―御社は「企業オリジナルのお中元」を作っていると聞きました。どのような企業がオリジナルお中元を活用しているのですか。
西川:共通点は「贈答品に対する投資対効果をシビアに見ている」という点ですね。せっかく会社として予算を使うのだから、ありきたりの既製品は避けたい。何か工夫をして自社の印象を残したい。そういった考えをお持ちの企業が多いですね。
もともとお中元やお歳暮は、日頃の感謝の気持ちを伝えるものです。しかし、多くの企業は流れ作業のように、既製品に「のし」を巻いて贈っている。だから、相手に感謝の気持ちが伝わっていない。もらった相手も「のし」を外せば、どの会社から贈られたお中元なのか分かりません。分かるのは商品や百貨店のブランドだけ。これではもったいないですよね。
―「自社オリジナルのお中元」を作る場合、いくらぐらいかかるのでしょうか?
西川:1箱当たり1500円~3000円ぐらいですね。一般的なお菓子のお中元の場合、相場は2000円~4000円。つまり、既製品と価格が変わらないんです。もちろん、パッケージとお菓子は完全なオリジナルデザイン。数量は100個から対応しています。
―御社は1社1社のクライアントごとにお菓子やパッケージのデザインが異なるお中元を作っています。なぜオリジナルなのに低価格で販売できるのですか?
西川:理由は3つあります。1つ目は、顧客への直接販売。一般的にお中元の販売価格には、多数の中間業者の利益が上乗せされています。問屋、百貨店、ギフトショップなど、流通を担う複数の会社がそれぞれの利益を上乗せしていく。結果として、最終価格が3000円や4000円になるんです。一方、私たちは中間業者を介さず、商品を顧客に直接販売しています。だから、販売価格を低く抑えられるんです。2つ目は、企画・デザインの内製化。私たちはオリジナルお菓子のプランナー、デザイナーを自社で雇用しています。だから、お客様の多様なニーズにも柔軟に対応できるんです。他社に依頼しているのは、お菓子の製造のみ。私たちは全国200社以上のお菓子メーカーさんと提携しており、あらゆる種類のお菓子を作ることができます。3つ目は、豊富な「型」の保有。特殊な形のパッケージを作る際は、型をゼロから作る必要があります。この型を作るために別途5~10万円の費用がかかってしまう。これでは小ロットと低価格の両立ができません。一方、私たちは4000種類以上の型を保有しています。そして、ほとんどのパッケージは4000種類の型を組み合わせて作ることができます。つまり、クライアントが型代を負担しなくて済むんです。
―なるほど。流通の中間マージンと製造原価の削減によって、低価格を実現しているわけですね。
西川:ええ。ただ「自社オリジナルのお中元」の本来のメリットは、価格が安いことではありません。本来のメリットは、お中元という礼儀正しい手段で自社の個性を伝えられることです。つまり、相手に感謝の気持ちを伝えながら、企業ブランディングができる。一石二鳥なんです。個性豊かなお中元をお送りすれば、自社の個性やサービス名まで強く印象に残せるんです。
―御社のこれまでの実績をみると、まったく同じパッケージデザインはありません。どうやって企業それぞれの個性をカタチにしているのですか?
西川:まずクライアントのニーズをヒアリングします。つまり、お中元の目的を明確化する。たとえば既存顧客との関係を強化したいのか、一般的な時候のご挨拶なのか、販促につなげたいのか。
そして、事業やサービスの特徴をヒアリングし、その特徴を立体的な造形で表現します。たとえば、運送会社ならトラックの形、IT系の会社ならパソコンの形など。私たちはこれまでに2500社、4000種類以上のオリジナルお菓子を作ってきました。ですから、ヒアリングをもとにアイデア・企画を出すことを得意としているんです。
さらにクライアントの顧客層や競合他社を踏まえ、お中元を贈る時期や渡し方までご提案する場合もあります。たとえば、少し早い時期にお中元を贈って、相手に印象を残す。オリジナルデザインの袋にお中元を入れて、営業マンが直接手渡しする。このように、工夫次第で相手への印象を強く残せます。多額の費用をかける必要はありません。
企業は100社あれば、100社すべてが違います。それぞれに特徴があり、必ず強みがある。それを私たちはお菓子という手段で表現していきたいと考えています。「自社オリジナルのお中元」の認知度はまだまだ低いですが、今後もっともっと世の中に広げていきたいですね。
CASE1 ウィズの場合
ウィズは人の温もりとユーモアを大切にする人材派遣会社。1989年の設立以来、人材派遣を軸に総合人材サービスを提供している。同社は2009年から「自社オリジナルのお中元」を活用し、効果的な自社プロモーションを行っているという。今回は代表の髙橋氏に話を聞いた。
―なぜ御社は「自社オリジナルのお中元」を作ったのですか?
髙橋:理由は2つあります。1つ目は、自社プロモーションに活用できるから。一般的な人材派遣会社というのは、サービスそのものでの差別化が難しい。だから、厳しい競争を生き残るためには、自社の認知度を高める必要があるんです。そのため、当社では社長の私のメッセージや自社キャラクターを通して、明るくユーモラスな個性を発信してきました。今回の「自社オリジナルのお中元」も、そんな自社プロモーションの一環として作りました。
2つ目の理由は、既製品と価格が変わらないから。これまで当社は2000~3000円の既製品をお取引先に贈っていました。商品は、おせんべい、洋菓子の詰め合わせ、ミネラルウォーターなどでした。一方、オリジナルお中元の価格は約1500円。オリジナルなのに、これまでの既製品と価格が変わらなかったんです。
―このお中元に対して、どのような反応がありましたか?
髙橋:ほとんどのお取引先に好評でした。「ウィズさんは面白いことをするね」と。また当社の営業マンが喜んでいました。実は営業部からの要望があって、このお中元を営業マンが直接お渡しすることにしたんです。彼らは「お取引先との会話が弾んだ」と言っていましたね。実際、その時の雑談がきっかけで新たな発注をいただいたケースもありました。
―不況の影響でお中元そのものを控える企業が増えているようです。御社はお中元をやめようとは考えなかったのですか?
髙橋:考えなかったですね。もちろん厳しい不況の中、当社も経費削減は進めています。しかし、削減すべき経費は他にある。当社のお中元は1箱1500円です。約600箱をお贈りしているので、総額は約90万円。これを広告宣伝費と考えれば、非常に安いですよ。
―お中元は効果的なプロモーションツールになると。
髙橋:ええ。中にはユニークなお中元に眉をひそめる方もいるかもしれません。しかし、形式だけのお中元ではお取引先に感謝の気持ちも伝わりません。メッセージを伝えるためには工夫が必要なんです。今後も当社は「自社オリジナルのお中元」を活用し、当社らしいメッセージを発信し続けたいですね。
CASE2 日本パープルの場合
機密文書処理のサービスでシェアNo.1を誇る日本パープル。同社は2004年から「自社オリジナルのお中元」を作り、プロモーションツールとして活用している。今回は広報担当の野澤氏に話を聞いた。
―なぜ御社は「自社オリジナルのお中元」を作ったのですか?
野澤:理由は2つあります。1つ目の理由がプロモーション効果。表現は悪いですが、お中元には❝ショットガン(散弾銃)❞のような特性があります。お中元をお取引先にお贈りした場合、中のお菓子が複数の社員さんに配られるからです。つまり、プロモーション効果の広がりが期待できるわけです。ただし、既製品を贈っても当社のプロモーションにはなりません。お菓子を配られた社員さんには、どの会社のお中元なのか認識できないからです。
一方、「自社オリジナルのお中元」ならば、現場の社員さんにも当社の名前やサービス名を覚えてもらえます。
2つ目の理由はグレードです。当社のオリジナルお中元は1箱で約1000円。決して高いものではありません。それにも関らず、贈り先には一般的な既製品以上のグレードだと受けとめられています。その理由は菓子メーカーや百貨店のブランドではなく、当社自身のブランドを表現しているからです。つまり、オリジナルお中元は既製品と同じ尺度で格付けされないんです。
―このお中元に対して、どのような反応がありましたか?
野澤:もう6年もこのオリジナルお中元をお贈りしていますが、お取引先からは毎年好評を頂いています。楽しみに待って頂いているお取引先が多いですね。 また当社の営業マンも喜んでいます。既製品の頃は、お中元は形式的にお渡しするだけでした。商談の最後に「つまらないものですが…」と。しかし、このお中元を作ってから、商談の最初にお渡しするようになったんです。このお中元がきっかけとなり、ご担当者との会話が弾みますからね。
―不況の影響でお中元そのものを控える企業が増えているようです。お中元をやめようと考えたことはなかったのですか?
野澤:不況だからと言ってお中元を贈るのをやめたり、商品のグレードを落としたりするのは、逆にリスクが高い。お取引先に悪い印象を与えてしまう恐れがあるからです。「会社の経営が厳しいんじゃないか」、「ウチの扱いが低くなったんじゃないか」と。その点、この「自社オリジナルのお中元」なら、そんな心配もいりません。むしろ当社に好感を抱いてもらえます。今では取引先の現場社員の方にまで、当社のサービス名を覚えてもらえるようになりましたね。