フィリピン人・ベトナム人は介護業界にはやって来ない!?
―介護現場では、人手不足が深刻です。2019年4月の改正入国管理法の施行は、人手不足解消の起爆剤になるのでしょうか。
難しいでしょうね。「ベトナムとフィリピンの人財に介護分野で活躍してもらう」というのが業界の期待です。しかし、それは期待外れになる可能性が高い。両国の人財とも、外食や宿泊といった、労働時間や労働量に比べて収入の多い業種を選びがちだからです。それに、両国とも豊かになってきていて、わざわざ日本に来て働く必要性がなくなってきました。来てもらえたとしても、「出稼ぎ意識」が強く、短期間で帰国してしまうのです。
―なるほど…。もはや、介護業界の人手不足を解消する手立てはないのでしょうか。
いいえ、じつは介護業界の救世主になりえる国があるのです。それはモンゴル。東南アジア諸国に比べ開発が遅れ、モンゴルの一人あたりの平均所得はいまでも年間で40万~50万円程度と、日本の1/10の水準です。そのわりに物価は高く、「日本で働きたい」という意欲をもつ人が多い。
しかも、モンゴルは大気汚染をはじめ、深刻な環境問題に悩まされています。私も現地へ行っていますが、屋外ではマスクを外せない。このため、「出稼ぎではなく、空気や水がキレイな日本に永住したい」という志向が強いのです。
―意外なところに有望な人財が存在しているのですね。しかし、モンゴル人もやはり、日本に来たら介護以外の業種に就いてしまうのではありませんか。
モンゴル人の多くは、介護という仕事を苦にしないのです。その背景には、大家族文化があります。子どもが祖父母と同居しているので、「若者がお年寄りの面倒をみるのは当然」と考えているし、たいていの人が実際に家族の介護を経験している。したがって、介護職を希望する人財が多いのです。
一方で、受け入れる日本の側からみても、モンゴル人人財にはほかにない優位性があります。まず、東南アジアの人々に比べると、日本人に容姿が近い。お年寄りのなかには、外国人に介護されることをいやがる方もいますが、モンゴル人ならば忌避感が少ないのではないでしょうか。しかも、日本語にたんのうな人が多い。相撲界には多くのモンゴル人力士がいて、彼らはじつに流ちょうな日本語を話していますよね。言語として相通ずるものがあるといわれていて、モンゴル人はそれほど苦労することなく日本語能力を身につけられるようです。介護のように、エンドユーザーと言葉でコミュニケートすることが非常に重要になる職種では、日本語能力の高さは大きな武器になりえます。
制度が改正されればモンゴル人の争奪戦が始まる
―そんな有望なモンゴル人人財と、介護施設の側が出会う方法を教えてください。
モンゴルへ出向き、現地の人財エージェントに連絡するか、私たちのような、国内の人財エージェントでモンゴルに精通しているところへ問い合わせてください。私たちは他社に先駆けて、2017年7月、モンゴル人人財を日本の介護専門学校に留学生として受け入れて、資格取得をサポートする事業を立ち上げ、東京都の経営革新計画の認定を受けました。
―モンゴル人人財を介護施設に迎え入れるために、注意するべきポイントはなんでしょう。
いまの段階から人財を確保するための手を打っておくことです。この4月の改正入管法の施行では、モンゴルは「母国で日本の介護技能評価試験を受験できる」対象国になりませんでした。従って、まず介護職の技能資格を得るために、日本に来てもらう必要があります。不合格だったら帰国しなければいけませんから、ただでさえ収入の少ないモンゴル人にとっては大きな負担になります。
この渡航費を介護施設側が負担することを検討してもいいと思います。不合格だった人財の往復渡航費は、介護施設側にとっては大きな負担になりますが、人手不足解消のための投資だと考えればいい。合格者を採用し、「当施設で働いているモンゴル人がいます」と実績をアピールすれば、以後のモンゴル人人財採用に大きな効果があるはず。いずれ、モンゴルで試験を受験できるようになれば、必ず日本の介護業界に「モンゴル人人財争奪戦」が起きるでしょう。そのとき、優位に立つことができるのです。
「長く働きたい」志向を応援するマネジメントを
―「人手不足に苦しむ現状を打破したい」と考えている介護施設の経営者にアドバイスをお願いします。
「日本の介護現場で長く働きたい」と希望している人財がたくさんいる国、モンゴルに目を向け、人財確保に一刻も早く手をつけてください。採用実績をつくることは、「モンゴル人人財のマネジメントの経験値」をいちはやくえることにもつながります。
マネジメント面でアドバイスすることがあるとすれば、「長く働きたい」という志向を応援してあげるスタンスをとるべきだということ。その点、私たちを通して介護施設が採用したモンゴル人人財については、私たちの正社員であるモンゴル人マネージャーがサポートにつきます。モンゴルと日本の文化の違いに悩んだとき、その両方に通じ、モンゴル語で相談に乗ってくれる存在がいれば、悩みを解消し、働き続ける意欲をもってもらうことが可能です。ぜひ、私たちに問い合わせていただきたいですね。
いま、モンゴルの若い世代の多くは国外で働くことを希望しています。それは、もともと私たちは遊牧民で、異国の地へおもむくことに抵抗がないという気質があるからです。それにくわえ、より切実な事情もあります。給料は安いのに物価は高く、貯金ができない。そのため、若者は親と同居して生活せざるをえません。国内にいる限り、自立できないのです。さらに問題なのが、環境汚染。寒い国ですから、冬を乗り越えるために石炭を大量に燃やします。このことが深刻な大気汚染をまねき、冬場にもなると10m先の視界もきかないほど。だから、国外に脱出したいのです。
そのなかで、日本はいちばん人気がある国のひとつ。空気も水もきれいですから。そして、モンゴル人が日本国内でその能力を最大限に発揮できるのが、介護の現場だと思います。私たちモンゴル人は幼いころからおじいさん、おばあさんとともに過ごし、世話をするのが当たり前という環境のなかで育ったからです。
これから多くのモンゴル人人財が日本の介護現場で働くことになると思います。そのとき、介護施設を経営する側とモンゴル人人財との橋渡し役となるのが私の役割です。モンゴル人人財の相談相手になり、不満を解消して、長く働き続けるように導いていきます。たとえば、日本人は時間管理が厳格。それに比べれば、モンゴルは時間にルーズな文化だといえます。でも、「ここでは時間に正確に動かなければいけないんだよ」と教えれば、それに適応する能力はあります。大昔から私たちは遊牧民として、そうやって異国の地に適応してきたのですから。