業界初
商都・大阪の象徴、大阪城。その東に広がる城東区は、政令指定都市のなかで、もっとも人口密度の高い特別行政区で、最近は高層マンションの建設が盛んな住宅街として開発が進んでいる。
ここに本社を構える日本昇降機は、大手企業の寡占構造にあるエレベーター業界のなかで、特別な存在。創業から約50年、どの系列にも属さない業界初の❝独立系❞として歩んできたエレベーターメンテナンスの老舗企業だからだ。
同社が寡占構造という強固な岩盤を穿つようにして創業したのは、日本が高度経済成長をひた走っていた昭和43(1968)年。「霞が関ビル」が竣工、高層ビルの建設ブームがスタートし、エレベーター需要も急激な上昇曲線を描いていた時期だった。
のちに同社の創業社長となる勝弘義一氏は、かきいれどきのエレベーター業界でメンテナンス技術者として、その腕を磨いていた。しかし、仕事に忙殺されるなか、日増しにある気持ちが強くなってくる。それは「もっと低価格で、高品質の仕事をお客さまに提供したい」との想いだった。
一般的に寡占構造のなかでは、価格や品質面での大きな競争は起きにくいとされる。だから自らの想いを実現するには独立する以外の選択肢はなかった。これが日本昇降機の創業経緯だ。
パーツセンター
創業直後は初めて誕生した独立系の会社に対する業界の風当たりがきつかったようだ。課題として立ちはだかったのが、メンテナンス用のパーツや部品の調達。エレベーターの多くは自動車と同様、汎用品はほとんど使っておらず、メーカーごと、機種ごとにカスタマイズされたものを使用している。
それらを製造するのはメーカー傘下の系列工場。そうしたクローズド・マーケットのなかで部品・パーツは製造、流通している。
こうした閉鎖構造をこじ開けたのは同社の「お客さまのために」という熱意だった。少しずつ賛同者が現れ、だんだんと安定的に部品・パーツを調達できるようになったという。「安全・安心」の徹底追求とともに、部品・パーツの安定調達に道筋をつけたこと。それが、同社が半世紀という長期継続経営を実現できた秘訣のひとつであるのは間違いない。
平成25(2013)年には、二代目社長の勝弘義人氏の指揮で、部品・パーツの安定調達に挑戦してきた同社の集大成とも言える「パーツセンター」を完成させた。同センターは、電子デバイスからエレベーターを牽引する巻上機など、大小さまざまなエレベーターメンテナンス用の部品・パーツ2万点を常備。独立系企業としては業界最大規模をほこる。
同社では大手から中小にいたるまで、あらゆるメーカーのエレベーターのメンテナンスに対応でき、顧客からの急な依頼にも即応できるという、独立系のなかでも類がない強力な体制を整えている。その裏付けこそ、「パーツセンター」なのだ。
技術力の源泉
部品・パーツの安定調達とともに、創業以来、50年の時を費やして同社が磨き続けてきたのは「安全・安心」の追求。それを象徴するのが独立系としては初めて戸開走行保護装置(UCMP)の大臣認定を取得したことだろう。
2006年に起きたシンドラー社製エレベーターの痛ましい事故以来、高レベルの安全確保を担保するため、国は巻上機のブレーキを二重化するという新たなエレベーター規制を実施。UCMPという新たな安全装置の開発・認定取得(大臣認定)が業界の喫緊の課題となった。
対応に苦慮する会社も少なくないなか、規制開始から1年後に、同社は独立系としてはトップクラスのスピードで大臣認定を取得した。
難度の高い技術を素早く習得できた背景には、手を抜くことなく強化してきた安全・安心の取り組みがある。同社では「業務管理課」「品質管理課」そして「QCサークル」が三位一体となった手厚い仕組みで安全・安心を追求してきた。その結果、創業以来、同社がかかわったエレベーターでは事故ゼロの記録継続という成果を結んでいる。
「人を運ぶ器」としてのエレベーターの品質、快適性の向上にも手を抜かない。同社本社には2台のエレベーターが設置されており、どちらも同社がフルメンテナンスしたエレベーターだ。ドアがゆっくりと開き、行き先階のボタンを押す。ドアが閉じ、上昇を始めるのだが、同社に設置されているエレベーターに乗ると、上昇時に特有のスッとなる不快感がない。下降時も同じ。機械音もしない。マンションなどの建物の資産価値向上を目的に同社にメンテナンスを依頼する顧客が増えているというのもうなずける。
未来へのチャレンジ
同社が近年、力を入れているのが「エレベーターリニューアル」だ。建物と同様にエレベーターにも寿命があり、大体の目安は設置後、20~25年とされている。エレベーターリニューアルのタイミングを逃してしまうと通常のメンテナンスでは補いきれない摩耗故障が起きる可能性が高まるほか、修理にも予想以上の時間がかかり、部品がそろわない場合すらでてくる。
そこで老朽化したエレベーターを部分的に、あるいは一式全部入れ替えるエレベーターのリフォームを展開しているのだ。
リフォームにより、利用者には最新技術の導入による事故確率の低減といった安全メリットのほか、バリアフリー対応、デザイン一新による快適性の向上といった利点がある。
また、ビルオーナーには、最新技術による電気代などのランニングコスト削減、デザイン一新による物件イメージの向上や信頼性アップなどのメリットがある。
エレベーターは、人々の営みになくてはならない社会インフラ、生活インフラだ。年齢や障害などにかかわらず、あらゆる人が平等に社会参画できることを促進する「ユニバーサルデザイン」のツールとしても利活用されている。創業以来、エレベーター業界に新風を吹き込んできた同社のチャレンジは、未来に向かって果てしなく続いていく。
東京やアジア進出も視野に
―長期継続経営の理由を聞かせてください。
迅速で丁寧な仕事と背伸びをしない堅実さを維持してきたからです。当社は自分たちが確実にできる数の案件だけをお受けしてきました。無理はしないんです。
安全・安心と顧客第一も徹底してきました。トラブル対応は24時間365日で、お客さまがエレベーター以外にも建物や階段などに困りごとを抱えていれば、問題解決をサポートすることもあります。
―今後のビジョンを聞かせてください。
社員の意見に耳を傾け、多様な価値が共存する時代にふさわしい企業でありたいですね。東京やアジアへの進出も検討中です。エレベーターリニューアル事業は、当社の新しい主軸事業にしていきたいですね。今後、ますます激しくなる業界競争で勝ち残るためには、時代の動きにあわせた俊敏さと同時に、丁寧かつ堅実という強みに磨きをかけることが必要。これからも事業を通じて社会に貢献していきます。