―2008年9月のリーマンショック以降、まだ日本は大不況から抜け出せていません。日本企業がこの状況から抜け出す方法を教えてください。
生江:リーマンショックをきっかけに、「グローバル経済全体の一律成長」という神話は完全に崩壊しました。新興国市場の急成長には大きな期待があるものの、グローバル市場は限られたパイであり、現在その奪い合いが起きています。
林:政府の大胆な政策転換がなければ、国内市場は今後も縮小していくでしょう。世界市場への進出も出遅れの感はありますが、日本の技術力や品質をもってすれば、まだまだ勝てる可能性はあると思っています。
ただ、世界で戦っていくためには「売上」のみならず、「コスト」も世界標準に追いつく必要があります。製造業における海外工場はその典型事例ですが、今後は間接部門のアウトソーシング(BPO(※))も広がっていくと思います。
世界全体を❝市場❞と捉えているわけですから、❝自社の仕事❞も業務遂行能力とコストで最適な地域を選択するのは当然です。また日本から世界に仕事を分配することで、日本は危機感を持って「自国の強み」を磨くことになり、仕事を受けた国は経済発展にもつながります。つまり、多国間でWin-Winの関係が築けるわけです。
※BPO:Business Process Outsourcingの略で、企業が自社の業務処理(ビジネスプロセス)の一部を、外部の業者にアウトソーシングすること。
主な業務として、コールセンター業務、経理、給与支払、人事管理などがある。
―なるほど。たとえば、どの業務をどの国にアウトソーシングすればよいのでしょうか?
林:英語・日本語など対応言語によって違いますが、高度なITシステムの開発はインドが適しています。また比較的簡単な開発であれば、コストの低いベトナム・フィリピンなどの東南アジア諸国が適しています。事務作業の中で標準化が可能な業務やデータ入力などは、中国が適していますね。
生江:もともと1980年代から、大連政府は日本語教育と税制優遇を武器にして、日本企業を誘致してきました。やはり日本企業にとって、日本語でコミュニケーションができることは大きなメリットです。実際、大連に進出している外資系企業のうち、50%が日本企業なんです。
大連は日本語レベルが高いため、高度なアウトソーシングの事例がたくさんあります。領域としては、経理、人事、総務、IT関連業務など。経理の場合、日本の税法に照らした適正な会計処理などもできます。さらに日本と大連の時差は、わずか1時間。業務上の支障もありません。
―海外アウトソーシングを進める上で、気をつけるべきポイントを教えてください。
生江:アウトソーサーの選定ですね。何の情報収集もせず、ただ海外の企業にアウトソースしても、目的は達成されません。そればかりか、業務の質も落ちます。それは、企業によって業務領域に得意不得意があるからです。ですから、その点を見極められ、現地の情報に精通した❝水先案内人❞が必要です。
林:その❝水先案内人❞が生江さんであり、当社なんです。当社はクライアントの「業務仕分け」から、手がける場合もあります。まずクライアントの社内で行うべきコア業務と、海外にアウトソーシングすべきノンコア業務を選別するわけです。そして、最適なアウトソーサーを選定する。さらにアウトソーシングの運用まで、ワンストップで支援しています。
―自社の業務を海外アウトソーシングすると、どのくらいコストが下がるのですか?
林:標準的な事例で言えば、30~40%のコスト削減が期待できます。そのくらいコストが下がらなければ、アウトソーシングする意味がありません。ただし、人件費差だけを意識しても、長期に渡る大きなコストインパクトは得られません。自社の事業戦略を再整理し、新しい価値観で業務を大胆にアウトソーシングすることが重要です。
生江:そもそも、いわゆる「ノンコア業務」をアウトソース対象とするのは当然です。重要なポイントは、「コア業務」と信じられてきた業務までも、アウトソーシングの検討対象にするということです。そこにメスを入れなければ、大幅なコスト削減はできません。実は「間接部門の約70%はアウトソーシングできる」というデータもあります。そして、その内の約70%、つまり間接部門全体の約50%は海外アウトソーシングができる可能性があります。しかし、この判断は非常に難しいと思います。だからこそプロである❝水先案内人❞の存在が重要になるんです。
林:ただし、大胆な海外アウトソーシングは社内の反発も招きかねません。正社員の仕事を奪うことにつながるからです。ですから、経営者にはグローバルな視野と決断力、そして繊細さが必要です。これからも当社はクライアントの経営環境を多面的に捉え、グローバルな視点で最適なご提案をしていきたいと思います。
クオリティを落とさずにコスト削減できるのか
厳しい経済状況が続く中、コストが大幅に削減できる海外アウトソーシングは魅力的である。しかし、クオリティなどに問題はないのだろうか。今回はBPOのプロであるイントループの川本氏に、実際のBPO支援事例を聞いた。
―海外アウトソーシングにはクオリティなどの不安があります。本当にクオリティを落とさずにコスト削減ができるのでしょうか?
川本:当社がBPOを支援している公共機関の例をもとにお話しします。プロジェクトの概要は下図を参照して下さい。
コストは約30%削減できます。初期コストも必要ありません。また、クオリティですが日本と同等以上です。なぜなら、複数回のデータチェックを行っているからです。まず大連では、同じ地図情報を2名の担当者が別々にデータ入力します。その後、2名が入力したデータを専用システムで比較し、チェックします。この時点で入力データの不一致などエラーが発生した場合、まったく別の担当者が修正入力を行い、納品データを仕上げます。さらに、専用システムによる異常値検知などの最終確認を行います。
そして、納期(スピード)については日本と同等以上のレベルにて柔軟に対応可能です。このケースでは、毎週数千枚~数万枚分の入力データを納品しています。セキュリティも日本と同等レベルです。当社が紹介する大連のアウトソーサーは中国版のプライバシーマークを取得しており、個人情報保護の体制を整備しています。このようなセキュリティレベルが認められ、本件も来期は大連への発注量が増える見込みです。
―コミュニケーションコストはいかがですか?
川本:これも心配のないレベルです。当社と提携している大連のアウトソーサーは、日本人の担当者が現場に常駐しています。また、現場の中国人リーダーも日本語のコミュニケーションが可能ですので、ストレスなく作業が進められます。そして、両社のコーディネートは当社の日本人が担当します。
海外進出のノウハウとは
海外市場への進出は、自社の売上向上の有力な選択肢だ。しかし、多くの中堅・中小企業は海外進出のノウハウを持っていない。一体どうすれば、海外進出に成功できるのだろうか。今回は海外進出のプロであるイントループ代表の林氏にインタビューした。同社の進出支援事例をもとに、海外進出のノウハウを語ってもらった。
―日本企業が海外に進出するケースは増えているのでしょうか?
林:年々、増加傾向にあります。特に中堅・中小企業が東アジアに進出するケースが多いですね。東アジアにおいて、「Made in Japan」のブランドイメージは非常に高い。安全で高品質な商品だと捉えられています。特に有力なのが中国市場。市場そのものが急成長しており、中国の商社や小売企業も❝海外の売れる商品❞を欲しがっています。
また先日、当社が日本進出のサポートを行っているインド某メーカーのCEOと話をした際、「なぜ日本の会社はインドに進出しないのか?日本の何倍もの人口がいるのにチャンスだと思わないのか?」と言われました。まったく仰る通りです(笑)。
―しかし、多くの中堅・中小企業は海外進出のノウハウを持っていません。どうやって海外進出をすればいいのでしょうか?
林:当社が支援している老舗の和菓子メーカーの例をもとにお話しします。そのクライアントは地方の中堅企業。商品の品質が高く、複数の大手菓子メーカーのOEMも手がけていました。しかし、自社商品のシェアは低かった。今後、国内でシェアを拡大するためには、多額の投資が必要な状況でした。そこで、当社は中国・上海への進出をご提案しました。上海には類似商品が流通していたのですが、その味はいまひとつ。つまり❝勝てるマーケット❞だったんです。
早速、現地のパートナー企業を選定し、貿易条件を折衝しました。パートナー選びは、信頼できる企業からのご紹介に限っています。ちなみに、この姿勢が当社の社名「イントループ」の由来にもなっています。「イントロダクション(紹介)」を「ループ」させているわけです。物流コストを抑え、商品価格は日本よりも低く設定しました。低価格戦略でシェアを獲得し、その分野のトップブランドを目指したんです。中堅・中小企業の場合、現地での販路開拓は難しい。当社は現地有力者とのコネクションを活用し、大手スーパーチェーンや百貨店での販路を開拓しました。
商標登録も手続きが大変です。正規の手続きを踏んでも、登録が認められないケースがあるからです。そこで数パターンの商標を作成し、商標登録のプロが認可可能性の高い商標を選定。クライアントの要望を踏まえ、ひとつの商標に絞りました。日本での評価が高くても、中国人の舌に合うかどうかは分かりません。そこでレストランシェフなど、上海の方たちに商品の味をチェックしてもらいました。そのアンケート結果をクライアントに報告し、中国向けに味を調整したんです。また、パッケージの色も中国で好まれる色に変更しました。他社さんの事例で「売掛金が回収できなかった」という話をよく聞きます。そこで、当社は現地企業と取引実績のある現地パートナー企業に商取引の間に入ってもらい、売掛金の未回収を防ぐことをお勧めしています。この仕組みは単なるコストではありません。現地企業が間に入ることで商売が拡大するチャンスもありますので、投資と捉えてお勧めしております。そうして、いよいよ店頭で販売されるわけです。以上が海外進出の戦略立案から販売までの流れです。