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著名経営者の経営者インタビュー

株式会社ビジネス・ブレークスルー 代表取締役社長 大前 研一

経営者は自ら動きビジネスをつかめ

閉塞感が漂う景況下、中小・ベンチャー企業への風当たりは依然として強い。グローバルな視点で経済をとらえる必要性を余儀なくされている今、中小・ベンチャー企業の活路はどこにあるのだろうか。今回は日本を代表する経営コンサルタントの大前研一氏に、中小企業やベンチャー企業が目指すべき方向性、経営者としての心構えや大前氏自身の生き方などを幅広く聞いた。

※下記は経営者通信19号(2012年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

―国内市場の縮小が進む中、中小・ベンチャー企業はどうすれば生き残れるのでしょうか。

大前:中小企業だという理由で、日本にとどまる時代は終わりました。もはや日本経済は成長しません。人件費を考えても、アジアの新興国など成長市場のある地域に進出するべきですね。たとえば製造業では、ミャンマーやバングラデシュが日本の10分の1ほどの人件費です。また、優れた技術があれば、それを生かせる場所を世界の中で1ヵ所確保すればいい。その街で、地場産業のように労働力を集約した仕組みを研究するべきです。ヨーロッパの話ですが、イタリアは多くの企業が従業員数15人以下と小規模で、企業が街の中で集まって産業拠点を構築。100社規模が集まる大きな街では商工会議所に商談を任せ、自社は製造に専念するというビジネスの仕組みがあります。このように、街を基盤として労働力を集め、「ニットで成功した街」、「ベルトのバックルの街」といった形で世界基準のブランドを築いた企業が多い。イタリアは零細企業が集団で知恵を絞った好例といえます。

―日本にも地域に労働力を集約して産業を確立したケースはあると思いますが。

大前:日本の風土は比較的、強い中小企業が生まれやすい。しかし厳しい景況のために築き上げた産業から多角化してしまい、世界的に通用する特長が失われています。かつて、ヨーロッパやアメリカには巨大なテレビメーカーがありました。トンプソン、フィリップス、RCA、GE、ゼニスなどですが、いずれも日本勢の台頭でマーケットを追われました。今はシャープやパナソニック、ソニーが台湾やチャイワン(※)、韓国勢に追いやられている。デジタル産業は習熟曲線(※)がほとんどないので、誰でも同じ性能のものを作りやすい。だから安価な方が勝つわけです。いずれにしても、心地よい日本でデフレを嘆いている暇があったら、こうした大きな変化の潮流を読み取り、まず自分から動くことが肝心でしょう。

※チャイワン:Chiwan。中国(China)と台湾(Taiwan)を合わせた造語。ここでは鴻海のような台湾企業が中国で展開している事業体を表す。
※習熟曲線:累積生産数量が増加するとともに、一定の割合で製造コストが下がること。

―すると、日本国内に成長産業を求めるのは難しいのでしょうか。

大前:難しいですが、まだ国内で未開拓のマーケットに注目するべきです。そのひとつが葬儀などのエンディングビジネス。「人生の幕引き」を広く解釈すればビジネスが生まれます。どのように人生を終えたいのか、生前から考えてもらうわけです。たとえば生命保険は子どもが巣立った後も必要でしょうか?死ぬまで年金が出ますし、貯金もあるはずなので生命保険は重複投資。それを解約して、満足できる人生のために使えばいい。しかし、人生は深く考えようにも相談相手がいない。そこで、たとえば人生を楽しむためのお金を貸すので、代わりに生命保険の受け手になって金利を2割いただく。いわば生命保険を担保としたリバースモーゲージ(※)です。こういった領域のビジネスは、まだほとんど手がつけられていません。

※リバースモーゲージ:自宅を担保にした年金制度の一種。自宅を所有していて現金収入が少ない高齢者世帯が、最後は住居を手放すことを条件に収入を確保する手段。

―日本にはまだ有望なマーケットがあるわけですね。

大前:ええ。着眼と発想次第でビジネスの可能性は広がります。サラリーマンはだいたい60歳で定年退職しますが、80歳まで生きてもリタイアしてから20年もあることを考えてください。現役時代は一日あたり8時間労働を40年行ってきました。休日をのぞいて年間で250日働いたとしても、8時間×250日×40年で約8万時間。これに対してリタイア後の生活は、1日当たりの自由な時間が睡眠や食事などの時間を除いて12時間だとします。それが年間で365日、20年あるので、12時間×365日×20年で約8万8000時間。つまりリタイア後にできる自由な時間の方が長い。毎日が日曜日でしかも無計画となれば退屈ですよ。そこで行動を起こすわけですが、たとえば釣りを始めたとしましょう。最初は楽しくても魚が釣れなくなれば飽きてしまうし、釣れても食べてくれる人がいないとつまらない。ゴルフが好きな人でも、いざ出かけてみたらメンバーはいつも同じ。同じ人と毎日一緒にプレーしていれば、会話もなくなってつまらなくなる。だから長続きしません。

実は、高齢者にとって最大の問題は病気ではなく「寂しさ」です。克服するには友達をつくるしかありませんが、ベッドタウンに長年住んでいても近隣に友達がいない人が大半です。実は日本で老後に寝たきりになって介護が必要な状態で亡くなる人は6人に1人。大多数の人が元気に暮らせるのです。アメリカやヨーロッパはそれをわかっているので、アクティブなシニアが集まり、若い人たちがいろいろなサービスに来る❝アクティブシニアタウン❞が各地にできつつあります。私たちは、このような仕組みをつくりたい。ビジネスというよりも文化的なものとして世界で見てきたので必ず日本でもできると思います。

―他にも日本国内で可能性が見込まれるマーケットはありますか?

大前:単身者を対象としたマーケットですね。いま日本で最も多い世帯が単身者層で34%。すると、単身者が仕事などの帰りに立ち寄れる「おひとりさま用」の外食店が頭に浮かぶ。なぜファミレスが斜陽産業になったかというと、ファミリーが少なくなったから。単身者が行った時に、隣の席にいたファミリーの子どもがうるさいと食事を楽しめません。カップルに近くでイチャイチャされたら腹が立ちます。二度と行きたくないですよね。「おひとりさま用」外食店の具体例として、知らない人同士が集まっても会話がうまく成立する雰囲気を持った高円寺のような街が出現してきています。見知らぬ人同士が街中で気軽に声をかけあい、座席の島ごとにさりげなく楽しめるようなイメージです。結局、アクティブなシニアや単身者は、お金が少々あっても根底に寂しさがあると思うんです。それを克服するのが、友達や知らないもの同士でも心を通わせられるコミュニティ。それはお客さまを観察したから見つけられたわけで、ビジネスチャンスはさまざまなところにあるのです。

ビジネス・ブレークスルーの考えるBtoC企業が海外で成功するための条件や戦略とは

―日本のサービス業、小売、飲食業といったBtoC企業が海外で成功するには、どのような条件や戦略が必要ですか。

大前:世界には、年間所得が3000ドルまでの中間所得層が14億人ほどいます。今後はどんな企業も、新興国を中心とした中間所得層をいかに取り込むかが重要。ただ、品質を落として価格を下げるアプローチは間違い。「安かろう悪かろう」ではなく、いいものを安く売る。ユニクロのように、品質はそのままでも余分なコストをカットして売価を下げる戦略です。飲食業の場合、日本でうまくいった店舗でもそのままのノウハウで海外展開すると失敗します。まず自分自身か現地の店舗を任せる予定の人が現地に居住し、流行りの類似店を1、2年ほど研究する。するとその理由がわかってきます。しかし、海外進出に失敗している飲食店のほとんどが不動産探しから始めている。お客さまの研究が先です。やはり相手のマーケットを学ぶことに時間をかけないと、うまくいきません。コンサルタントにも頼らず、最後は自分でやりきることです。サービス業では過剰な事業拡大は禁物。80年代、宮崎のシーガイアは銀行から多額の融資を受けて設備投資をしました。結果としてハワイを彷彿させる豪華な施設になりましたが、本物のハワイに行くよりも高額な偽物ができてしまった。まさに本末転倒です。オランダを真似たハウステンボスも同じ理由で失敗しました。航空運賃が下がり、❝本場❞に行く方が安くなってしまったのです。

―海外をマーケットとしてとらえると、日本にとって有力な地域や国はどこでしょうか?

大前:筆頭はインドネシア。人口が2億4000万人と多く、最近は購買力もついてきました。それと圧倒的に日本びいきで、国民の7割が「日本が一番好き」と言います。日本好きな国といえば一番は台湾。タイやインド、トルコも親日的です。意外なところではロシアが挙がります。ロシアにいい印象を持たない日本人も少なくありませんが、実はロシア人の7割が日本好き。理由はさまざまで、日本の商品が好きというのもそのひとつです。ミャンマーも悪くないのですが、すでに中国が深く入り込んでいます。

―では、海外を生産拠点としてとらえると、日本に適した地域や国はどこでしょうか?

大前:生産品目によって異なります。自動車部品は中国だと長春、天津、上海、広州などで、東南アジアではタイが圧倒的にいい。縫製はこれまで中国でしたが、次第にバングラデシュへ移るでしょう。縫製産業は中国の月給が1万円の頃に進出し、今は5~6万円ほどですから出て行かざるを得なくなっています。

―これまで多くの経営者の方と会われてきたと思いますが、成功する経営者にある共通点や必要条件があれば教えてください。

大前:明確な意思決定ができる人ですね。その時々で中途半端なことを言わず、部下への指示もはっきりしている。漠然とした言葉ではなく、いかに細部まで指示を出せるか。出てきたものに対していかに意志決定ができるか。一方で、何か問題が起こった時にその解決策を社員にゆだねる経営者がいます。家族にたとえれば、息子が問題を起こした時に、ひどい父親だと母親に責任をなすりつけて何とかしろ、と言う。これではいけません。つまり、経営者は従業員全員を自分の子どものように思い、行動しなくてはいけません。一方、お客さまは買ってくれた商品を通じて自分の給料を払ってくれている人、という気持ちが大切です。

また、自社商品が売れていないとしましょう。そこで対策を即言できる経営者は成功しません。どんな作業をやって、どんな実験をしたのか。そんなプロセスを経た中で得られる結果から、ようやく本当の対策が判明するのですから。①「トラブルには自分自身で向き合う」②「お客さまのことを理解する」③「事業目的に自身の個人的目標を持ちこまない」―これこそ、成功する経営者の3大条件です。そもそも事業の目的を勘違いしている経営者が多い。たとえば売上目標は本当に事業の目的ですか?店舗数の多さを誇らしげに話す飲食店の経営者もいます。でも、それは自分の目標であってお客さまのことを考えた事業ではない。「会社帰りのお客さまにリラックスしてもらえる店舗をつくろう」。これが真の事業といえます。その店舗がいくつあるかは関係ありません。

―大前さんは現在もさまざまな活動に取り組まれています。精力的な活動を支える原動力は何でしょうか。

大前:人生の最後に、どう言って死にたいかを考えて生きています。私はやりたいことを全部やりましたし、最後は「俺の人生、よかったな」と言って死にたい。だから今は何を頼まれても引き受けません。逆に自分のやるべきこと、やりたいことは頼まれなくてもやる。去年は福島第一原発の原子炉を専門的に分析してレポートをまとめました。このレポートで新しい基準ができていますから満足です。それに、一人でやればしがらみのない立場で自己満足できるものがつくれる。下手に委員会のメンバーになったり、誰かと徒党を組むと自分と違う考え方に妥協しないといけません。ですから納得する人生を生きようとする信念が、人生の糧になっていると思います。

大前 研一(おおまえ けんいち)プロフィール

1943年、福岡県生まれ。早稲田大学を卒業後、東京工業大学大学院で修士号を取得。その後、マサチューセッツ工科大学大学院で博士号を取得。株式会社日立製作所を経て、1972年にマッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社。ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任する。1994年にマッキンゼー・アンド・カンパニー・インクを退職。同年、英国の経済誌「エコノミスト」にて、現代社会の5人のグールー(思想的指導者)に選ばれる。2002年に中国遼寧省および、天津市の経済顧問に就任。2005年に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラム(現在のビジネス・ブレークスルー大学大学院)を開講し、学長に就任。現在は株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長、株式会社大前・アンド・アソシエーツなどの創業者兼取締役。日本国内はもとより海外での評価も高く、経営や経済に関する多くの著書が世界各地で読まれている。

株式会社ビジネス・ブレークスルー

設立 1998年4月
資本金 14億7,752万円
売上高 24億6,403万円(2012年3月期)
従業員数 78名(2012年3月31日現在)
事業内容 ●マネジメント教育事業
●マネジメントコンテンツのプロバイダー事業
●通信衛星を利用したデジタル放送の委託放送事業
●遠隔教育システムコンサルタント及びサービスプロバイダー
●ビジネス・ブレークスルー大学運営
●ビジネス・ブレークスルー大学大学院運営
●ビジネス及びマネジメント専門コンテンツの企画・制作
●ビジネス及びマネジメントE-learning事業
●インターネット放送、衛星放送によるコンテンツプロバイダー
URL http://www.bbt757.com/

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