社員の急増にともない、外部研修の導入を決断する
―iYellが人材研修を導入した背景を教えてください。
窪田:業績拡大にともない、社員が急増したことが大きな要因ですね。もともと約50名だった会社に、1、2年で約60名が新たに入社したわけです。さすがにそこまで増えると、「組織にゆがみが生まれてくる可能性があるな」と思っていたんです。
もともと当社には、成長した人材が活躍してくれることで、結果的に売上があとからついてくるという経営思想から、「会社のお金は、基本的にはまず人を育てることに使う」という考えがあって。そのため、営業部門よりも先に育成部門をつくり、社内で育成を行っていました。
―どのような育成ですか。
窪田:おもに、会社のバリューを浸透させることに紐づいた育成です。当社には、仕事へのスタンスや行動にフォーカスした「Job ver.」と、想いや心のあり方などにフォーカスした「Mind ver.」と、あわせて18個のバリューがあります(下図参照)。当社の理念に「なにをするかより誰とするか」というのが根底にあり、一緒に働くのであれば、同じ価値観をもったメンバーたちと働きたい、と。そのため、バリューに共感できる人材を採用し、定期的に研修や合宿を行うことで、バリューの浸透を徹底しているのです。
ただ、先ほど言った社員の急増にくわえ、我々は研修のプロではないので、人材育成の質に限界があります。また、社内のメンバーが研修を実施し続けると、ある種さめてしまう部分も。そこで、人材育成の研修を行っている情熱さんを紹介してもらったのです。
経営環境に対応する「バリューシスト」の重要性
―情熱ではどのような研修を行っているのか教えてください。
矢間:企業のバリューを体現する人材を「Valuesist(バリューシスト)」と定義し、そうした人材を育成する「バリューシスト研修」を行っています。
なぜ、バリューを研修の中心に置いているかというと、社員がバリューに共感し、それを体現することで醸成される企業文化こそが、どんなにすぐれた戦略やサービス、商品よりも企業を成長させ、継続させる土台になると考えているからです。
―その根拠はなんでしょう。
矢間:当社がさまざまなお客さまに研修をさせてもらうなか、「社員が幸せそうに働いている会社は、理念やバリューを大事にしているな」と思っていたのが背景にあります。そこで突き詰めて考えると、窪田さんが「なにをするかより誰とするか」を大事にしているとおっしゃるとおり、「なにをするか」は社員が会社で働くうえでの強い動機にはならないな、と。それこそ、目まぐるしく経営環境が変わる現代において、同じ事業を続けられる保証はありませんから。だからこそ、同じ価値観をもった組織こそが今後生き残っていくでしょうし、そのためにはバリューシストの育成が欠かせないというわけです。
―どのようにしてバリューシスト研修を行うのですか。
矢間:端的に言うと、当社独自の「バリューリンキング(商標登録申請中)」という研修メソッドがあり、それを各企業のバリューとリンクさせた研修を行っていきます。
たとえば、iYellさんのバリューのひとつである「investment(まずは未来を考える)」に対して。当社が実施する研修のなかで重視している考え方のなかに「限界突破思考」というのがあるのですが、それとバリューリンキングで「限界突破:『できない理由よりもどうすればできるのか?』を増やす」という目標をつくり出し、さらにそれを「investment」とからめて、どう体現していくかをグループワークで話し合う、といった具合ですね。
窪田:バリューを大事にしている当社にとって、「バリューシスト研修」は非常に親和性が高い研修でした。また、当社ではiYellで働く人を「iYellists(イエリスト)」と呼んでいるのですが、そうした点でも親和性もありましたね(笑)。そして、矢間さんには我々のバリューをいち早く理解していただき、それを研修導入前の草案に盛り込んでくださっていた。最終的には、それが情熱さんの研修を導入しようとした決め手になりました。
導入意図を明確にしつつ「研修転移」を起こさせる
―具体的にどのようにして研修を進めていったのでしょう。
矢間:これは当社の研修における特徴でもあるのですが、いちばん最初に研修を受ける前と受けた後の状況を文言化しました。現状としての「Before」、理想とする「After」、どんな施策をしたかの「Solution」、そして結果どうだったかの「Result」の頭文字をとって『BASRモデル』を実施しているのです。これは、結果が明確に出るので研修会社からすると非常に怖いことなんです。しかし、研修することが目的化しては意味がないため、必ず実施しているのです。
窪田:育成の本質は「どういう人材を育成したいか」という理想像があり、現状はどうかを把握する。そして、そのギャップを埋めていくことにほかなりません。なので、この取り組みはすばらしいと思います。
―ほかに特徴はありますか。
矢間:これも最初のほうに提案したのですが、「複数回の研修を実施しましょう」と提案しました。単発の研修だと受けた直後は効果があるのですが、時間が経つとともに徐々に元通りになってしまいます。研修での学びを行動に活かすことを「研修転移」と言いますが、これを実現するのは反復するしかないのです。iYellさんには1ヵ月1回、計6回の研修を実施しました。
窪田:矢間さんの研修は、社員の意識が元に戻る前にさらに上がっていく感じなんです。そのポイントは、研修と研修の間で共通言語が生まれる点。先ほど矢間さんが言った「限界突破思考」なんかは、まさに流行り言葉のように社内で言い交わされるように。すると「あの研修はこのときに使うものか」と、社員の頭で反復され、どんどん身についてくるんです。言った人も聞いた人も反復するし、研修に参加していない人にも「なにそれ」となり、全体に波及していく。それは大きな成果でしたね。
業績目標ではなく、バリューをモチベーションに
―実際に研修を受けて、どのような効果があったのでしょう。
窪田:「研修のおかげでバリューの体現の仕方がわかった」という声が多く聞かれるようになりました。また、直接の効果は不明ですが、創業からの離職率は0.61%。「働きがいのある会社」ランキング(※)では、小規模部門5位に選ばれました。こうした成果は、情熱の研修を含めた、たゆまない育成・研修の結果かな、と思います。
※「働きがいのある会社」ランキング:Great Place to Work® Institute Japanが実施する2019年版日本における「働きがいのある会社」ランキングのこと
―最終的に実感した、バリューシスト研修の価値はなんですか。
窪田:「離職率の低下」「エンゲージメントの向上」そして、「共通言語ができることによるカルチャーの醸成とマネジメント力の向上」の3つですね。
研修後、矢間さんから「100点満点でいくつですか」と聞かれたので「120点」と答えました(笑)。
矢間:ありがとうございます(笑)。
―人材育成における今後のビジョンを教えてください。
窪田:この研修はリーダークラス向けに実施したのですが、あまりにも内容が良かったので新卒用にも行ってもらい、現在は全社員向けの研修を行ってもらっているところです。そしてゆくゆくは、情熱さんと当社で世界にひとつの人材育成メソッドをつくれたらな、と。
近年は、個人の業績と収入を連動させた「インセンティブ経営」を行う企業が多いと感じています。しかし、私は給与に関係なく、個人の人生が豊かなことと会社の業績が連動するような経営スタイルをつくりたいと思っていて。そのためには、こうした研修をやるべきだという世界観を浸透させたいですね。
矢間:業績目標による管理は大事ですが、そうした経営は個人的にはもう限界かなと思っていて。「この目標に向けてがんばれ」ではなく、「この価値観に共感しながらがんばろう」となったほうが会社も社員ももっと幸せになれるはずなので。
当社ではバリューの策定からサポートするので、もっと「バリューシスト研修」を広めていきたいですね。
ここでは実際に研修を受けた、入社3年目の船津さんと新卒1期生である井口さんに感想を聞いてみた。
―実際に研修を受けた際の感想を教えてください。
船津:私は研修を企画した担当者でもあるんですが、担当者としては初めての外部研修だったので、みんながどんな反応をするのかというのがすごく楽しみでした。受講者としては、1日5時間の研修だったんですが「もう終わっちゃったの?」というくらい楽しかったです。いつも一緒に働く仲間が、どういうふうにバリューのことを考えて行動しているのかを意見交換する時間が多くて。いろんな考え方があるのがわかりましたし、話し合うことで私自身がバリューを体現する方法を理解できました。
井口:僕は新卒1期生として入社したのですが、バリューを体現する方法は人それぞれでよくて、「こうしなければいけない」とガチガチに決めなくていいということがわかりました。じつは入社したての頃、「周りから求められているのは、まず結果を出すこと」と自分で勝手に決めつけていたところがあり、もがいていた時期があって。それがバリューを体現するには、周りの人にもっと頼ってもいいとわかり、肩のチカラを抜いて仕事ができるようになりました。
―今後研修をどのように活かしていきたいですか。
井口:以前の僕みたいに、バリューに対してストイックに考えてしまう若手が出てくると思うんです。そういった子たちに「バリューって人それぞれの考えや体現の仕方があるんだよ」ということを相手の目線に立って教えてあげたいです。
船津:私も、これから新しく入ってくる人に対し、バリューを体現するための学びの機会を積極的につくっていきたいですね。じつは新卒で入った前職時代にも研修があったんですけど、ずっと寝てしまってて(笑)。研修を受ける意味がわからなくて、正直研修が嫌いだったんです。この研修を受けることで、「研修って本当は楽しいものだ」と生まれて初めて知ることができました。