株式会社ジャパネットたかた 代表取締役 髙田 明

徹底した顧客目線に立ち、独自の市場を創造せよ

株式会社ジャパネットたかた 代表取締役 髙田 明

「自前主義」、「メディアミックス」の事業方針を徹底し、お茶の間にメッセージを送り続けるジャパネットたかた。非上場をあえて堅持しながら、身の丈に合った経営で成長を遂げてきた総合通販会社の雄が、次に描く経営の一手とは何か。今回は代表の髙田氏に、成長企業の経営論をはじめ、企業のコミュニケーション論、人材論などを幅広く聞いた。

※下記は経営者通信22号(2012年11月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

―御社は創立から26年で、年商1500億円規模の総合通販会社となりました。なぜ、これほどまでに成長することができたのでしょうか。

髙田:創立時から変わらぬ信念を持ち続けていることが、現在に至った理由だと考えています。その信念とは、「自分たちの想いを自分たちのペースで成長させていく」こと。そして、自分たちの想いとは、「お客さまのために本当に向き合った企業でありたい」ということです。

私はこの信念に基づき、お客さまに真剣に向き合って何ができるかを追求し続けることが、企業としての価値を生むと考えています。ですから、これまでお客さまにいただいた評価は、それを考え続け、実践してきた結果なのかもしれませんね。もちろん当社が今の体制を築けたのは、私の力だけではありません。社員の力や、ステークホルダーなどのご理解があったからこそのことです。

―変化が激しい今の時代に、そのような信念を維持することは難しいのではないでしょうか。

髙田:時代が激しく変化するなか、お客さまの価値観も変わってきます。ですから、その実態に寄り添い、企業自身も変化しなければなりません。企業は、お客さまと向き合い、求められているものを読み取る。このことは、どの時代でも変わることはありません。長期的に売上や利益が上がらない原因は、その企業が目の前の数字を求めすぎるあまりに、お客さま目線を忘れているからではないでしょうか。構造的な不況が原因の場合もありますが、数字とお客さま目線のどちらに力点を置いた経営をするかで、結果が変わってくると思います。当社の経営目標は、売上を上げることだけではありません。お客さまの幸せに貢献することが、結果として売上につながってくるという理念を持って取り組んでいます。

―現在、御社が解決に取り組んでいる課題はありますか?

髙田:ぶれない企業理念をつくることです。当社の※クレドに掲げているような想いや取り組みを、変化する時代のなかでぶれずに正しい方向に持っていくことが当面の課題ですね。そのために、今年は全社の標語として「一生懸命」という言葉を掲げました。とにかく理念に向かって一生懸命に動けば、私はどんな厳しい状況も乗り越えられると思うのです。なぜかというと、一生懸命になることで課題をクリアするためのモチベーションや強い心、探究心が生まれます。

そして、私は一生懸命の先に目指すものとして、「全社員がプロになること」を目標として言い続けています。当社の全従業員が真にプロ化した集団になったとき、お客さま目線に応える体制がさらに強化できるのではないでしょうか。

―御社は幅広いメディアを駆使したメディアミックスという販売展開をしていますね。2000年からネットショップを展開していますが、その現状を教えてください。

髙田:ラジオ放送で通販事業を始めて以来、テレビ放送、カタログ、チラシ、インターネットと良い流れでメディアミックスでの戦略を実現できていると思います。今後はますますITも進化していくでしょうから、ネットショッピングは非常に重視しています。そこで、これまで佐世保本社で行っていたショッピングサイトの企画・制作部門を、今夏から東京に本格移管しました。IT分野に強い人材を集め、お客さまのユーザビリティを高めたり、よりワクワクしたりするようなサイトを目指すためです。今後は東京にも自前のテレビスタジオを開設して、Web上への専用動画を配信したいと思っています。これまでのノウハウを活かして動画配信番組のエンターテインメント性を高めていけば、2年後には過去最高益を出せると考えているくらい、本気の取り組みです。将来的には番組の方向性も大きく転換して、もっと暮らしに密着した商品をご提供したいですね。

―今年は電気自動車の紹介を相次いで行って話題になりましたね。御社の商材としては珍しいものですが。

髙田:やはり、時代やお客さまが求めるものに向き合おうとしたからです。社会は時代とともに変わっていきますが、それは商品も同じ。商品を見ればその時代背景がわかるぐらい、時代の変化と連動しています。

電気自動車や太陽光パネルは、すでに東日本大震災の前から地球温暖化の問題で注目されていました。このように環境に配慮した商品が世の中に普及することは、良い変化だと思っています。たとえ目の前の利益につながらなくとも、媒体を通してメッセージを出すことができる立場にあるジャパネットには、それらの価値を伝え、広めていく役割もあると感じています。

―国内需要の低迷で、多くの日本企業が積極的に海外進出へと動き出しています。この傾向をどうとらえていますか。

髙田:海外進出の話は多方面から入ってきますし、実際に不可能とも思いません。店舗ならば海外でもすぐに出せますし、通販チャンネルならば自社で放送局を持って、現地の言葉に吹き替えればいい。しかし、ただ海外に進出して終わりではなく、販売後まで責任を持つ必要があります。当社が海外進出する場合、現状では販売後のアフターケア体制や運送インフラの整備などが課題。単発的に店舗を出して成功するとはまったく思いません。それよりも、まだまだ当社は国内でやるべきことがたくさんあります。私は日本の内需は決して弱くなく、もっと拡大できると考えています。結局、「どの経営課題を優先的に解決するか」という経営者の考え方次第。決して海外進出そのものを否定しているわけではありません。

―国内市場には、まだ拡大の余地があるのでしょうか。

髙田:はい。自ら新しい市場を創ればいいのです。これは視点を変えれば難しくありません。たとえば、このボイスレコーダー。普通これは会社員が会議で使うものだと思いますよね。でも当社でこの商品を購入される多くの方は高齢者。実は、物忘れ防止のために、自分の話した言葉をメモとして声で残すために使うご提案をしたんですね。このようなメッセージを伝えることで、ビジネスパーソンが使う製品をおじいちゃん、おばあちゃんが使っている。まさしく市場創造だと思います。海外に新市場を求めるのもひとつの方法ですが、それだけが市場創造ではありません。原点に返って国内に眠っているニーズを掘り起こし、提供していく姿勢があれば、チャンスはたくさんあります。ですから、当社は今も日本でやりたいことが山積みなのです。

―髙田さんをテレビショッピングで見ていると、「商品の魅力を視聴者に伝えたい」という気持ちが強く伝わってきますね。

髙田:「伝える」というコミュニケーションの大切さは、もっとも切実に考えていることです。現在の日本は伝える力、伝えなければいけない責務といったものが、非常に弱い気がしてなりません。

戦後から振り返ると、日本は失われた20年の今が一番苦労していますが、それはモノづくりの力が弱まったのではなく、伝える力が非常に弱くなったから。その要因には時代背景があります、これまでは伝えなくても、モノをつくれば売れた時代でしたが、IT化・グローバル化が進んで情報が埋もれがちになり、伝わりにくくなったのです。

―そんな時代に情報を「伝える」には何をするべきなのでしょうか?

髙田:もっとも大切なのが、「伝えたい」と本気で思うこと。上手に話す必要はありません。会社内のコミュニケーションでも同じで、私は従業員にいろいろと言いますし、怒りもします。でも私の言うことが彼らにとって良いことだと信じているので、伝えたいわけです。そうすれば心に響いて彼らは一生懸命になりますよね。私の伝えたい想いを従業員が同じレベルで共有してくれているので、それが当社のテレビショッピングやラジオショッピングのスタイルになっています。

また、自分で勝手に伝えたつもりになっていてはダメ。一方通行ではなく、相手が理解して初めて物事が伝わるわけですから、相手の身になってわかりやすくメッセージを伝えることも必要です。あとは伝えたい相手を好きになること。好きな異性には、自分の気持ちを一生懸命になって伝えますよね。振り向いてくれるまで語り続ける人もいます(笑)。でも、だからこそ心に響きやすい。ビジネスの場面でも、結局は恋愛と同じです。私は社員が好きですから言いますし、自分の子どもにも伝える。そこには利害などありませんし、それがジャパネットマインドであると信じています。

―御社は長崎県の佐世保市に本社を構えています。都心ではなく、地方の企業として生き残るにはどうすればいいのでしょうか。

髙田:現在は立地を問題にする時代ではありません。私が大学生の頃は大阪から佐世保まで急行で17時間かかりましたが、今は新幹線を使えば5時間。大阪だけでなく、佐世保から日本全国どこにも簡単に行けます。私は長崎県で生まれ、会社も佐世保市でスタートしたので、自然と根付いただけのことです。当社のコールセンターは福岡にありますが、佐世保市より人口が多く、お客さまの窓口になれる人材が多いという理由で設置しました。愛知県春日井市に物流センターをつくったのも、全国のお客さまに短納期でお届けできるから。また、インターネット部門の東京移管もお客さまにより楽しんでいただけるサイトを作るため。いずれも、時代の流れで変化したお客さまの要望に応えたいだけなのです。ですから、場所は関係ないと思いますよ。全国規模の通販会社は、四国や九州にはたくさんあります。それだけ地理的な不便さが解消されているのです。

―最後に、ジャパネットたかた流の人材の活かし方を教えてください。

髙田:人材を活かす最善の方法は適材適所です。しかし、適材適所で優秀な人材を採用しても、育成力が弱ければ属した環境に安住してしまう。逆に採用力が弱ければ、いくら育成できても一流の人材には育ちにくい。採用と育成は、いわば車の両輪のような関係なのです。まず、採用は海外も含めて行っても良いと思います。今は個人でも質の高い仕事が求められる時代なので、専門性の高いプロの人材を採用することが必要。国籍は関係ありません。一方、当社は歴史ある大手企業と比べてプロを育成する組織づくりが遅れていて、育成が当面の緊急課題。採用と育成の質をいち早く同レベルにしたいですね。

また、適材適所は企業と従業員が望むことにズレが生じがちです。しかし、両者が平等に語り合える組織でなければ、熾烈な競争社会を勝ち抜けません。そこで私は従業員に「自助の精神」を求めています。アメリカのケネディ元大統領が就任演説で、「あなたたちが国に何を求めるかではなくて、あなたたちが国に何ができるかを問いなさい」と述べていますが、それはまさしく今の日本や企業に求められていること。人には弱いところがありますが、「自分たちがやる」という強い気持ちがなければ、企業も自分自身も成長できません。そんな人材をつくるためにも、時間とコストをかけて教育を充実させたいですね。

髙田 明(たかた あきら)プロフィール

1948年、長崎県生まれ。1971年に大阪経済大学を卒業後、株式会社阪村機械製作所に入社。欧州駐在の後、退社して故郷の長崎県平戸市に戻る。1974年、父親が経営していた「カメラのたかた」に入社。1986年に株式会社たかたを設立し、代表取締役に就任。1990年にラジオショッピング事業、1994年にテレビショッピング事業に参入。その後も、新聞折込、CS放送、インターネット、モバイルサイトなどのメディアミックスでの戦略を展開し、通販業界のトップクラスに躍り出る。1999年には株式会社ジャパネットたかたに社名変更。

株式会社ジャパネットたかた

設立 1986年1月
資本金 1億円
売上高 1,531億円(2011年12月期)
従業員数 468名(パート・アルバイト含む、2012年7月現在)
URL http://www.japanet.co.jp/corporate
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