみくもにIPOを目指すのではなく、事業をより伸ばしていくという観点から、フラットな思考でIPOとM&Aの両方を出口戦略として検討すべきです。ビジョンや中期経営計画書などを策定する際、3年後を見すえたうえで、ベンチャーキャピタルから資金を得て自社単独で事業をグロースしていくのか。あるいは自社より大きな資本のチカラを得て、サービスの拡大を図っていくのか。長いスパンでどちらかを選択するのが重要です。たとえば当社の場合、IPOとM&Aのどちらが適切かを、起業家のパートナーとしてアドバイスすることが可能です。
―詳しく教えてください。
当社は、IPOを支援する会社として創業し、その直後からM&Aの支援にも携わってきました。そのため、IPOやM&Aにかかわらず、企業に対して適切なバリュエーションを提示することができます。また当社は、一貫してスタートアップに特化した支援を行ってきたため、事業のステージに応じてより細かい財務相談にも乗れますし、これまで培ってきたネットワークを介して適切なサポートを行うことが可能なのです。大手の証券会社では、IPOとM&A両方を扱っていますが、部署が異なります。その点、当社であれば、同じメンバーが両方の相談に乗ります。これは、当社ならではの強みだと自負しています。
―会社の成長戦略を模索している、スタートアップの経営者にアドバイスをお願いします。
やはり、戦略の選択肢は多くもっていたほうがいいので、出口戦略としてIPOだけでなくM&Aも検討すべきですね。たとえば、アメリカではM&Aが積極的に行われており、成長戦略としてM&Aは当たり前になっています。それに比べると、日本はまだまだM&Aの事例が少ない。当社としてはIPOとM&A両方の支援を行っていくことで、日本のスタートアップの活性化に貢献していきたいですね。