商品の機能や性能だけでは、生活者には選ばれない
―人口減少という抗えない現実に直面するなか、多くの経営者が持続的な企業成長に向けて苦心しています。
ええ。多くの企業は、競合との差別化のため、商品やサービスの開発に注力し、厳しいなかでも市場シェアの確保を図っています。しかし、人口が減少し、さらにモノやサービスがあふれる成熟市場においては、競合と大きな差別化を図ることは難しく、企業は価格競争に陥りがち。その結果、成長の維持が困難となっています。こうしたなかでも成長を続けるには、これまでと異なるアプローチが必要となります。
―どのようなアプローチでしょう。
商品やサービスそのものに主眼を置いた価値提供ではなく、変化する生活者ニーズに対応した付加価値を提供することです。それは、生活者のニーズが、商品やサービスの機能的な価値から、その企業や商品、サービスがもつ「情緒的価値」へと変わっていることが根底にあります。情緒的価値とは、商品の使用、または所有で得られる心理的な価値のこと。たとえば化粧品で言えば、かつては「どのような保湿成分が配合されているか」といった機能面だけでも選ばれたかもしれません。しかし、競合品があふれる現在は、機能にくわえ、「これを使うことで、より理想的なライフスタイルに近づけられる」といった、心を豊かにしてくれるブランドの情緒的価値により選ばれる傾向が強まっているのです。
ステークホルダーに広がる「社会的価値」への重視
―生活者の情緒に特に訴えかけやすいというブランドはあるのでしょうか。
はい。今後は、「ビジネスを通じて社会的な価値を創出している」ブランドがますます選ばれていくでしょう。特に向こう10年の消費をけん引する、現在10~25歳の「Z世代」は、社会貢献に対する関心が高いとされる調査結果があります。現在はまさに「コロナ禍」という社会課題に直面していますが、こうしたなか、「応援消費」という新しい消費行動も目立っています。自分のためだけにモノを消費するのではなく、そのモノを購入することで、他者や社会の課題解決に貢献する。そんな価値観を重視する傾向が、世代を問わずに表れているのです。
また、企業のビジネスに社会価値を求めるのは生活者だけではありません。
―どういうことでしょう。
自社の社員から取引先、投資家、政府など、企業のステークホルダー全体が「社会課題の解決に貢献する」といった概念を重視するようになっています。その概念とは、「SDGs」や「ESG投資(※)」「サステナビリティ」などのこと。最近で言えば、海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化などの社会課題解決に向けたレジ袋有料化が身近ですね。こうした概念は欧米が先進的で、米国小売大手のウォルマートがサステナビリティに関する方針を調達に取り入れていることなどが有名です。いまは日本国内でも、「この商品は環境に配慮できているか」といった社会的な観点が、消費のみならず、取引でも重視されるようになっています。
つまり、これは生活者に商品やサービスを直接提供するBtoCに限らず、BtoBの事業を展開する企業にとっても言えることとなります。
※ESG投資:環境・社会・企業統治に貢献する企業に投資すること
―確かに、最近はSDGsへの貢献を表明する企業も目立っていますね。
ええ。しかし実際には、大企業であっても、CSRやSDGsといった社会的活動と、利益を得る経済的活動が両立できていないケースが多いのが現状です。なぜなら日本では、SDGsやCSRの部門がマーケティング部門と別に存在するなど、社会的活動と経済的活動が切り分けて考えられがちだからです。たとえば製造業で、環境に配慮したものづくりを行っていても、それがステークホルダーに伝わり、ブランドとして共感されていなければ、ビジネスとの相乗効果が望めない自主的な社会貢献となってしまうのです。大企業に限らず、今後企業が目指すべきは、社会価値を示す自社のブランドが直接マーケティング資源となり、経済価値を生むサイクルをつくることなのです。
―社会価値と経済価値の両立はどのように実現できるのでしょう。
FICCでは、従来のように、商品やサービス、既存市場を起点に考えるのではなく、「パーパス」にもとづくブランドマーケティングを行うことを提唱します。パーパスとは、「目的」という意味の英単語ですが、マーケティング用語では、企業が社会に存在する目的、つまり「企業の存在意義」を意味します。 社会価値と経済価値の両立のためには、パーパスを「企業の想い」で留まらせるのではなく、「パーパスによるマーケティング」を戦略的に描くことが重要です。 たとえば、パーパスを軸としたブランドが生活者に選ばれれば、従来の商品・サービスの主戦場だけに縛られない新たな市場が創造されます。企業活動を取り巻くステークホルダーの共感を得るパーパスは、資金や人材、ほかの組織とのネットワークといった、有形・無形を含むマーケティング資源の獲得にもつながります。
他者の共感を得られる「ビジョン」があるか
―具体的にはどのように着手すべきですか。
パーパスを構成する、3つの要素を定めることです。それは、企業が実現したい世界である「ビジョン」、そのために企業が担う使命である「ミッション」、そして、経営者や役員、社員一人ひとりが大切にすべき価値、すなわち行動指針となる「バリュー」 です。なかでも、最上位のビジョンは、実現によって自社に優位なマーケットになるような世界観を描くことがポイント。このビジョンは、すべてのステークホルダーから共感を得る必要があるため、「我が社は将来、こうありたい」という自社目線であってはいけません。その実現に自社がビジネスで活躍でき、実現することで社会がより良くなる。そんな世界観を描くことが大切なのです。
一人ひとりの想いや学びが、イノベーションを促す
―理想とする世界観を、他者の共感が得られるように言語化するということですね。
そのとおりです。しかし、自分たちが意図するイメージを外部へ正確に伝えるのは簡単ではありません。そこでFICCでは、第三者の視点に立ち、パーパスの定め方やブランド戦略を包括的に支援しています。FICCの強みは、社会価値と経済価値を両立させ、成功へ導くブランドマーケティングの確かなフレームワークとプロセスを保有していること。そして、「あらゆるブランドと人がパーパスによって、未来を創り続けている世界の実現」というFICCのビジョンにもとづき、ブランドマーケティングの支援を行っているのです。
また、企業が持続的成長を実現するにはイノベーションが重要となるため、FICCでは、新規事業の設立やイノベーションの支援にも力を入れています。
―詳しく聞かせてください。
先に、「情緒的価値が重要」と話しましたが、今後10年はパーパスによりイノベーションを起こし、新たな社会価値と経済価値を創造する時代です。ここでいうイノベーションとは、既成概念にとらわれず、新しい考えにより社会をより良い姿へ導く価値を創ること。イノベーションを促すには、経営陣だけでなく、若手も含む社員一人ひとりの個性から、いままでになかった考え方を引き出すことが大切です。そのためにFICCでは、リベラルアーツ(※)の本質をビジネス構造の中心に据え、個人の想いや学びから新しい価値を創造し続ける、「イノベーティブ組織」を目指して戦略的に取り組んでいます。
※リベラルアーツ:古代ギリシャ・ローマで「人を自由にする学問」として生まれた、7つの科目からなる「自由七科」が始まり。
言語に関わる3科目と数学に関わる4科目から構成され、専門知識を学ぶ前に、必ず学ぶべき学問として定義された
答えがない社会課題の解決に、求められる考え方とは
―「リベラルアーツの本質」とはどのようなものですか。
思考の束縛から解放され、自由な思考を得ながら社会に「問い」を立てることや、互いの存在に感謝しあうことです。リベラルアーツは、日本で捉えられがちな「一般教養」ではなく、「人を自由にする学び」のこと。その本質は、ビジネスや社会に新しい価値を創造し続けるために重要な哲学なのです。社員個々人が既成概念や組織内の役割といった既存の「枠」から自由になり、新しい問いと価値を生み出す。リベラルアーツはビジネスの場においてこそ、重要な思考であると私は考えています。
そこでFICCでは、毎月のワークショップを通じ、社員一人ひとりの想いや学びから生まれた「問い」をもち寄り、イノベーション活性化を図る取り組みを実施。最近ではこの取り組みが顧客の関心を集めるようになり、イノベーション支援策として提供しています。
―厳しい市場環境においても顧客を獲得し続けたいと考えている経営者に、アドバイスをお願いします。
昨今のコロナ禍で、企業運営は非常に困難な環境に置かれています。しかし、そのようなときこそ、「パーパスやブランドのあるべき姿」をしっかりと定めることが、その後の成長において重要です。FICCは10年以上にわたり、化粧品や自動車、食料品、ITなど幅広い業界のリーディングブランドを支援してきた実績を活かし、企業の中長期的なビジネスを導いていきたいと考えています。ブランドに関して課題を感じている経営者の方は、ぜひお声がけください。
新たな企業ビジョンの策定で、ステークホルダーへの事業理解を促す
新しいものや体験の応援購入(※)サービス『Makuake』を展開するマクアケ。代表の中山亮太郎氏によると、創業以来、着実に事業拡大が進んできたが、同時に世間では「クラウドファンディングの会社」という印象でマクアケが語られるように。中山氏は、「クラウドファンディングの仕組みはあくまでツールで、我々が実現したい本質ではない。マクアケの本質的な価値が正しく浸透できなければ、我々が描く世界の実現も遅れてしまう」と課題に感じていた。
そこで中山氏は、自社が掲げるビジョンとミッションに着目。ビジョンは、企業が目指す世界を示し、事業展開や採用活動にもかかわってくる。同社は、会社の存在価値を正しく理解してもらうため、FICCの支援のもと、ビジョンの再策定を行った。従来のビジョンは「世界をつなぎ、アタラシイを創る」。しかしこれは、「自分たちがすべきこと」で、目指す世界観ではないと気がつく。FICCは、マクアケの社員を巻き込みながら、会社のイメージを整理し、言語化。新たなビジョンは、「生まれるべきものが生まれ、広がるべきものが広がり、残るべきものが残る世界の実現」に決定。従来のビジョンはミッションとして整理された。
マクアケは、新たなビジョンをパートナーとの取り組みや投資家との会議や採用活動などで発信。自社が目指す世界観をより正確に伝えられるようになった。社内でも、業務とビジョンが紐づき、意思統一がより強固になったという。
※応援購入:マクアケのサービス内において、特定のプロジェクトに共感し、ものや体験の購入を通じて応援すること