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ワタミ株式会社 取締役会長 渡邉 美樹

「新規事業」と「海外進出」の成否は企業理念の貫徹で決まる

株式公開した1996年以来、16期連続で増収を達成、経常利益は2006年3月期から6期連続で過去最高益を更新―。日本経済が「失われた20年」から脱け出せない中、「和民」などを運営するワタミグループの好調な業績が光っている。介護、宅食、農業など国内事業の多角化と、外食ではアジア進出を中心とした海外展開のアクセルを踏み続け、攻めの経営を貫いている。なぜ、ワタミグループは成長を続けることができるのか。創業者の渡邉氏に、強さの理由を聞いた。

※下記は経営者通信21号(2012年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

―2012年3月期では過去最高の売上高約1400億円以上を計上。経常利益も約78億円と過去最高益でした。しかも、この不況下で、どちらも前年比2ケタ増。なぜ御社は目覚しい成長を続けることができるのですか。

渡邉:介護事業や宅食事業が業績を牽引しました。ワタミグループの創業事業である「和民」を中心とした国内外食事業(注1)は減少傾向にあります。ピークは売上高約930億円を計上した2008年3月期で、今年3月期は780億円に減少。この4年間で20%以上のマイナスとなりました。一方、介護事業は、2008年3月期の売上高105億円から今年3月期には285億円と約2.7倍に拡大。宅食事業も、2013年3月期の売上高105億円から今年3月期には262億円と、約2.5倍に成長しました。営業利益ベースでは、国内外食事業が約36億円だったのに対し、介護事業は約49億円を計上。初めて介護事業が国内外食事業の営業利益を上回りました。宅食事業も、2013年3月期では国内外食事業を超える勢いで伸びています。

(注1)事業会社はワタミフードサービスとWATAMI USA GUAM の2社。

―成長市場を狙って推進した多角化が好調な業績につながっているのですね。

渡邉:いや、そうではありません。ワタミグループのスローガンは「地球上で一番たくさんの“ありがとう”を集めるグループになろう」。より多くの「ありがとう」を集めるために介護事業や宅食事業に進出したのであり、収益拡大のために参入したのではありません。単にビジネスチャンスを狙っていただけなら、介護保険制度がスタートした2000年の段階から参入していたでしょう。でも実際に参入したのは、介護ビジネスブームが下火になった2005年。私が進出を提案した時は、他の役員からこぞって反対されました。ブームが過ぎたとされる事業に、当時の自己資本のおよそ半分に当たる93億5000万円を投資しようというわけですから、周囲からは無謀に見えたかもしれません。 介護事業を始めたのは、ご入居者のおじいちゃん、おばあちゃんたちの「ありがとう」を集めたかったからです。きっかけは病院経営(注2)を通じて在宅介護の現状を知ったことです。高齢者の方が介護保険によって十分幸せであったなら、参入する必要はありませんでした。でも、現実はまったく違ったので、参入を決めたのです。後から振り返れば、ベストタイミングでの参入だったのかもしれません。しかし、それはあくまでも結果論に過ぎません。大事なのは、事業の中に思いがあるかどうか。時代や世間がどう移ろおうが、この思いを本気で持ち続けていることがワタミグループの強みであり、不況下でも業績が伸びている理由です。

(注2)病院経営:渡邉氏が出資、理事長に就任し経営参加している岸和田盈進会病院のこと。

―ワタミグループは2001年の香港進出に始まり、アジア各地に店舗を展開しています。アジア進出を成功させる秘訣は何ですか。

渡邉:私が海外進出で大事にしているのは“ワタミらしい”ということ。海外のパートナーに対しても、理念を共有する仲間であることを求めます。こう考えるようになったのは、初めて海外に進出した香港での失敗がきっかけですね。 香港に進出する際、別のビジネスで成功した香港人経営者に全権を委ねました。彼は500人超の社員を抱える企業の社長でしたが、「中国でワタミを展開したい」と当社に入社。皿洗いからスタートし、本気でワタミ流経営を学びました。これなら香港出店を彼に任せても大丈夫だ、と安心していました。ですが、彼からひとつだけ気になる注文がありました。「ワタミのビジネスモデルは中国でも通用するが、理念教育はやめてほしい。中国人は会社をキャリアアップの場だとしか考えない。会社に愛情を持たせようとしてもムリだ」と言うのです。

―郷に入れば郷に従え、の論理ですね。

渡邉:私も当時は「そんなものかな」と同意し、それから4~5年は彼のやり方を見守りました。 しかし、ついに我慢ができなくなった。会社に愛情がないだけでなく、お客さまへの愛情もない会社になり果ててしまったからです。そこで、私は日本とまったく同じマネジメント手法を香港に持ち込むことを決め、現地に飛びました。1000人からなる香港の中国人社員を一堂に集め、彼らの前で「お店はお客さまに出会いや安らぎやふれあいを提供する場だ。しかし、あなたたちは自分のお金のことばかり考えている」と、たんかを切ったのです。「こんなのはワタミじゃない。中国人社員がワタミの理念を理解してくれないなら、撤退してもいい」という覚悟でした。 実際、半分ほどの社員がすぐに会社を去りました。しかし、そこからコツコツと汗をかいて仕事をする文化が、香港のワタミでも育ち始めたのです。結果として、いま香港のワタミは、お客さま思いの素晴らしい会社になっています。

―どのように変わったのですか。

渡邉:ワタミが進出した当時の香港のレストランといえば、横柄な店員が多いことで有名でした。香港のワタミも、そうした店になっていた。しかし、「ありがとうを集める」という理念のもと、高級レストランや料亭並みの接客やお客さまへの心配りを行うのが、本当のワタミです。辞めずに残った社員はワタミの理念を少しずつ理解し、接客態度も日本並みに向上したのです。すると、お客さまへの心配りが評判となり、繁盛店になりました。こうした香港での失敗と成功から、海外進出するにあたって一番大事なことは、企業のDNAを崩さないこと。そのまま現地に持っていくことだと悟りました。

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