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ヤマトホールディングス株式会社 代表取締役会長 瀬戸 薫

「サービスが先、利益は後」の哲学でイノベーションを起こし続ける

市場に競合がひしめきあうなか、40年近くもトップシェアを占め続けるのは至難の技。それを実現しているのが、宅配便市場のパイオニア・ヤマトグループだ。「宅急便」は人々の生活に欠かせないインフラとなり、2012年3月期の同グループ連結売上高は1兆2600億円を突破。次々と新しい商品やサービスを投入、イノベーションを起こし続け、ライバルたちの追撃をはねつけている。なぜ“クロネコ”は顧客の支持を集め続けることができるのか。18万人の巨大グループを束ねるヤマトホールディングス会長の瀬戸氏に聞いた。

※下記は経営者通信24号(2013年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

1976年の「宅急便」開始以来、宅配便市場でトップシェアを維持し続けています。なぜ、これほど強いのですか。

―1976年の「宅急便」開始以来、宅配便市場でトップシェアを維持し続けています。なぜ、これほど強いのですか。

瀬戸:ハッキリした理由があります。荷物を受け取る利用者、つまりエンドユーザーの利便性向上を図るイノベーションを継続してきたことです。運輸業では収益源である配送料金を支払ってくれる荷主を「顧客」といいますが、当社は顧客以上に、エンドユーザーの使い勝手向上を目指してきました。ここが当社の強みです。 あらゆる企業は収益拡大のため、差別化にしのぎを削り、顧客を取り込もうとします。しかし、運輸業の場合、「荷物を預かり、お届けする」というビジネスモデル自体は変えようがありません。こうした差別化困難な環境下では、どうしても価格競争が起きやすくなり、顧客囲い込みのための運賃値下げ合戦が発生します。そして、その裏側でエンドユーザーの利便性向上は後回しにされてきました。 たとえば、宅急便が登場する以前は、「集荷してからお届けするのは1週間後が当たり前」など、早く荷物を届けたいという顧客ニーズはもちろん、早く受け取りたいというエンドユーザーのニーズも汲み取られていませんでした。

―値引き競争の一方で、物流システムの改革は後回しにされていたのですね。

瀬戸:そうした構造を変革したのが宅急便。全国一律で翌日配送を実現するなど、宅急便は顧客とエンドユーザーの利便性を飛躍的に高めたと自負しています。ただし、宅急便の実現には、さまざまな困難がともないました。物流システム網を築くには巨額の投資が必要だったのはもちろん、官僚の規制と戦うことも不可避だったからです。会社の存亡を賭けて、あらゆる経営資源を宅急便に投下しました。こうした、利便性を最優先する企業姿勢を保ち続けてきたことが、トップシェアを維持してきた最大の要因だと分析しています。

―収益源ではないエンドユーザーのための投資が、なぜNo.1の源泉になりえたのですか。

瀬戸:利便性の高い宅配サービスを使えば、エンドユーザーは顧客である荷主に対して好印象を持ちますよね。「あの会社から買うと便利だ」「次もあの会社に注文しよう」となる。つまり、エンドユーザー重視のサービスは、顧客のビジネス拡大にもつながるんです。その結果、注文増で荷物が多くなり、当社の取扱個数も伸びる。こういう論法です。

―時間がかかる方法ですね。

瀬戸:確かに、一見すると、回りくどい方法かもしれません(笑)。しかし、宅急便の創始者である小倉さん(小倉昌男元会長(注1))は、つねに「サービスが先、利益は後」といっていました。「ヤマトにまかせれば安心だ」という信頼感を築き、顧客に取引を継続してもらうためには、絶え間なくイノベーションを行い、サービスの質を磨き続けるほかないのですから。 こうした考え方は、当社の「DNA」とも呼べるものです。会社の収益より先に顧客の利益やエンドユーザーの使い勝手を考える風土が、ヤマトグループのすみずみに根付いています。

(注1)小倉昌男元会長:ヤマト運輸株式会社(現:ヤマトホールディング株式会社)の社長として、1976 年、民間初の個人向け小口貨物配送サービス「宅急便」を創始。同社が売上高1兆円を超える大手運輸会社に発展する基礎を築く。宅配便の規制緩和をめぐっては、運輸業の許認可権を持つ旧運輸省(現:国土交通省)や旧郵政省(現:総務省)と激しく対立。圧倒的な世論の支持を集め、規制緩和を実現する土台をつくった。1987年、会長に就任。2005年に逝去。

―ヤマトグループの従業員数は約18万人。それだけの人員を束ね、DNAを浸透させるのは大変だと思います。どんな取り組みをしているのですか。

瀬戸:一貫した組織哲学に基づく経営をすることで、自然とDNAが伝わり、継承されるようになっています。大企業の組織図は通常、ピラミッド型です。頂点は経営陣で、真ん中にマネジャー、その下に現場で働く人たちがいるカタチです。しかし、ヤマトグループは違います。当社の組織図は逆三角形。一番上は、顧客とエンドユーザーの総称である「お客さま」、その次に位置するのは、最前線で荷物を運ぶセールスドライバー(以下、SD)たち。われわれ経営陣は最下層に位置し、最前線にいるSDたちのバックアップに徹する役割を担っています。

―現場ではSDの権限が強いということですか。

瀬戸:そうです。実際、SDには多くの権限を移譲しており、自主的に業務判断できる仕組みになっています。顧客やエンドユーザーから聞いた要望に、即時対応するためです。これを当社では、「全員経営」「サービス第一」という理念に集約しています。現場に権限がなく、上が押さえつけている組織では、仕事をやらされている感が強く、士気が低下。サービスレベルも業績も上がりません。当社の生命線は「全員経営」で働いている、現場のSDたち。SDがお客さまの声を吸い上げ、新商品開発のきっかけをつくることもしばしばです。

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