社長経験者や英語上級者も潜在力を活かすみちは多い
―障がい者の就労支援ビジネスが急成長しているそうですね。最新の動向を教えてください。
厚生労働省の統計では、「障がい者就労継続支援A型事業所」が最近6年間で10倍近くに増えています。以前は非営利の組織限定だったのが、10年ほど前に一般企業でも運営できるように。それ以来、企業の参入が相次いだことが事業所数の急増につながったのです。
「障がい者就労継続支援事業」とは、企業などから依頼された仕事を障がい者にこなしてもらうことで就労訓練を施すものです。このうち障がい者と雇用契約を結んで就労の機会を提供するのがA型。最低賃金以上の給与を支払う仕組みです。
これに対し、B型は非雇用。障がいのレベルが比較的重度の人が利用する傾向にあります。
―中小・ベンチャー企業が障がい者就労支援ビジネスへ参入するメリットはなんでしょう。
第一に、国からの補助を受けながら優秀な人材を確保できることです。A型事業所には、雇用した障がい者ひとりにつき、1日7000円程度の給付金が国から入ります。それをもとに訓練を施しながら、生産活動に従事してもらうわけです。
ひとくちに障がい者といっても、そのキャリアはさまざま。社長として町工場を経営していた人。英語がたんのうで通訳として活躍していた人。大企業の幹部として世界を飛び回っていた人。こうした人たちの知識や経験が「障がいがある」というだけで埋もれてしまうのはじつにもったいない。
企業がA型事業所を運営することによって、こうした優秀な人材を確保し、人材難だからできなかった新事業に挑戦することも可能になります。
第二に、社会貢献になることです。A型事業所での就労訓練を通して、障がい者がその賃金をもとに人生設計を立て、納税者として自立。プライドをもって生活できるようになるからです。
障がい者をマネジメントさせ後継者教育につなげる
― 実際に「就労継続支援A型事業所」に参入して成功している中小・ベンチャー企業の具体例を教えてください。
飲食ビジネスを展開している社員100名ほどの会社が、自社の食品の包装や物流の業務を引き受けるグループ会社をA型事業所として設立。他社に委託していたときとコストは変わらず、納期が大幅に短縮できたそうです。たくさんのスタッフをいちどに作業させられるからです。この子会社のトップには、社長の息子さんをすえています。「障がい者のスタッフをマネジメントさせることで、経営者として教育しよう」というねらいからです。
ほかにも老舗の温泉旅館が飛躍できた例や、ベンチャー企業立ち上げがスムーズにいった例など、多くの成功例があります(下のカコミ記事参照)。
―多くの障がい者をマネジメントするには専門知識が必要で、企業が参入するのは難しいのではありませんか。
基本は健常者を雇うのと変わりありません。いちばん重要なのは仕事と本人の能力をマッチングさせることに気を配ること。間違った例として、全国障害者技能競技大会のパソコン部門で優勝した人材に清掃作業をさせていた事業者がありました。「障がい者にやってもらう仕事といえば清掃だろう」という経営者の先入観が誤りの根本にあった。
こうした「仕事と本人の能力のマッチング」をしっかりできる企業であれば、専門家に必要な業務をまかせればいい。当社の場合、「セルフ・エーのFCに加盟してA型事業所を立ち上げたい」という会社に対し、障がい者とそのサポートにあたるスタッフの募集、行政への申請書類の作成などのサポートを提供しています。
障がい者の雇用や現場での対応をめぐる、さまざまな悩みを解決するサポートも行います。
地場産業の後継者をつくり地方創生の一助に
―障がい者支援に共感を抱く経営者にメッセージをお願いします。
A型事業所の運営は社会への貢献度が非常に高いビジネスです。事業所で訓練を積んで一般企業に移るようにサポートすれば、「障がい者の法定雇用率を順守したい」という企業のニーズにこたえられます。また、後継者不足で存続の危機にさらされている地方の地場産業の救世主としての役割を果たせば、安倍政権が推進する地方創生を成功させる一助にもなりえますよ。