フジコーポレーション株式会社 代表取締役 加藤 広嗣

現場リーダー・マネージャーを 覚醒させる戦略アプローチ

フジコーポレーション株式会社 代表取締役 加藤 広嗣

組織の土台であり、成長の原動力でもある現場リーダーやマネージャーの育成に悩んでいる企業は多い。そうしたなか、有名大企業から中小・ベンチャー企業まで、数多くの会社に人材育成支援のサービスを提供しているフジコーポレーション代表の加藤氏は「個人個人にあわせた実践的な研修を行い、現場の課題解決をサポートすることで、組織の活性化を推進するリーダーやマネージャーは育成できる」と指摘する。目からウロコの育成法や研修のあり方などを同氏に聞いた。

※下記は経営者通信36号(2015年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

知識・スキルのインプットから 課題解決のプロセス支援にシフト

―現場リーダー・マネージャーの育成で、陥りがちな状況を教えてください。

 3つあります。1つ目は、育成の中心軸が知識やスキルのインプットに置かれており、それらを現場の課題解決にどのように活かすかは、本人に任されていること。その結果、研修を受けたものの、そこで学んだことをどう現場で活かせばよいかわからず、結局「研修を受けただけ」で終わってしまうリーダー・マネージャーが、私の感覚では6~7割いるように思います。

 2つ目は、人事教育部の視点から習得してほしいことと、対象者が必要としている知識・スキルがミスマッチを起こしていること。今直面している問題の解決を欲している対象者に、今すぐには必要としていない知識・スキルの習得を求めても、意欲が高まらないのは当然です。

 3つ目は、行動を生み出す源である『感情』の重要性に着目した育成がなされていないこと。「結果は行動から生まれる」ため、行動に影響をおよぼす感情という観点はとても重要です。『感情』を適切に取り扱えないと、組織の目標は達成できません。

―組織を活性化し、成果を生み出すリーダー・マネージャーを育成するためのポイントは、どのようなものだと考えますか。

 研修を行うにしても、まず、学んだ知識・スキルが、実際の現場の問題解決に有効なんだ…という手応えや、それらを通して自身の成長実感を得られるようになるところまで、しっかりフォローすることが大切です。また、リーダー・マネージャーが今遭遇している最前線の課題を解決するために必要な知識・技術がなにかを判断して、個別に指導していくことが、結果創出には有効です。しかし、一斉集合研修による効率性を重視するがゆえに、需要と供給にズレが生じています。遠回りのようで、じつはこの個別の指導が結果的に、もっとも効率的なのです。 

 育成のコンセプトを『参加者自身が解決したい課題の解決プロセスを支援すること』とし、一時的なインプットで終わらず、解決行動プロセスを一定期間伴走し、サポートする体制が必要です。そのためには、抱えている現場の問題が共通している数人(4~6人)での少人数研修な ど、個別の育成の視点が大切です。さらに、効果的なツールを活用し、戦略的に育成すれば、効率性はより高まります。

伴走する育成支援が 継続意思を保つ

―効果的なツールとは、どのようなものですか。

 私がおもに使っているのは、ハーマンモデル、EQ(Emotional Intelligence Quotient)、T O C (Theory of Constraints) 思考プロセスです。ハーマンモデルは大脳生理学に基づいた個人の思考行動特性を分析診断するツールで、「効き脳診断」といわれています。EQは自己や他者の感情を知覚し、望ましい結果につながるように自分の感情をコントロールする「心の知能」、TOC思考プロセスは全体最適を実現するロジカルシンキングです。これらのツールで自分の現在位置を明確にして、自分のなにがリーダーシップを発揮する障害となっているのか、逆に問題解決のためにどういう資質が自分にあるのかを確認することができます。ツールによる診断結果を参考に、対象者の悩み・課題、その背景要因、解決の切り口とプロセスについて対話を繰り返しながら、対象者の思考と感情に伴走し、行動をサポートしていくことが重要です。

 この3つのツールを学び、自ら使いこなすことで次のような効果が期待できます。①ハーマンモデルによって、チームのメンバーの思考行動特性を理解できる②EQによって、チームの業績を左右する「協力行動」を支える自他の感情の上手な取り扱い方がわかる③TOC思考プロセスによって、チームのゴールを実現するプロセスをメンバーと一緒に組み立てるスキルを習得することができる。これらを活用して自他の感情と行動を「望む結果につながるプロセス」に組み上げることができれば、有能な上司になれるでしょう。

―現場リーダー・マネージャーの育成に悩んでいる経営者や人事部担当者にアドバイスをお願いします。

 人は波形を描いて成長します。下降局面では人は後ろ向きになり、脱落しがちなので、継続意思を保つ仕組みをつくることが重要です。そのためには「見られている」という健全な緊張感が大切。成果を見守り、間違えそうなときは正しい方向に導く伴走者の存在が必要なのです。当社は集団研修だけではなく、少人数研修を通じた「伴走する育成支援」の実績も豊富にあります。いちばん苦しいのは伸び悩んでいる本人。その人たちが、リーダー・マネージャーとして能力を発揮し、覚醒すれば、組織は活性化し、その人も幸せになれる。そんなお手伝いを今後もしていきたいと思っております。

不足スキルを補い 「喜び」を創出する

―相談内容にあるような問題が起きる理由を教えてください。

 2つの理由に大別できます。まず、実務担当者時代とは異なるリーダーの役割に喜びを見出せていないこと。もうひとつは、リーダーの役割遂行に必要な基本スキルを実践できていないことです。

 実務担当者時代は自分の成果創出をめざせばよかったのに対し、現場リーダーにはチームの成果創出が求められます。マインドや仕事の進め方の切り替えをするためには、乗り越えなければいけないハードルがあります。それなのに、その部分を本人任せにして、会社が適切にフォローしきれていない場合、こうした問題が起こりやすいのです。

―解決策を教えてください。

 面談などの個別対応で、状況を分析、整理します。そこで明らかとなったマインドやスキルの不足点を研修などを通じて補い、実践をフォローします。当社のオリジナルシート『内面の初期想定状態』(下の図を参照)はこの不足点を適切に認識するのに有効なツールとなります。これは、スキル・モチベーション・SOCの3点について各階層時に想定される一般的状態を記したもので、その人の制約要因や克服すべき課題がひと目でわかるようになっています。

 また、一人ひとりの特性にあわせて、リーダーの役割に喜びを見出す切り口を創ることも必要です。

―その方法を聞かせてください

 リーダーとして喜びを感じられる切り口は、①戦略を設計したら実現部隊としてチームが動いてくれる②計画・役割分担・統率など自分の得意分野で手腕を発揮できる③部下の成長を支援しながら自身の人間力を養える④自分のビジョン・構想を具体化してもらう――この4つに分類できます。

 ここで、個々人の特性が大きく関わってきます。①の戦略家型の人に③の育成型の喜びを強いても苦痛に感じるだけ。前ページで述べたハーマンモデルなどのツールをきっかけにした深い対話によって対象者の特性を把握することが大切です。不足しているスキルを補い、インプットしたスキルを実際にどう適用していけばよいかをアドバイスする。そして、本人が喜びを感じられる切り口でフォローし、実践を通じて成功体験を積みあげ、自信がつくよう伴走することで、リーダーとしてのその人の能力が、覚醒します。

知識・技術の低さを認め ビジョンと対人能力を磨く

―厳しい状況ですね。

 私も企業勤務時代に同様の経験をしたので、気持ちがわかります。管理職を未経験の分野につかせるのは、将来の上級管理職への昇進に向けて幅広く経験させるためや、職場の同質集団化を防ぎ変化対応度を高める目的で、有能な管理職を投入するためなど、いくつか理由があります。会社から期待されているからこそ本人は泣きごとを言えません。それだけに袋小路に入りがちです。しかし、ポイントをおさえた能力開発をして育成すれば、こうした難しい状況も打開できます。

―どうすればいいのですか。

 2つあります。1つ目として、まず新しい部署における自身の業務知識・技術の低さを認め、別の力でチームに働きかけることです。自分が腕利きのプレーヤーだったときのスタイルは忘れ、「部下が力を発揮できる環境を創ること」に焦点をあわせるのです。その際、部下一人ひとりの思考行動特性を、ハーマンモデルなどを通じて理解し、それぞれのタイプにあったやり方で仕事を進めていきます。また、個々の特性を、成果を創出するために必要な「継続的な行動」につなげていく「EQ」を高めることも重要になります。

 当社には、マネージャーとの面談を通して、年長者との協力関係を醸成するプロセスをサポート、支援するプログラムがあります。私がハーマンモデルなどを使っている理由は、数多くのツールを試した結果、シンプルでわかりやすく実践ですぐに活用できるからです。ただ、これらのツールでなくとも、その会社で使っている他の方法がすでにあるならば、それに対応することもできます。

 2つ目は、上職者以外の社内の要員からメンターを選任して、マネージャーをサポートすることです。

―なぜ上職者はだめなのですか。

 多くの企業が成果主義を取り入れているため、チームを統率できないことを上職者に相談してもマイナス評価されるリスクがあるからです。ですから、本人評価に参加しない人のフォローが必要なのです。その際、メンターに選任された人の業務負荷や報酬の調整が課題になる場合は、対人関係や本質洞察スキルのアドバイスについて実績がある外部のコーチやファシリテーターを選任した方がよいかもしれません。

 ちなみに当社は、からまっている状況を整理し、目的・目標の実現をフォローするマンツーマン・ファシリテーション・プログラムを用意しています。こうしたサポートを通じて、これからも現場リーダー・マネージャーの成長と企業の活性化に貢献し続けたいと思っています。

加藤 広嗣(かとう ひろつぐ)プロフィール

1962年生まれ。大手教育出版社の経営企画部署で組織改革に従事したほか、営業本部の一員として全国各支社の変革活動を支援。1998年に独立してフジコーポレーション株式会社を創業。マンツーマン・ファシリテーションによる手法で、「組織や個人の課題解決」「現場リーダーやマネージャーの成長の実現」に貢献。
中小企業診断士、TOC-ICO(TOC国際認証機構)Jonah、ハーマンモデル認定ファシリテーターなどの資格を取得。

フジコーポレーション株式会社

設立 1998年11月
資本金 300万円
事業内容 ビジネスリーダー育成、EQエグゼクティブコーチング、現場リーダー&マネージャーへのマンツーマン・ファシリテーション・サポート
URL http://www.i-leader.jp/
お問い合わせ電話番号 050-3786-5225(受付時間 平日 9:00~17:00)
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